『アソーカ(上・下)』〈もう少しだけジェダイでいよう。友達のために。〉【カノン小説】

カノン小説
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本作の主人公アソーカ・タノはクローン戦争期を描く『クローン・ウォーズ』(劇場版)でデビューを果たして以来同シリーズを代表するキャラとして人気を博し、やがて知られざる反乱軍の一員たちの活躍を描く『反乱者たち』シリーズへの登場で帝国勃興期に、帝国崩壊後の世界に生きる人々を描く『ボバ・フェット』シリーズへの登場で新共和国時代に関わりを持つようになったことで、もはやSW物語を代表するキャラの一員と言えるまでに発展を遂げました。

物語の背景となるのは『クローン・ウォーズ』と『反乱者たち』の間、つまり「安全と安定」を謳って共和国を葬り去った帝国がいよいよその本性を剥き出しにし、その支配の軛を強めて行った時代となります。物語当初のアソーカはジェダイ評議会への不信ゆえに一度はジェダイであることを放棄し、世捨て人のような生活を送っています。自らの存在価値そのものにすら疑問を感じる日々を送る彼女はしかし、度重なる冒険の果てに、ついに大切な人々との信頼を育んだことによって、再びジェダイとしての道を歩むことを「選択」するのです。

かつて絆の崩壊によって放棄した道へ、新たなる絆の形成によって復した彼女の物語。それはかつて愛によって道を踏み外し、愛によって道に復したアナキン・スカイウォーカーの物語と同様、一人のジェダイ、いや、人間の「帰還」または「回心」の物語なのです。

あらすじ:アソーカの肖像、帝国の肖像

そう、自分が生き残ったのは、ジェダイと袂を分かってきたからだ。(中略)そうしてきたからこそ自分はいまだに生きている―生きるに値するかはどうかは別として。

本書の読みどころはなんといっても『クローン・ウォーズ』と『反乱者たち』を繋ぐ物語として、両作品間での彼女の心の在り様と成長の過程でしょう。正体を隠し、辺境を転々とする生活を送るアソーカは銀河を踏みにじる帝国の足音にひたすら背を向けて生きています。自分がなぜ生き残ったのか、なぜ生き残らねばならなかったのか。上記の引用文が代表するように、アイデンティティ・クライシスに陥った彼女は今また迫りくる帝国の足音を避けて辺境の衛星ラエイダへと落ち延びます。

そこで出会った同世代の少女ケイデンとその妹ミアラをはじめとして、素性の知れない彼女を受け容れてくれた農民たちと躊躇いながらも絆を形成して行くアソーカの前にしかし、またしても帝国の足音が響き渡るのでした・・・。

「なぜなら、この特定の作物は土壌から全てを吸い上げてしまうからだ」(中略)「それを育てたあとの土はもうただのゴミカスさ。何期も何も育たなくなる。しかも、支払われる給与は肥料を買うこともできないほど微々たるものだ。ほし全体の土壌がダメになるのは目に見えている」

本作中においてSWを代表する邪悪な集団「銀河帝国」を言い表すのには上記の引用文で十分でしょう。文中で言及されているのは帝国軍が兵糧として栽培する植物で、すべての栄養をまかい得るスーパーフードとも言うべき有用作物である反面、土壌からすべての栄養を奪い去ってしまう恐るべき有害作物でもあり、まさに目的達成のためには他者の犠牲など意にも介さない帝国の特性を体現しています。

徹底して己のことしか考えぬ帝国と、その帝国におもねることによって生きるブローカーの思惑の犠牲となって、細々と農業を営むラエイダはそのような有害作物を栽培するための「生贄」として、土地は徴発され人々は奴隷労働を強いられて行きます。有無を言わさぬ高圧的施策に不満を募らせる人々は直ちに反乱運動を画策するのですが、単なる農民に過ぎない彼らが目論むその計画は、クローン戦争で実戦を潜り抜けてきたアソーカにはあまりに無謀なものとしか映らなかったのでした。

アソーカの道:「フルクラム」(支点)として

彼女を指す代名詞に「フルクラム」(fulcrum)というものがあります。『反乱者たち』でもお馴染みの彼女を存在を示す暗号名ですが、その意味するところは「支点」。弱い力を活用して強い力を発揮させるテコの原理における重要な点の一つですが、本作では様々な人々との出会いの結果、人々の活動の「支点」となって行くアソーカの姿が印象的です。

無力な農民であるケイデンら虐げられた人々との触れ合いによって自らの心の声に目覚めたアソーカはついに前を向き、反乱運動の指導者のひとり、つまり「力点」となるベイル・オーガナと交流を深めたことで邪悪な帝国と戦う弱き人々の力、つまり「作用点」を増幅させる「支点」となる道を選ぶのです。

