『ハイ・リパブリック:ジェダイの光(上・下)』〈遠い、遠い昔、はるか彼方の銀河で・・・〉【カノン小説】

カノン小説
記事内に広告が含まれています。

遠い昔、はるか彼方の銀河で始まった物語は我々の前に優に40年を超える歴史を刻んでいます。太くたくましい幹である映画本編からは数多のスピンオフ作品群が枝となって天を突き、数多のインスピレーションが葉として空を覆い尽くし、愛すべきキャラクターたちが果実のように実っています。

一度はその命を終えたかに見えた幹には新たなる生命が宿り、数多の毀誉褒貶を浴びながら今もなお成長を続けようとしています。新たなる幹からは新たなる枝が伸び、新たなる葉が生じ、新たなる果実が実って行きます。

それを長寿と寿ぐべきなのか、老醜と嘆くべきなのか。この物語を愛でる者たちの間でも、その意見と心境は多種多様かつ複雑なものでしょう。往生際悪く老いさらばえた醜さに居たたまれなさと軽蔑、そして憎しみすら抱くと思えば、予想外の美しさに息を呑み感服することもある。物語は美と醜、清と濁、光と闇の綾織りを成して我々愛好者たちを翻弄するかのようです。

そんな愛好者たちの困惑や葛藤をものともせず、SWという大木は成長を続け、今また「ハイ・リパブリック」という新たなる枝が天に向かって伸びて行きます。

時代背景と魅力:若き共和国とジェダイ騎士団

本作の最大の魅力は何と言ってもSWの原点回帰と呼ぶべきポジティブな輝きに充ちた世界観にあるのではないでしょうか。新三部作の公開以降、善悪不在の群像劇として深みのある物語へと変身を遂げたSWですが、その完成度と引き換えに、かつてほど無邪気な楽しみ方のしづらい物語となったことは否めません。もはや善と悪、光と闇といった勧善懲悪の物語が持つ大らかで爽やかな味わいは薄れ、善の裏に潜む悪、光が投げかける影に複雑な思いを馳せざるを得なくなったことは間違いないでしょう。

しかし本作は違います。映画本編の約200年前を描く本作では、かつて偉大な歴史と栄光を纏いながらも全身を蝕む腐敗に悶えつつ死んでいった共和国は若く理想に溢れた壮健な姿をしており、同じく偉大な歴史と栄光を纏いながらも迷妄の闇に陥っていったジェダイ騎士団も、誰疑うことのない守護者としての輝きを放っています。

我々は皆、共和国だ

物語の随所に登場するこのスローガンに代表されるように、本作に登場する人々の多くは共和国とジェダイを信じ、無秩序と野蛮に満ちた時代を過去のものとしようとそれぞれの義務や冒険を果たして行きます。というわけで本シリーズの真の魅力は、若き共和国やジェダイの雄姿よりも、それらに希望を託しつつ多くの人々が生きた、共和国黄金時代とも称される「ハイ・リパブリック」時代そのものなのかもしれません。

当時の銀河共和国はまさに偉大なる事業〈グレート・ワークス〉の真っただ中。多くの人々が共和国が象徴する理想を信じ、使命感に燃え、分裂への不安ではなく統合への希望とともに在ったのでした。

あらすじ:世は大開拓時代

本作で強い存在感を放つのは、共和国が苦心の果てに建設した巨大宇宙ステーション〈スターライト・ビーコン〉です。今や発祥の地コア・ワールドを越えてアウター・リムにまでその版図を広げようとする共和国繁栄の一里塚として築かれたステーションは、今まさに落成式を迎えようとしていました。しかし・・・。

とある前代未聞の大惨事がすべてを狂わせようとしていました。ハイパースペースに現れた謎の物体。犠牲となった多くの罪なき入植者たち。数十億の命ごと滅亡の危機に見舞われる星々。それらへの関与が疑われる暴力犯罪集団の暗躍・・・。

