『クリスタル・スター』(’94)【レジェンズ小説】〈迷作?先駆け?白色矮星の悪夢〉

レジェンズ小説
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本書はエンドアの戦いの約10年後を描く物語であり、作者ヴォンダ・N・マッキンタイアは権威あるSF文学賞ネビュラ賞とヒューゴ―賞のダブル受賞歴を持つ大御所SF作家という点で『ローグ・プラネット』の作者グレッグ・ベアと共通しています。

しかも作者は本書以前に『スター・ウォーズ』と並ぶSF大作『スター・トレック』作品のノベライズも手掛けた作家であり、当然その実績は私たち読者の期待を否が応にも高めます。

ところが本書の評価は必ずしも高いものではなく、どちらかといえばスター・ウォーズ作品としては奇作の一種に分類されるクセの強さを醸し出しています。

しかし本書で展開した様々な設定や展開は、本書刊行から約30年を経て広がった拡張世界、そしてディズニーの下で今も広がり行くカノン世界に対する思わぬ符合と遭遇する愉しみを現代の読者に提供してくれていると思うのです。

特徴とあらすじ:三姉弟が消えた!

物語はレイアとハンの子どもたち、ジェイナ、ジェイセン、アナキンが誘拐されるというショッキングな事件から始まります。辺境惑星モント・コドルで屈強な保護者チューバッカに重傷を負わせた誘拐犯は子どもたちを連れ去り、政務に追われる母レイアを絶望の淵に陥れます。

当地に蔓延る営利誘拐に過ぎないとする地元政府の分析をよそに、より大きな脅威を感じ取ったレイアは子どもたちを守れなかった無念に打ちひしがれるチューバッカを伴って勇躍宇宙の彼方へと飛び立つのでした。

誘拐犯により重傷を負わされたチューバッカ(出典:Wookiepedia

謎の生命体ワルー(出典:Wookiepedia

一方、銀河の辺境に位置する旧帝国施設〈クリシア・ステーション〉から謎のメッセージを受け取ったハンとルークは真相究明のため同地へ向かい、多くの信者を集めるカルト教団の教祖ワル―と対面。この世のものとは思えぬ奇怪な風貌で人々の病を癒す不可思議な力を持つの持ち主を前に、失われしジェダイ候補を求めるルークは激しく心惹かれ、日頃の彼に似合わぬ動揺を露わにするのでした。

そしてさらわれた子どもたちは帝国の残党である邪悪な男ヘスリア卿が支配する謎の収容施設へと連れ去られてしまいます。莫大な富を背景に銀河帝国の復活を目論む秘密結社「再生帝国」を立ち上げたヘスリアは、駆り集めた子どもたちに洗脳教育を施すことで新帝国の先兵に仕立て上げていたのでした。

そして自らの邪悪な野望達成のため、とりわけ強いフォースの持ち主であるアナキンを用いてある恐ろしい計画に着手しようとするのです・・・。

「再生帝国」の領袖ヘスリア卿(出典:Wookiepedia

果たして子どもたちの運命は? ルークすら慄かせる謎の生命体ワル―の正体は? そして怒れる母レイアは無事子どもたちを救い出すことができるのでしょうか?

***

誘拐された子どもたち、とりわけ長女ジェイナ目線の冒険と謎の生命体ワル―が醸し出す不可思議さが本書の要点であり、同時に好き嫌いを分かつポイントでもあります。「少年少女が集まる収容所を舞台とする5歳児目線の冒険譚」ということで全編に渡ってジュニア小説的風味が強く、また既存のスター・ウォーズ世界観から大きく外れた能力や背景を持つワル―の存在は多くのファンに違和感を感じさせ、そんなワル―を前に狼狽するルークの姿はお馴染みのヒロイックなルーク像から大きくかけ離れるものでした。

そして冒険活劇としての魅力にも乏しく、手に汗握るダイナミックな戦闘シーンやライトセーバーによる剣劇もほぼないという地味さ。また、ブラックホールの影響を強く受ける白色矮星というSF作家ならではの興味深い舞台装置は魅力的ながら、それらの影響でフォースとの繋がりを保てず敵味方ともフォース感応者としての能力を十全に発揮できないとする設定は、スター・ウォーズ愛好者たちが望んでいるものから大きくかけ離れたものであったと言わざるを得ないでしょう。

