『ロード・オブ・シス(上・下)』〈パルパティーンが最も恐れた男〉【カノン小説】

カノン小説
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憎しみに生きる者たち

本作の登場人物たちはみな憎しみに突き動かされています。タイトルにもなっているシス卿たちはもちろん、彼らが築いた帝国に反旗を翻す「自由の戦士」たちもまた、怒りと憎しみに駆られながら戦い続けているという点では彼らと変わるところはないようです。祖国独立を悲願とするレジスタンスの頭目チャム・シンドゥーラもまた人間性を犠牲にしてでも帝国打倒のために血道をあげ、彼の配下であるイズバルなどはまさに帝国の血に飢えた狂戦士といった趣。もはや旧三部作時代のように帝国と戦う者たちに漲る正義の気配など露ほどもありません。

「絶対にテロリストではない。おれらは自由の戦士だ」

本文より

とは帝国へのテロ活動を繰り広げるチャムの弁。本作ではもはや彼らを「正義」と見ることはできず、その私怨を糊塗する大義名分に空々しさを感じるばかりです。というわけで本作の魅力は何といっても彼ら反乱グループを引き立て役に紛れもない「悪」の道を突き進む、どす黒いオーラに包まれた暗黒卿たちということになりそうです。

銀河皇帝遭難!?

本作の魅力は二人のシス卿の欺瞞と葛藤に充ちたスリリングな関係をめぐるドラマにありなす。各地で帝国へのレジスタンスを繰り返すチャムたち反乱グループの動向に、帝国内の裏切者の存在を感じ取ったパルパティーンは自らを囮とした大胆なあぶり出し作戦を展開します。あえて襲撃されやすい状況に身を置くことで反乱者たちを、そして裏切者を誘い出そうというのでした。

しかし反乱グループの戦果は誰もが予想し得ないものでした。なんと皇帝座乗艦〈ぺリラス〉を撃沈してしまったのです。パルパティーンは腹心のベイダー含むごく少数の護衛と辛うじてライロスの地表に不時着。一世一代のチャンスに沸き立つ反乱グループのガンシップがその息の根を止めようと群がって行く、という帝国の存亡にかかわる事態が出来するのですが、そのような状況すらもこの陰謀家にとっては

Everything is proceeding as I have foreseen.(すべて世の思惑通りに進んでおる)

という事態に過ぎなかったのでした。なぜならパルパティーンが我が身の安全を投げ打ってでもあぶり出そうとしていたのは国内のちっぽけな裏切者でも、未だ弱体な反乱グループでもなく、もっと恐ろしい脅威となり得る「ある男」の存在だったからなのです。銀河皇帝遭難という未曽有の国難を演出してまで彼があぶり出し、息の根を止めたがっていたのは果たして何者であったのか、というのが本作いちばんの読みどころと言えるでしょう。そして「その男」はシス卿の邪悪な思惑に打ち倒されてしまうのか、それとも・・・。

ドラマとアクション

本作の原題は『Lords of the Sith』つまり『シス卿たち』という意味ですが、ここは敢えて『Roads of the Sith』つまり『シスへの道』とでも読み替えてみたくなる物語です。陰謀や裏切りを前提としているかのような修羅道に生きる二人のシスの生き様に、読み手は確実に戦慄を余儀なくされるのです。

というわけで本作最高の魅力はパルパティーンと「最強の敵」とのドラマにあるとはいえ、本書カバーアートの魅力にも抗しがたいものがあります。この迫力ある光景は決して客寄せ看板ではなく作中で存分に繰り広げられることになります。ライロスの食物連鎖の頂点に君臨する獰猛な巨大昆虫ライレックに襲われたパルパティーン一行はどうにか洞窟への退避に成功するものの、そこは女王を取り巻く数百数千ものライレックの群れのど真ん中だったのでした。シス師弟は途方に暮れるどころか高笑いすら響かせながら、この恐るべきモンスターたちに挑みかかって行きます。

これまでパルパティーンやベイダーの凄みを味える物語は数々あったとはいえ、両者の魅力を同時に味わえる作品は存在しなかったのではないでしょうか? 本作は肉体的な面においても精神的な面においても、シスの恐ろしさを満喫できるバランスの取れた名作と呼べる作品です。

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