『暗黒の会合(上・下)』〈引かれ合う巨星〉【レジェンズ小説】

レジェンズ小説
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本書は2003年から2005年にかけて、クローン戦争の様相を描く目的で刊行された『クローン大戦ノベル』シリーズ第4弾となる作品であり、ジェダイとシスの両巨頭であるヨーダドゥークー伯爵を主人公に据えた超重要作であり、再び巡り合ったかつての師弟、そして冒険を通じて成長する若きジェダイたちを通じて、ジェダイと暗黒面の危うい関係を活写する作品となっております。

物語の発端は一通の秘密通信。その内容はなんとドゥークー伯爵からの和睦の打診とジェダイへの帰順の申し出でした。なんという見え透いた罠。しかしヨーダは罠に飛び込むのを承知で、かつての弟子が待ち受ける惑星ヴジュンへと向かうのでした。そしてかつての師を罠に掛けんと手ぐすね引くドゥークーもまた己自身すら気づかぬ揺らぎをその心に芽生えさせていたのでした・・・。

あらすじと魅力:光と闇の相克、シリアスとコミカルの融和

本作はドゥークーとの会合を持つため敵の本拠へと赴くヨーダと、それに同行するジェダイとそのパダワンたちの冒険、そして隙あらば彼らを葬ろうとするドゥークーの腹心アサージ・ヴェントレス率いるドロイド部隊の暗躍を大筋として展開されて行きます。

同シリーズの『破砕点』や『セスタスの偽り』ほどのアクション風味は希薄ながら、ジェダイとシスの二大巨頭対決による光と闇の相克というSWらしい壮大なダイナミズム、そしてEP5以来の茶目っ気あふれるヨーダの一面とが交じり合うことでシリアスとコミカルが絶妙なバランスを成しています。またレジェンズ世界では後にベイダーが居城を築くことになるお馴染みの暗黒面の惑星ヴジュンが主舞台であったり、『帝国の後継者』シリーズに登場するノーグリの故郷ホノーグルに関する言及など細かいファンサービスも充実。

世界観の描き込みに関しても、クローン大戦によって大義が揺らぎ徐々に不信の目で見られ始めるジェダイたち、それを誰よりも痛感して自ら騎士団を去っていった少なくないジェダイたちの存在、際限なき戦争協力によって文化的余力を削られた評議会内部の殺伐、クワイ=ガン・ジンへの追憶を通して語られるフォースの流れのなかでの人間存在への考察など、SW世界観のディテールが描きこまれ補完されます。

主要イベントであるヨーダとドゥークーの対決は言うに及ばず、若きパダワンたちに襲い掛かるアサージの魔の手と誘惑、彼らを救わんと現地へ急行するオビ=ワン&アナキンの雄姿、暗黒面にかつて堕ちた者、あわや堕ちんとする者、やがて堕ちる者が暗黒の惑星ヴジュンで相まみえるアツい展開など、読み手を重苦しい思いにさせかねない重厚なテーマの数々を軽快かつヒロイックな物語展開によって見事に包み込んでいるのです。

本作は前述のようにアクション風味には乏しいものの、それを補って余りあるほどの内面的アクションに充ちており、登場人物や彼らが活躍する社会が抱える矛盾、葛藤、変化の数々が丁寧に描きこまれたスピンオフ小説の優等生といえる作品なのです。

登場人物:老人たちの苦悩、若者たちの慄き

本作の主人公がヨーダとドゥークーであることは言うまでもありませんが、彼らに負けず劣らずの存在感を放つのがヨーダの冒険に同行するパダワンの少年ウイー・マルローと少女スカウトの二人です。

ウイーは強いフォース感受性を持ち、予知夢を垣間見る能力に恵まれているというアナキンを彷彿させる特性の持ち主です。しかし冒険に旅立った彼が見たのは、自分が遠くない未来にジェダイによって殺害されるというものでした。もしや自分は暗黒面に堕ち、ジェダイによって倒されるのではないか・・・。アナキン同様曖昧な予知夢の意味を解しかねる少年は苦悩し、冒険の途上で明らかになる出自にも心乱され、自らのなかに眠る暗黒面への恐れに慄くのでした。

一方のスカウトはウイーと対照的にフォースへの感受性に恵まれず、しかし周到な計画性と有り余る熱意で同輩のパダワンたちよりも優れた結果を残し続けているガッツに溢れた少女です。しかしその熱意は周囲との溝を深めることすら躊躇しない執念と呼べるほどのものであり、自分がジェダイとしての将来性を絶望視されているという現実に焦る彼女もまた、ウイーとは違う意味で暗黒面に傾きかねない危うさを秘めているのでした。

そしてその動向が気になるのはやはり何と言ってもドゥークーでしょう。現状のジェダイ評議会の在り方に疑問を抱き、「暗黒面に堕ちた」というよりは「ジェダイであることを見限った」という、ある意味アナキンの先駆けとも言えそうな重要人物であるにも関わらず、映画作品では単なる裏切者の印象を脱することのなかった彼の複雑な心境を追うことができます。

そしてやはりSW史上もっとも偉大な「ジェダイの長」とされるヨーダは本作でその本領を発揮。900年近い人生を通して無限とも思える闇を内に抱えながら、それでもなお自ら光を発する「グランド・マスター」としての彼の凄みを堪能することができます。

映画本編を知る多くの方々にとって、本作の目玉である「ドゥークー伯爵の帰順」など起こり得ないことは百も承知でしょう。それでも作者による迫真の筆致は、もしかすると偉大なる光がこのまま巨大な闇を包み込んでしまうのではないかと思わせるほどの興奮を読み手に与えてくれるのです。

「きみが落ちれば、わしは常につかまえるぞ。わしはそう誓った」

大いなる光に手を差し伸べられた大いなる闇は、いったいどのような葛藤を経てそれを振り払うに至るのでしょうか?

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