『スター・ウォーズ・テールズ』〈SWという庭で〉【レジェンズコミック】

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1999年(日本では2000年)に刊行された本書は、EP1公開によって公式に拡大されたSW世界を舞台に多くのキャラクターたちの知られざる冒険が語られます。その数は前後編を一作と数えれば7作品。いずれも当時新たに登場した、あるいは既にお馴染みだったキャラクターたちの内面や人間関係、知られざる側面が深く掘り下げられる内容となっております。

扱われる時代もキャラクターも様々、その雰囲気も緊迫感溢れるシリアスなものから肩の力の抜けるようなコミカルなものまで様々。しかしいずれも美麗な絵柄とメリハリある物語構成で基本的にハズレという作品はありません。本書のタイトルが示す通り、まさにSW物語の美味しいアソートパックといった趣の一冊です。

『生と死、そしてフォース』

本作がいつの、どこでのことを描いたものかを問うのは無意味でしょう。少なくともEP1の数年ほど前であろうことは確かなある日、とある任務で未開の惑星に赴いたクワイ=ガン・ジンとオビ=ワン・ケノービの物語

クワイ=ガンは捕食者の罠にかかり今にも食い殺されようとしていた原住民モスコを救って行動を共にしますが、この恩知らずは助けられたことを感謝するどころか二人を召使ででもあるかのように傲慢な態度で罵る始末。若きオビ=ワンはなぜこのような無礼者を追い払わずに構いつけるのかと反発しますが、師の答えは「フォースが望むことであるからだ」という納得の行かないものでした。

ひたすら「フォースの声」なるものに従いつつ生きる師の姿に戸惑うオビ=ワン。師はこのようなロクデナシにまで献身的に尽くすかと思えば、彼らが二人連れでしかないと知るや否や仲間を引き連れて身ぐるみ剥がそうと襲い掛かってきたモスコをあっさりと返り討ちにしてしまいます。

命の危機にある者はどんなクズであっても救うかと思えば、今度はあっさりと殺してしまうクワイ=ガン。ただただ「フォースの命じるまま」に行動するというクワイ=ガンの行いは読者の頭にもオビ=ワンに劣らぬ疑問符浮かばせます。すべてを「フォースの意志」に還元してしまう行動原理は単なる狂信ではないのか? と。

いや、それは常人には及びもつかぬ深い次元でフォースと交わるジェダイ・マスターの境地がもたらす合理を越えた世界であるのでしょう。いやしかし・・・。

本作で表される一見不可解な彼の判断基準に対する理解は、彼がアナキン・スカイウォーカーを見出したことに対する評価とも繋がるものでしょう。クワイ=ガンは「フォースにバランスをもたらす者」を見出した慧眼の持ち主なのか、それとも「銀河の災厄」をこの世に引きずり出したトラブルメーカーなのか・・・。

※オビ=ワンといえばEP4でブラスターを「野蛮な武器」と断じる一方、EP3では苦し紛れにブラスターを使用してグリーヴァス将軍を倒すなどという皮肉なシーンで「イジられ」ている印象ですが、本作においても未だライトセーバーを使いこなせる段階ではなかったのかモスコ迎撃のシーンでブラスターを使用しています。彼への「ブラスターイジり」はこの頃からであったのかと楽しくもなる一作。

『ダース・ベイダー ―絶滅』(前・後編)

オーダー66によって銀河中のジェダイが死に絶えたかに見えた帝政初期、ダーク・ウーマンと呼ばれた一人の隠れジェダイが発見されます。皇帝の命を受けたベイダーは彼女を抹殺せんと潜伏先の辺境惑星へと向かいますが、その隠れ家近くに凛と咲き誇る一凛の花に思わず見とれます。

「その花は美しいことこの上ないが、絶滅の瀬戸際に立たされた”弱い種”でもある」いつの間にか背後に佇んでいたダーク・ウーマンは語りかけます。しかし丹精込めて大切に守り抜けば、思わぬ時と場所を得て芽を出し花をつけるのだ、と。

ベイダーは反駁します。そのようなことはあり得ない。「弱い種」は滅び「強い種」がそれに取って代わる。それは自然の摂理なのだ、と。平行線をたどる一方の議論はやがて終わり、二人は刃を交えることになります。迫力あるアクションシーンが大きく目を惹く本作ですが、その最大の読みどころは件の美しく弱い花をめぐる二人の永遠に交じり合わない議論にあります。「種」とは何を意味するのか、それは一度でもSWを観たことのある者に解説は野暮でしょう。

