『カタリスト(上・下)』〈デス・スターに眠るフォースの意思?〉【カノン小説】

カノン小説
記事内に広告が含まれています。

カタリスト(Catalyst)というこの聞きなれない単語は、

  • 触媒
  • 促進
  • 物事を大きく進めるきっかけとなった人や物

という意味であるそうです。何を触媒するのでしょう? 何を促進するのでしょう? 誰が、何が、物事を大きく進めるのでしょう?

すべての疑問は帝国の恐るべき超兵器〈デス・スター〉に集約されて行くのです。

引かれ合う星々

物語の主要人物は映画『ローグ・ワン』の主人公の一人ジン・アーソの父ゲイレン・アーソとその妻ライラ、そして彼らの友人にして悪しき理解者となるクレニックの三人です。銀河内戦の趨勢を巡る群像劇であった『ローグ・ワン』と同じく、本作もまたこの三人の野心・葛藤・苦悩の絡み合いを描く群像劇となっています。

物語の幕開けはクローン戦争のさなか。ゲイレンとライラは戦乱を嫌い中立地帯での新時代エネルギー開発に勤しんでいましたが、傍若無人な戦火はそんな彼らの安住の地を踏み躙ります。分離主義勢力に囚われたゲイレンは身重の妻を半ば人質に取られる形で戦争協力を強いられますが、間一髪のところを旧友である共和国軍少佐クレニックによって助け出されます。しかし極秘裏に最高議長パルパティーン肝煎りの超兵器開発に携わってるクレニックもまた、彼の頭脳を欲する一人であったのでした…。

本作はそもそも『ローグ・ワン』公開直前に出版された作品であり、コアなファンたちにとっては映画を見る前の格好の予習作品であったことでしょう。スピンオフ作品『クローン・ウォーズ』シリーズにまつわるエピソードや、ウィルハフ・ターキンをはじめとする様々な有名キャラクターの存在をスパイスとしながら、いかにして『ローグ・ワン』へと至る状況が作られて行ったかが克明に物語られます。

なぜ戦争協力を嫌うはずのゲイレンはクレニックの要請に応じて〈デス・スター〉開発に手を貸したのでしょうか。そこにはクレニックの恐るべき野心と欺瞞に満ちた策略が潜んでいたのでした。なぜ『ローグ・ワン』冒頭でゲイレンとライラは帝国から遠く離れた辺境に逃れていたのでしょうか。いや、逃れられていたのでしょうか。そこには多くの人々の葛藤に満ちた選択と決断が潜んでいたのでした。

科学者としての溢れる才能に光り輝くゲイレンを「主星」として、彼の能力を破壊と征服と出世のために利用しようと目論むクレニック、愛する夫に道を踏み外させまいとする妻ライラという二つの「星」が互いを引き寄せ合い、遠ざけ合うかのように物語は展開します。

そしてもう一人の主人公と呼んでも過言ではないのが「生ける水晶」の異名を持つ「カイバー・クリスタル」の存在。ライトセーバーが放つ光刃の原動力であり、本作では〈デス・スター〉が放つスーパーレーザーの原動力として利用されることになるこのクリスタルは鉱物でありながらフォースと深く繋がり、どうやら「意思」すら持っていると思しき摩訶不思議な存在であり、物語が進むにつれて大きな存在感と影響力を発揮して行くのです。

明確にフォースに言及することのなかった『ローグ・ワン』ですが、本作でカイバー・クリスタルが果たす役割に思いを馳せれば〈デス・スター〉を巡る物語の背景に「フォースの意思」を感じることも可能でしょう。愛すべき二つの「星」に引かれ合い、カイバー・クリスタルの神秘に圧倒されて行く「輝ける主星」はどのような軌道を描いて行くのでしょうか。そして恐るべき「死の星」はどのようにして作り上げられて行くのでしょうか。

〈デス・スター〉を破壊せしめたもの

余談ながら本作および『ローグ・ワン』に触れて思い浮かぶのは「ダークセーバー」という言葉に対する思いです。カノンではかつて最初期のライトセーバーとして製造されその後マンダロア王権の証として登場しましたが、そもそもは『カリスタ三部作』と称されるレジェンズ小説シリーズに登場したものです。帝国軍残党が製造した〈デス・スター〉の主砲のみを抜き出して再建された超兵器であり、円筒形の砲身から強力なエネルギーを放出する様がまるで巨大にして邪悪なライトセーバーのようであるということから命名されました。

レジェンズ設定では単なる強力なレーザー兵器として描かれたスーパーレーザーは、カノン設定においてライトセーバーと同じくカイバー・クリスタルから放たれるエネルギーとされたことで、〈デス・スター〉は名実ともに「ダークセーバー」と呼ぶべきものへと生まれ変わったように思えます。

その莫大なエネルギーゆえにジェダイが守り続け、シスによって破壊の化身へとつくり変えられようとする巨大なクリスタルは、物語が進むにつれて異名通りまさに「生ける」かのような役割を果たし始めるのです。その本性を捻じ曲げられ、恐るべき破壊神の内奥に封じ込められたその存在に思いを馳せるなら、『ローグ・ワン』のみならず映画本編への見方すらも変わってくるかもしれません。〈デス・スター〉を破壊せしめたもの。それは多くの人々の犠牲であり、ルークのフォースへの開眼であり、そしてもしかしたら・・・。 

ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

コメント

タイトルとURLをコピーしました