先駆的特徴その1:帝国残党とベイダーの弟子

本書の「メイン・ヴィラン」となるのはかつてベイダーの弟子であり、「正義の代行官」として帝国の名の下に人々を弾圧し、帝国崩壊後はその再建を掲げる「再生帝国」盟主として暗躍するヘスリア卿ですが、彼を取り巻く肩書の一つ一つが私たち現代人愛好者には馴染み深いものでしょう。

例えば「ベイダーの弟子」はゲーム作品『フォース・アンリーシュド』で活躍したスターキラーことギャレン・マレックを彷彿させ、ヘスリアの出身母体であるダークジェダイによる帝国の執行官「正義の代行官」は『反乱者たち』をはじめ様々な作品で活躍する尋問官たちを彷彿させ、帝国再建を目論む秘密結社「再生帝国」は『マンダロリアン』登場のモフ・ギデオン率いる組織をはじめとする帝国残存勢力を彷彿させます。

ベイダーとその弟子マレック(出典:Wookiepedia
帝国のエージェント、尋問官たち(出典:Wookiepedia
モフ・ギデオンと配下の軍団(出典:Wookiepedia

本書中ではその力の強大さを実感させる記述もなく、ルークと直接渡り合う場面もなく、まことに物足りない活躍ぶりと言う他ないヘスリア卿ですが、現今のカノン作品群を参考に様々なIFストーリーを創造してみるのも一興でしょう。

カノンとの符合2:別銀河と未知なる力

本作においてもっとも強い存在感を放つのは、なんといっても謎のカルト集団の長であるワルーでしょう。一時はルークですらその存在に魅了されてしまった異質な力の持ち主である彼の正体は別銀河から迷い込んだまったく未知の生命体であり、その力の源もフォースとはまったく異なるものという当時の『スター・ウォーズ』愛好者を戸惑わせるに十分なものでした。

しかしレジェンズ作品群における別銀河からの侵略者シ=ルウクユージャン・ヴォングは言うに及ばず、カノン作品『アソーカ』における別銀河に位置するぺリディアといった舞台設定や、『ローグ・ワン』のチアルートが駆使した力、『クローン・ウォーズ』におけるダソミアの魔女や『アソーカ』におけるグレートマザーたちの魔術、はたまた『反乱者たち』などでも言及された諸設定に見られる「フォース」以外の形や名称で認識される「宇宙を取り巻く大いなる力」という概念設定が珍しくなくなった現今の『スター・ウォーズ』環境においては、もはやそれほど異質なものではなくなっていると言えるのかもしれません。

『バクラの休戦』の主敵シ=ルウク(出典:Wookiepedia
『ニュー・ジェダイ・オーダー』シリーズの主敵ユージャン・ヴォング(出典:Wookiepedia
『アソーカ』にて登場した別銀河に位置する惑星ぺリディア(出典:Wookiepedia

また、英雄ルークのフォースに対する逡巡や惑いの描写も後にはシークエル三部作で描かれることになり、こちらも激しい賛否を呼んだものの、フォースという永遠に未知なる存在に対する終わりなき探求を宿命づけられたジェダイの業を感じさせる展開と言えるでしょう。

チアルートが駆使した力は「フォース」と断言しきれるものではなかった(出典:Wookiepedia
「魔術」を駆使するダソミアの魔女の祖先と思しきグレートマザー(出典:Wookiepedia
過ちを犯し、すべてを失って慟哭するルーク(出典:Wookiepedia

今後ますます世界観の広がりを見せ続けるであろうスター・ウォーズ作品群において、かつて「イロモノ」と断じられた本作は案外パイオニアの風味を醸し出していると言えるのかもしれません。

参考資料

本記事でご紹介した『クリスタル・スター』はかつて竹書房より出版されましたが現在絶版であり、各種ECサイト等にて購入されることをお勧めいたします。

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