すべてが終わった後、ベイダーは戦いの巻き添えとなり無惨に散った花を踏み躙り去って行きます。かつての仲間であった彼女の言葉では彼のなかに潜む「種」を発芽させることは叶いませんでした。そう、この「弱き種」を再び芽吹かせるのは・・・。

『マラ・ジェイド ―キントニの夜』

前話でも鮮やかな登場を見せるマラ・ジェイドが主役を務めるエピソード。しかもレジェンズ作品の雄『帝国の後継者』シリーズで彼女を初めて登場させた生みの親と言うべき小説家ティモシー・ザーンが脚本を執筆したのですからその愉しさは一入です。

物語はEP6直後と思しきある日のこと。皇帝亡き後の帝国でかつての権勢を失った彼女は「追う側」から「追われる側」になる悲惨を嫌と言うほど味わっていました。彼女の「皇帝の手」としての地位は飽くまでもパルパティーン個人との繋がりによって成ったものであり、彼の死後はその後釜を狙う者たちにとっての厄介者筆頭になることは避けられなかったのでした。皇帝の元愛人とも噂され、帝国の後継を目論むイセイン・アイザードの追及に悩まされる彼女は、辛うじて辺境惑星キントニへと落ち延びたのでした。

そこはかつて帝国領でありながら今では同盟軍の軍門に下り、今まさに同盟軍幹部メイディン将軍直々に同地の総督であったバーケイルへの尋問が行われようとしていました。一連の事態は偶然この地に降り立ったに過ぎない彼女には何の関係もないはずでした。しかしある記憶を蘇らせた彼女はある思惑を胸にバーケイルが収容されている同盟軍収容所へと潜入を試みるのでした。果たしてその目的とは?

ラストにひと捻りある作品ですが、彼女に施された洗脳の根深さを推し量らせるエピソードでもあります。マラもまたベイダーとともに皇帝によってその人生を狂わされ消えない刻印を押された二人ですが、そんな彼女を救うことになるのもまた・・・。

『ジェダイ・ドロイド スキッピー』

本作の主人公の名はスキッピー。ほとんどの方はその名を知らないでしょうが、その姿はすべての方が知っているはずです。EP4冒頭にてラーズ家が買い取ろうとした二体のドロイドのうち、R2の代わりに選ばれていながら故障を起こしたあの赤いアストロメク・ドロイドです。もしも彼があの場で幸運にも故障し、幸運にもR2が代用品として選ばれなければ銀河の運命は大きく変わっていたでしょう。まさに銀河にとって運命的な一幕だったと言えます。しかしオビ=ワンの言葉を借りれば「幸運などというものはない」のです・・・。

彼はある日、自分がフォースを感じ取れることを認識します。どうやら彼の内部を血液のように循環するオイルの中にミディ=クロリアンが含まれているためであったようですが、いつしかその能力を駆使できるようになった彼は行動制御ボルトを外して主人のもとを離れ、自由な生活を手に入れます。しかし自律的にメンテナンスができないドロイドの悲しさ、やがて彼のパーツは痛み、バッテリーは消耗し、避けがたい「死」を意識した時、折よく砂漠の回収業者ジャワたちと出会ったのでした。

自ら囚われの身となったスキッピーですが、「売り物」とされるためにメンテナンスを施されさえずればもはや用ありません。フォースによるマインドトリックを使って脱走の機を試みていた彼はしかし、多くのジェダイを導き、あるいは悩ませたあの「フォース・ヴィジョン」を垣間見るのでした。

その内容に戦慄したスキッピーは苦悩の末に重大な決断を下します。それは自らを犠牲にしてでも多くの人々を救うことになる、辛く苦しくともジェダイとして恥じることのない決断だったのでした・・・。映画本編中の何気ないシーンから着想を得た、コミカルとシリアスが絶妙に交じり合ったまことに秀逸なスピンオフ作品と言えるでしょう。

『ハン・ソロ ―臨検』

銀河に「新たなる希望」が出現する少し前、帝国艦隊警備隊は退屈な辺境宇域のパトロールを執り行っていました。若き日に夢見た光栄ある軍人としての人生への憧れも虚しく、やりがいのない日々に鬱々とするデイド艦長は自分と違って前途有望に見える若き部下をやっかみつつ日々の職務をこなしていました。

その日行われた臨検もまた退屈な毎日に繰り返される日常風景に過ぎませんでした。対象の船もありふれたコレリアン・コルヴェットであり、積荷も穀物や種子や安っぽい装飾品。強いて変わっていることといえば、ウーキー族が副操縦士を務めているということと、ハン・ソロと名乗る船長がやたら若いというぐらいのものでした・・・。

しかしそれだけならば「不審な点」はありません。微妙な違和感を感じながらも通過を許可するデイド艦長。しかし胸のわだかまりは日を追うにつれて膨らんでゆきます。しかし何に対して?

