２００３年から２００５年にかけてクローン戦争の様相を描くことを目的として刊行された『クローン大戦ノベル』シリーズ第３作となる本作ではついにアナキン・スカイウォーカーが主人公となり、しかもオールドファンにはお馴染みコラン・ホーンの祖父であるジェダイ・マスター、ネジャー・ハルシオンが共演という実に興味深い顔ぶれで物語が進みます。
今回の物語は共和国の重要拠点である惑星プリシトリンの陥落に端を発します。同地奪回のため指揮官に抜擢された異端ジェダイ、ハルシオンは副官としてアナキンを指名。ジェダイとしても指揮官としても若く未熟な彼に歴戦の兵たちが従うものだろうかと評議会は難色を示すのですが・・・。
【シリーズ屈指の駄作】根拠その１：圧倒的駄文、読者とのすれ違い
本作はそのストーリーは措くとして、まず圧倒的なまでの駄文が読み手を萎えさせます。私は基本的に物語の「文脈」を最大の関心事としており、文章力などの技術面に関してはそれほどウルサイことを言わないようにしておりますが、本作の文章はとにかく稚拙であり、無用かつ余計な説明描写・台詞の多用や情感の欠如が読み進める上での「雑音」となって興を削ぐこと甚だしく、その語り口はまるで出来の悪いジュニア小説のよう。同シリーズの先行作品である『破砕点』や『セスタスの偽り』の完成度には遠く及ばない惨状を呈しているのです。
そもそも本書を執筆した作者は読み手が本書に求めているものを分かっていないとしか思えません。作者は元軍人にして著名な軍事小説家であるとのことで、その本格的な軍事的知識を駆使して描かれたクローン戦記という触れ込みのようですが、どうでしょう？ わざわざ好き好んで本シリーズを手に取るような私たちSWファンが読みたいのは「軍事小説」ではなく「SW小説」のはずです。
しかし例えば前々作『破砕点』に併録されていた短編『エクイップメント』は馴染みあるキャラクターは一切登場せず、あるクローンの主観によってのみ描かれた小品でしたが、それだけになお過酷な戦争を生きるいちトルーパーの情感を追体験することのできる大変な良作でした。軍事が得意分野であると言うのならばいっそこのように純粋な戦記作品でも描いてくれていたならば良かったのでしょうが、残念ながら作者が手掛けたのがSW屈指の重要キャラクターであるアナキンであったのが運の尽きでしょう。
【シリーズ屈指の駄作】根拠その２：キャラクターの無駄づかい
本作に留まらずSW全体の主人公と言っても過言ではない彼の扱いは非常に軽く、その人物描写は薄く、「密かに結婚しているという共通点」を持つハルシオンとの共演は非常に面白い題材となり得たにもかかわらずその設定をまったく活かせておらず、ほんの数日で親密な間柄となって互いの秘密を打ち明け合うまでに至る描写も表層的で説得力がなく、肝心の秘密の暴露に至る文脈も無きに等しく、「必要だから挿入した展開」という感じが拭えません。
そして物語で活躍するのはファンに馴染みあるジェダイやクローンたちではなく大半がオリジナルキャラクターであり、しかも唐突に出てきたキャラクターが初出の章で特に何もせずに死んだり、上巻から活躍し続けている主要キャラが間違って味方に撃たれて死んだりと無駄なエピソードや展開が目立ち、もしや「戦場では何が起こるかわからない」という無常さや緊迫感を感じさせる意図があったのかという思いが頭をよぎるも、その平板な叙述によって何の説得力もなく脳内をスルーして行くのです。
私たちが読みたいSW作品はこんなものではないはずです。本作ではとうとう訓練以外でライトセーバーは抜かれず、一度だけ抜かれたと思えば戦車部隊を集結させるための目印にされる始末。べつにやたらめったらライトセーバーでチャンバラする必要はないけれど、今回はあまりにＳＷである必要さえ見出せない内容です。アナキンと同じ負い目を持つハルシオンもなぜ登場したのかわからず、たまにチラリと姿を見せるアサージ・ヴェントレスも結局大してストーリーに絡むことなく、まったくＳＷとしての見せ場がない、読者層が求めているものがわかっていないとしか言いようのない物語展開です。
物語のメリハリのなさを示す一例を挙げるならば、ハルシオンたちが合流し共闘する私兵集団の司令官スレイクは過去の因縁によってジェダイを嫌い抜いているという設定なのですが、ジェダイを認めないスレイクとハルシオンの軋轢が物語のアクセントになるわけでもありません。例えば非協力体制が悲劇を招くとか、共闘の果てに和解に至るとか、どこまでいっても分かりあえない等というカタルシスや悲壮感があるわけでもなく、物語中盤で顔合わせをして少し揉めた後すぐに「協力し合いましょう」という流れになるという謎展開。彼のジェダイ嫌いの設定は冒頭からの持ち越しだというのにいったい何のための設定だったのか・・・。
とにかく読んでいて「なにそれ？」の連続で、作者はよほどストーリーテリングが下手か、「ＳＷなんてガキの映画」と舐めてかかってるのかのどちらかだとしか思えないのです。長々と文句ばかりを書く不細工なレビューとなりましたが、それほどまでに本作は不細工な作品と言えるでしょう。
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