『Jango Fett : Open seasons』〈The Rise Of Fett〉【レジェンズ】(未邦訳)

レジェンズコミック
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端役から大役へとのし上がったSW屈指の人気者ボバ・フェットは、ファンによって育て上げられたキャラクターと言うことができます。本来詳細な設定など持たなかったであろう「とある腕利き賞金稼ぎ」は、いつしか伝説の戦士集団の生き残りではないかというロマンチックな想像に彩られながら多くの作品で活躍の場を与えられ、長きに渡って強い人気を保持して行くうち、ついには「逆輸入」とでも呼びたくなる形で新三部作への再登場を果たしました。

もちろん映画本編での彼の登場や活躍はごく限られたものに過ぎませんでした。しかし「父」ジャンゴ・フェットはSWの象徴的キャラクターであるストーム・トルーパーのルーツとして物語上重要極まりないポジションを占め、傑作スピンオフのひとつ『クローン・ウォーズ』シリーズでは彼の遺伝子を受け継ぐ「兄弟」クローン・トルーパーたちの活躍は多くのファンを熱狂させ、彼らの「長兄」ボバの存在感もいや増して行きました。

ボバを代表とする「フェットの血脈」は、創造主ルーカスによって与えられた粘土を数多のファンたちがこね回して作り上げた塑像を思わせます。本作はそんな「フェット群像」の「原型」に遡る物語となります。ときは『新たなる希望』を遡ること約58年前、恐るべき傭兵集団として名を馳せた「マンダロリアン」たちの内紛に巻き込まれた不幸な農民少年の受難に端を発します。

作品背景:『ジャンゴ・フェット』ビギニング

本作は2002年にPS2ソフトとして発売されたゲームソフト『ジャンゴ・フェット』の前日譚として製作されたコミックです。このゲーム作品は『ファントム・メナス』のあと謎のカルト集団「バンド・ゴラ」台頭によって混迷を深める共和国末期の世相を背景に、ドゥークー伯爵の依頼を受けたジャンゴ・フェットの冒険を通して彼の過去や因縁が物語られ、なぜ彼がクローン軍団の遺伝子ホストに抜擢されたのかという重要な文脈が描かれる作品ともなっています。

本作は彼の出自や若き日の経歴、何度も対決を繰り広げることになる宿敵との関係などゲーム作品の内容を補完する目的で制作されましたが、もちろん本作の価値はそれに留まることなく、ジャンゴ・フェットというキャラクターを考察する上で欠かせぬ完成度を誇っているのです。

あらすじ1:暴力と道徳

獰猛な傭兵集団として恐れられたマンダロリアンたちに変革の時が訪れようとしていました。もはや血と暴力に飢えた生き方を脱し、道徳を重んずる生き方を提唱した指導者マンダロアジャスター・メリールに反発するトア・ヴィズラは同志を率いて対立派閥「デス・ウォッチ」を立ち上げて対立。両陣営の緊張はついに惑星コンコード・ドーンにおいて武力衝突へと発展します。敗走を余儀なくされたジャスターたちは近隣で農場を経営するフェット家に匿われますが、血に飢えた「デス・ウォッチ」は無関係な農民たちを前にしても無慈悲な追及を止めることはなかったのでした・・・。

マンダロリアンの生き方はシスの生き方を彷彿させます。ともに所縁の深い種族をルーツとする名を持つというに留まらず、自ら戦いを求め他を支配することに喜びを見出す獰猛さという点で両者は近縁種としか言いようがなく、『Tales of the Jedi』シリーズでもシスとマンダロリアンの連合軍がジェダイと共和国を大いに苦しめました。

とはいえマンダロリアンたちの歴史と生き方はフォースと言う不可思議な力を媒介していない分、より私たちに身近なものに感じられます。私たちの祖先もまた戦いに明け暮れる無法な時代を経て、やがて道徳を重んずる生き方を志向し、それに反対する人々との闘争を潜り抜けて、現代のように曲がりなりにも法と秩序による安定した社会を築いて行きました。

単なる暴力集団からの脱却を図り「文明化」を志向したと言えるジャスターとそれに反発するトア・ヴィズラの対立は、間違いなく遠い昔はるか彼方の土地で私たちの祖先が辿ってきた道と言えるでしょう。「マンダロア内戦」の端緒となるこの事件は古典文学や神話、歴史をベースとする普遍性の高いストーリーが特徴的なSWの伝統を感じさせるプロットとも言えるのではないしょうか。

