『ダース・モール/闇の狩人』〈シスを裏切る者には死あるのみ〉【レジェンズ小説】

レジェンズ小説
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本作の主人公ダース・モールはSW屈指の人気を誇るキャラクターの一人と言えるでしょう。迫力ある外見と凄みある佇まい、それを裏切らぬ優れた戦闘能力によって多くの観客に忘れがたいインパクトを植えつけた彼は、旧三部作と打って変わって華麗でアクロバティックなアクションが多くを占める新三部作を象徴する存在とも言えるのではないでしょうか。

彼の「功績」はそれだけに留まりません。アナキン・スカイウォーカーの苦悩を理解し、助けの手を差し伸べ得たかもしれないクワイ=ガン・ジンを殺害したことで、”選ばれし者”のシス転向をより容易なものにせしめたという意味で、彼もまた師シディアスとともにSW銀河に『ファントム・メナス見えざる脅威』を仕込むことに成功していたと言えるでしょう。

これほどのインパクトと隠れた重要性を持つキャラクターを一作だけで葬り去るのは惜しい、というのはすべてのSWファンが共通して思うところではないでしょうか? 実際『ファントム・メナス』以前の彼の活躍を物語る作品も未邦訳ながら多く刊行され、『クローン・ウォーズ』シリーズでボバ・フェットよろしく死からの復活を遂げた彼は混沌を深める銀河の第三勢力として頭角を現し、陰に陽に活躍を繰り広げて行くことになりました。

本作はそんな彼が未だシディアスの懐刀として完全なる「影の存在」となって暗躍していた時代の物語であり、時系列を通してそのキャラクターを大きく変化させて行くことになる彼の当初の姿、つまり師への盲目的忠誠を原動力とする冷酷な殺戮マシーンとしての魅力を余すことなく描写した作品と言えるでしょう。

あらすじと魅力:サスペンスと脱・神話

ダース・シディアスの与えるアメとムチによって銀河史に大きな変化を与えることになる通商連合も決して一枚岩ではありませんでした。目前に控えたナブー封鎖計画の全容を記した記録媒体ホロクロンを手にした連合副総督ハス・モンチャーが忽然と姿を消したのです。シスとの共同事業という前代未聞の投機に怖気づき、それからの逃避と手っ取り早い利益回収を狙っての暴挙でした。事実をひた隠しにしようとする総督ヌート・ガンレイらの嘘を直ちに見抜いたシディアスは弟子ダース・モールに命令を発するのでした。「直ちに裏切者を探し出し、抹殺せよ」と。

シスの標的となったモンチャーはコルサントの暗黒街へと身を隠し、手元の重大情報をカネに換えるべくある情報ブローカーとコンタクトを取ります。その男こそが本作のもう一人の主人公となるローン・パヴァーンであり、特殊な改造を重ねたドロイドI-5アイ・ファイブとともに悪夢のような冒険を繰り広げることになるばかりではなく、ジェダイ騎士団と深い悪縁で結ばれた男でもあったのでした。

そして公式には『ファントム・メナス』で初めてシスに遭遇することになるジェダイ評議会からも事件に巻き込まれる者が登場。ナイト昇進のためのトライアルに挑む若き女性パダワンのダーシャ・アサント、その師アヌーン・ボンダーラは謎めいた事件の影に伝説のシスの影を認め、想像を絶する激闘に身を投じて行くことになります。

個性的なキャラクターと優れたプロット、映画本編の内容を承知しているはずの読者にも「まさか・・・?」と手に汗握らせる機転の利いたクライマックスの展開が秀逸な作品であり、また不幸な過去によってジェダイ評議会に深い恨みを抱くローンの目を通して「正義の騎士」ともてはやされるジェダイたちの独善性や欺瞞に対する鋭い言及もみられ、作中でシディアスが説く「光と闇」という二元論を否定するフォース観も相まって、本書が刊行された2001年当時の新三部作始動にともなう古典的世界観が崩壊し始めた新たなるSW世界観の片鱗が窺える作品ともなっています。

モールとアソーカ〈ジェダイの本分、シスの本分〉

ダース・モールの後半生を想うとき、私はアソーカ・タノの後半生を彷彿します。ともにシスとジェダイという偉大な組織に属してその教義を学びながらもやがて離反し、にも関わらず互いの組織の思想を体現する存在となったという点で、この両者はとてもよく似た存在であると言えるでしょう。

オーダーから離れ、それでもなおジェダイの本分を貫くアソーカを支えたものがかつての師や仲間たちと積み重ねたジェダイの道であったならば、シスの弟子であることを放棄させられてもなお怒りと憎しみと復讐というシスの本分を遺憾なく発揮するモールを支えたものもまた、師シディアスとともに積み重ねてきたシスの道であったことでしょう。

彼の後半生を彩る復讐心は師への盲信に発するものであることは明白です。思えば彼の盲目的忠誠心はシスに似つかわしくないものです。力をつけると同時に師への反抗心を増幅させ、師を裏切って自らシス・マスターとなり、やがて自らも弟子の裏切りの犠牲になるというのがシスの常道であったことを思えば、彼の生き方はその残虐さを除けばシスよりもむしろジェダイを彷彿させます。異なるのは師への想いが尊敬と忠誠か、恐れと盲信ということに尽きるでしょう。

本作で遺憾なく描写される長年培われた師への盲信が裏切られた時、無条件の忠誠は無条件の憎悪となって彼をシスとして本来歩むべき道へ突き動かしたと見ることも可能でしょう。本作はダース・モールという男のヒロイズムを味わうに留まらず、後に復讐者として銀河の表舞台に姿を現すに至る原動力にも想いを馳せさせる作品となっているのです。

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