数日後、再び同じ場所を通過するハン・ソロの輸送船。積荷も同じく当たり障りのない物品ばかり。臨検報告に不審な点なし。

三度目の通過。報告に不審な点なし。

不審な点なし・・・? ひとひらの稲妻が単調な日々に倦み疲れた彼の頭脳を貫きます。そう、あの男はとんでもないものを密輸していたのです。果たしてそれはいったい?

ラストで待ち受ける意外な展開が愉しく、SW屈指のアウトローであるハン・ソロのキャラクターをこれでもかと味わわせてくれる痛快な一作です。

『マックス・レボとジズ・ウェイラーのジャワをつかまえろ!』

ある意味本書でもっとも印象的な本作のインパクトの源はなんといってもそのクセのありすぎる絵柄でしょう。巻頭解説に拠ればイラストレーターを務めたデイブ・クーパーは「アメリカ版へたうま絵の名手」であるとのことですが、確かに見れば見るほど良くも悪くも中毒性のある絵と言えるでしょう。

EP6でジャバ・ザ・ハットの宮殿でバンド演奏していたマックス・レボたちの災難と冒険がストーリーとなります。高い技能とセンスを持っているらしい彼らですが、座長マックスがジャバと交わしたのはなんと終身契約。その報酬はなんと永遠に衣食住を保証する事のみという途方もないものでした。音楽と食事を愉しむことを生きがいとしている彼だけならば問題はありませんが、当然ほかのメンバーは不満を露わにします。タトゥイーンの安酒場で繰り広げられる言い争いは留まることなくエスカレートし、ついには暗黒街の顔役ジャバの悪口にまで発展してしまいます。

タトゥイーンにおいてジャバの悪口は禁句中の禁句です。しかも折り悪く賞金稼ぎと思しき男にそれを聞かれてしまったマックスたちは慌ててその場を立ち去ろうとしますが、なんと店の前に止めていたスピーダーが積荷の楽器もろともジャワたちに盗まれてしまっていたのです。楽器を失えば彼らを待っているのは飢え死にだけです。

わずかな手がかりから必死でスピーダーに追いすがる彼らですが、そんな自分たちを先ほどの賞金稼ぎが追いかけてくるのを見て恐怖に駆られるのでした。果たして彼らの命とも言える楽器の運命は? そしてそもそも彼ら自身の運命は? こちらもまたラストにひと捻りある作品。

『ホーン・ステーションの決闘』

明確に「いつの物語」という区分けが困難なこの作品群において、本作は主人公の名前すらも明かされないという、もっとも匿名性の高い物語と言えるでしょう。はっきりしているのは帝政樹立以前の共和国時代のいつか、というだけのある日のある場所に、一人のくたびれた男がくたびれた船で降り立ちました。

その惑星は法も秩序も無いに等しく、男はその冴えない風采からあらゆる人々に罵られ馬鹿にされ、有り金を巻き上げられる始末です。挙句の果てに絡んできたならず者をものの弾みで撃ち殺してしまった彼は、恐るべき招待を受けることになってしまいます。

それは街の支配者シュート・アイファイアーとの早撃ち勝負。並ぶ者のないガンファイターとして名を馳せたこの暴君は、少しでも銃の腕に覚えのありそうな者を見つけては半ば強制的に対決相手として「招待」し、その都度ブラスターの餌食としてきたのでした。今度はこの冴えない男がその餌食になるのだ・・・。人々は口々に男の運命をあるいは憐み、あるいは嘲笑います。なにせこの男がならず者を倒した一撃は明らかに「ラッキーショット」に過ぎなかったからです。

が、男の正体はじつに意外なものだったのでした・・・。

資料としての魅力

魅力的な作品で埋め尽くされている本書ですが、その巻末にはなんと2000年当時の時点でのSWスピンオフ作品のほぼすべてが邦訳・未邦訳を問わず、時系列に沿って網羅されているという嬉しい付録が併録されています。5000BBYに始まる『Tales of the Jedi』シリーズから25ABYの『ニュー・ジェダイ・オーダー』シリーズの始まりに至るまでの長大な系譜は、それを眺めるだけでSWファンの心を熱くしてくれること請け合いのオタクホイホイと言えるでしょう。実際、本書刊行当時小学生であった私などはこの付録を見てそれはもう興奮s…(以下略)

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