それはジェダイが旨とし、またSW全体のテーマでもある「共生」の要となることにも他なりません。「フォース感受性に恵まれていたから」という”与えられた資質”(本質)によって無自覚に歩んでいた道を離れたにもかかわらず、いや、離れたがゆえにかえって、「虐げられし人々を守る」という”自らの選択”(実存)を通して、真の意味で「ジェダイの道」を我が物としたのでした。もしかしたらジェダイ脱退から本作で「フルクラム」と称するまでの出来事こそが、彼女が真にジェダイとなるための「ジェダイ・トライアル」であったのかもしれません。

もはやそれを承認するべき師や組織はなくとも、彼女は自らの力でジェダイの騎士となったのでした。

追伸:選ばれし者たち?(読み飛ばしおK)

さて、真面目(?)なレビューは以上として、以下はいちSWオタクによる妄言であります。

本書にも露わなように帝国のやり口の残虐性、というよりは短絡性はどう捉えるべきものなのでしょう? もちろん勧善懲悪の物語として生み出されたSWには絶対的な「悪」が必要とされ、ダース・ベイダーをはじめとする帝国が長くその役割を担い、これからも担い続けて行くでしょう。しかし飽くまでも私の見立てでは新三部作スタートによって善悪不在の群像劇へと変化したSWにおいて、その明け透けな邪悪さはワザとらしいまでに浮いて見えます。

同じくSW小説を扱った拙レビュー『ターキン』中の繰り返しとなりますが、帝国はダース・シディアスの謀略のもと、もっと巧妙な手段によって樹立されたもののはずです。フォースの暗黒面というよりは人心掌握に長けた彼の元で、人々はもはや安全と安定を求めて自発的に自由を投げ出したのです。

そんな狡猾無比のシディアスが率いた帝国の統治の無様さときたらどうでしょう? 意思を通す手段として暴力しか知らず、ゴリ押しの武力弾圧は容易に想像し得る反乱運動の種火となり、それらへの対抗としてますます態度を硬化させる帝国の締め付けは更なる反乱の激化を呼び、長期的目線で見れば自己衰弱は避けられないのは自明でしょう。

「押さえつければ押さえつけるほど、それだけ人々の反発は強くなるのよ」

レイアがターキンに言い放った言葉は理想論ではなく物理学と同じく明白な事実なのです。しかし帝国の総帥シディアスがシスであることに思いを馳せれば、その疑問は氷解します。他者との共生を旨とするジェダイに比して、他者への支配を旨とするシスにはそもそも支配する能力はあってもそれを維持する能力はないのです。ジェダイとシスは善悪で分かたれる前に、例えば農耕民族と狩猟民族、草食獣と肉食獣のように根本的な生き方の違いによって分かたれる存在とも言えるでしょう。早い話が協力し合って共に生きるにしろ、支配して無理やり従わせるにしろ、他者とともに生きる能力がそもそも存在しない人々なのです。

しかし帝国を運営するのはシスの暗黒卿のみではありません。そして彼らはシスではないにも関わらず、シス並みの短絡的思考に基づいて人々を虐げています。なにもフィクションの世界に閉じこもらなくとも私たちが生きる世界にも同様の組織や人々は古今東西、大なり小なり実在し、私たち自身もまたそのような性向とは無縁であると言い切れないでしょう。帝国の残虐はシス(孤絶主義)の残虐であり、それは同時に人々の心が持つ暗黒面の残虐であり、それは同時に私たちとその社会が常に宿している暗黒面のカリカチュアなのです。

そんな残虐が支配している当時のSW銀河は明らかにシスによって暗黒面へとバランスを崩していると言えるでしょう。しかも、かつて「バランスをもたらす」とされたはずの「選ばれし者」もまた、その不均衡状態をもたらす一助となってさえいるのです。EP3でヨーダが漏らしたように、予言は間違いだったのでしょうか?

そうではないでしょう。EP6でベイダーは息子ルークへの愛によって再びアナキンとして蘇生し、不均衡の源であるシディアスを葬り去ることで銀河のバランス回復への糸口を創り出しました。これは絶大な力を持つ「選ばれし者」でも、他者との共生なしには予言をまっとうすることができなかったということを意味してはいないでしょうか?。

アナキンを蘇生させた直接のきっかけは息子ルークへの愛だったとはいえ、彼の心を動かしたのはそれだけではなかったでしょう。そこへ至るまでの数々の出会いと別れ、そして再会が彼の心に蓄積し、最終的蘇生に繋がって行ったはずです。ならば「選ばれし者」アナキンの予言成就のために貢献した多くの人々もまた「選ばれし者たち」とでも呼ばれるべき存在であり、彼がかつて愛し、やがてその心に大きな動揺を与えたアソーカもまた、ルークと同じく暗黒面の呪縛からアナキン・スカイウォーカーを解放するために必要な多くの力を増幅させるフルクラム(支点)となっていたと考えることはできないでしょうか? そういう意味では彼女もまた「選ばれし者」の一人と言えるのかもしれません。

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