銀河に掲げられた大いなる理想は大いなる幻想として終わってしまうのでしょうか? すべては共和国を支える人々の、そして「共和国の守護者」たちの双肩にかかっているのでした。

ジェダイよ、あなたたちが必要です

しかし救うべき数十億の命に対してその場に居合わせたジェダイはほんの少数に過ぎませんでした。いったい彼らに何ができるというのでしょうか? 果たして数十億もの人々の命は? 物語は序盤から緊迫の展開を見せ、私たちの心を掴みます。

この時代のジェダイたちの姿はかつてSWファンが思い描いた「守護者」そのものの姿をしています。首都コルサントを本拠とし、辺境宇域に数々の駐屯地「アウトポスト」を築いてならず者たちを相手に平和維持活動に勤しむ姿はまさに銀河のシェリフといった趣き。同じく希望に満ちた開拓時代を経て超大国へ、そして腐敗に苦しみながらやがて分裂の危機に苛まれるところまで、本作における共和国の存在はどこまでもSWを生んだアメリカの歴史を彷彿させます。

ともに「銀河の統一」を目指しながら、一つの種族、一つの国家、一人の指導者による圧制を目指し、一撃で惑星を破壊しうる巨大ステーション〈デス・スター〉を象徴とした帝国と、あらゆる種族の融和と繁栄を目指して、異文化理解と開拓者たちの保護を使命とする巨大ステーション〈スターライト・ビーコン〉を象徴とする若き共和国

ともに「銀河の守護」を目指しながら、もはや自身の在り方を見失った共和制末期のジェダイ騎士団と、自らの在り方に一片の疑いも持たずに済んだ若きジェダイ騎士団の対照の妙。これらを味わうことこそが本作に始まるハイリパブリック・シリーズの醍醐味と言えるでしょう。

新たなる脅威:暴力犯罪集団ナイヒル

このように若き魅力に充ちた共和国とジェダイ騎士団が印象的な本作ですが、それだけでは物足りません。物語には同じく魅力的な悪役が不可欠ですが、本作でその役割を担うのが謎の犯罪集団ナイヒルです。

物語の発端をなした大惨事に関してあまりにも多くの謎に戸惑う共和国とジェダイたちは、やがて銀河を荒らし回る無法者集団ナイヒルの存在へとたどり着きます。「蛮族」と呼ぶべき暴力の権化である彼らはいくつかの階層に分かれての明確な指揮系統のもとに行動しており、マーシオン・ローなる謎のカリスマによって率いられ、残虐さと並んで予測不能な神出鬼没ぶりで銀河の人々を恐怖のどん底へと叩き落しています。

彼らを迎え撃つ形になるジェダイ騎士団のなかで出色なのはアヴァー・クリス。若くしてマスターの称号を持つ彼女はフォースの流れを「歌」として捉えることで深く繋がり、大きな力を引き出すことができます。また、熟練したトワイレックのジェダイマスター、ローデン・グレイトストームは多くの活躍を繰り広げつつも物語終盤に驚くべき事態に巻き込まれ、次作以降の活躍が気になるところです。そのほか多くの新たなるジェダイたち、そしてごく少数の馴染みあるジェダイたち―もちろんヨーダを含む―が登場し、今後の活躍を期待させます。

果たしてマーシオン・ローの正体と目的は? そして彼らの神出鬼没を可能にしている秘密とはなにか? 多くの未知の設定や名称が飛び交う作品世界では数少ない馴染みある名前、サン・テッカ一族の一人をキーパーソンとして物語は進んで行きます。現時点でははっきり言って「魅力的」よりも「謎めいている」方の印象が強いナイヒル及びマーシオンですが、今後どのような活躍を見せて行くのでしょうか。そしてジェダイ騎士団は憎むべきナイヒルとどのような戦いを繰り広げて行くのでしょうか?

ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

コメント

タイトルとURLをコピーしました