あらすじ2:若きマンダロア

「デス・ウォッチ」の造反から数年後、目の前で家族を殺されつつジャスターらと行動を共にすることで辛くも生き延びたジャンゴ・フェットは優れた戦士としての資質を開花させ、ジャスターにとって単なる「恩人の息子」から有力な「後継者候補」と目されるまでに成長しました。若くして部隊の指揮を委ねられたジャンゴは請け負った任務を成功させるべく奮戦しますが、事前情報を大きく上回る敵勢力の武力の前に絶望的な苦戦を強いられてしまいます。

一連の不手際の裏にはヴィズラたち「デス・ウォッチ」の陰謀がありました。ジャスターたちの逆襲に遭って以来鳴りを潜めていた彼らは、ついに憎むべき仇敵を罠に掛けることに成功したのです。同胞モントロスにまで裏切られ一人孤立したジャスターを前に、ヴィズラは勝ち誇った笑みを浮かべるのでした。

本エピソードで印象的なのは本作の後日談となるゲーム作品でジャンゴ因縁の敵として描かれるモントロスのキャラクターでしょう。ゲーム作品でも血に飢えた賞金稼ぎとして描かれるこの野獣は、嫉妬に暴力性に冷酷さという人間の持ち得る暗黒面を体現するかのような人物像をしています。才能あふれるジャンゴに激しい嫉妬の炎を燃やし、命令を無視してでも敵との戦いを優先し、最終的には自らを認めぬ指導者を見殺しにするという無軌道なエゴイストぶりを見せつけるモントロスは、皮肉にもジャスターが決別すると宣言した血と暴力の陋習に充ちたマンダロリアンの姿そのものと言えるでしょう。

あらすじ3:ジェダイの過ち

ジャスター亡きあと仲間たちの支持を得て新たなる指導者となり、裏切者モントロスの追放にも成功したジャンゴは着実に戦果を積み上げ、惑星ガリドラーンにおける反政府勢力掃討の任務も見事成し遂げました。しかし報酬を要求するジャンゴたちの面前に多くのジェダイたちが乗り組んだ共和国クルーザーが出現。彼らはまたしても「デス・ウォッチ」の罠に嵌ってしまったのでした。そして今回の失態は指導者の死ではなく、指導者以外すべての者たちの死を招くことになってしまったのでした・・・。

マンダロリアン壊滅が描かれる本エピソードで同じく印象的なのは、聡明さを失いつつあるジェダイ騎士団の醜態でしょう。「デス・ウォッチ」はマンダロリアンに非戦闘員虐殺の罪を着せ、根拠となった偽情報を鵜呑みにした評議会はドゥークーをリーダーとするチームを派遣、マンダロリアン壊滅には成功したものの多くのジェダイたちが殺害されてしまうという失態を犯したのでした。

このガリドラーンの戦いはジャンゴにとって拠り所すべてを奪われた悲劇となり、ドゥークーにとっても自分が生涯属すべきジェダイ騎士団への大きな不信感を芽生えさせる重大なターニングポイントとなりました。強力な戦士である以上に思慮深い賢人であるべきはずの自分たちはもはや偽情報に踊らされるほど愚かな存在になり果てようとしている・・・。

それがもたらした結果である多くの仲間たちの遺体を前に途方に暮れるドゥークーがつぶやく「What have we done…?」という台詞は、主語こそ違えど『シスの復讐』でメイスを手に掛けてしまったアナキンがつぶやく「What have I done…?」と同じもの。ジャンゴと同じく己の進むべき道の破綻を目の当たりにしたドゥークーの痛みが伝わってくる演出と言えるでしょう。

あらすじ4:「職探し」へ・・・

ただ一人生きながらえたジャンゴを待ち受けていた運命は鉱山奴隷という過酷なものでした。しかし天祐を得た彼は自由を取り戻し、自分のすべてを奪い去った宿敵への復讐に邁進します。運命の地となったのはファンには馴染み深い惑星コレリア。互いの手の内を知るもと同胞どうしの戦いは熾烈を極め、さすがのジャンゴも勝ち目がないかのように思われました。しかし最高のチャンスは敵が恵んでくれるもの、彼を窮地に陥れたあるものが、逆に彼を窮地から救うこととなったのでした・・・。

復讐を成し遂げ無念を晴らしたジャンゴにはしかし、率いるべき仲間も帰るべき場所もありません。群れも巣も失った獣に等しい人間がその本分を活かすために残された道はただ一つ、銀河を股に掛ける賞金稼ぎの道しかあり得なかったのです。豊富な傭兵稼業で培った戦闘能力と機知だけを資本に、最強の戦士は最強の賞金稼ぎへの階梯を上り始めたのでした。

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