『ジェダイ物語(Tales of the Jedi )』シリーズ〈いにしえの背教者。その罪と罰と救済〉【レジェンズコミック(未邦訳)】(2 of 3)

レジェンズコミック
記事内に広告が含まれています。

若く才能あふれるジェダイ、ウリック・ケル=ドローマとノーミ・サンライダーたちの活躍によって邪悪なシス卿フリードン・ナッドの亡霊はその野望を打ち砕かれました。しかし英雄たちは息つく間もなく次なる戦いへと身を投じることを強いられます。そしてその戦いは、二人の英雄をまったく別の運命へと導くこととなるのでした・・・。

3996 BBY:『シスの暗黒卿たち』(’94年)

#1:エンプレス・テタ征討軍
#2:猛り狂うエンプレス・テタ兵士

ナッドによって暗黒面の力を授けられたエンプレス・テタの王族サタールとアリーマは自らを「クラース」と称し、その有り余る力を使ってクーデターを決行。血みどろの統治に明け暮れる邪悪な支配者となった彼らを罰するべく共和国とジェダイの連合軍が立ち向かいますが、それは恐るべき大戦争の序章に過ぎなかったのでした。

一方、有り余る才覚と傲慢さに充ちたジェダイ候補生エグザ・キューンは師の教えに真っ向から反発。師を打ち破った彼は更なる力を求めて禁断のシスの教えを探し求め、オンダロンの衛星ディクサンに葬られたフリードン・ナッドの亡霊を再び呼び起こすこととなったのでした。尽きぬ好奇心と力への渇望を抑えきれないキューンは古代の亡霊に導かれるまま、シス魔術の探求という危険な旅路へと足を踏み入れたのでした。

#3:己の無力に打ち沈むウリック・ケル=ドローマ
#4:マサッシ神殿で暗黒面の怪物と対峙するエグザ・キューン

前作で大きな成長と活躍を見せたウリックとノーミは度重なる戦いを共にすることで絆を深め、それはやがて愛へと発展して行きます。しかしフリードン・ナッドの忘れ形見ともいうべき「クラース」の力はあまりに強大なもので、ジェダイと共和国の連合軍は苦戦を余儀なくされます。シス魔術によって強化されたその軍勢はなんとジェダイたちが一堂に会する惑星デネバを強襲するまでに増長し、多くの人々を巻き込む戦いの果てにウリックは目の前で師アーカ・ジェスを喪います。己の無力を悔い、流血の悲惨を思い知ったウリックは仲間の反対を押し切り、自ら強大な「クラース」内部に潜入してその力の秘密を探り出すことを決意します。しかしそれはジェダイがもっとも忌む暗黒面の力に限りなく近づく危険な行為でもありました。

エグザ・キューンはナッドの導きにより彼よりも更に古い時代に生きたシス卿ナガ・サドウの遺産を求めて衛星ヤヴィン4へと向かいます。彼を待ち受けていたのはかつてサドウを神と崇めた原住民マサッシの戦士たちでしたが、強力な力で彼らを圧したキューンは新たなる支配者として彼らの上に君臨します。しかしシスへの探求を深める彼の心は取り返しのつかないほど闇に染まって行きました。もはや彼自身が望むと望まざるとに関わらず、その魂を充たしその身体を突き動かすのは邪悪な暗黒面の力でしかあり得なかったのでした。己の本性に目覚めたキューンは完全に暗黒面に心身を委ねる決意を固め、その力は比類ないものとなります。彼は自分を利用して復活を謀ろうとしていたナッドの亡霊を葬り去ると、その力を銀河の支配に向けるべく恐るべき野望に着手するのでした。

#5:ウリック救済に赴くノーミ・サンライダ
#6:闇に堕ちたウリック・ケル=ドローマ

ウリックの身を案じるジェダイたちの憂慮は不幸にも的中しました。首尾よく「クラース」に潜入しアリーマの心をも掴んだウリックですが、その心の底には師アーカを殺害した彼らへの怒り、そしてそれを防げなかった己の弱さへの軽蔑が抑えがたく横たわっていました。取り返しのつかなくなるうちに彼を元の道に復させようと手を差し伸べる仲間たちの手を払いのけたウリックは、彼の本心を突き止めたサタールとの決闘で自らの負の感情を解放、怒りのままに彼を打倒したウリックはついに自らの運命を永遠に変えてしまう選択を行ったのでした。

時を同じくして、ナッドを葬り新たなる暗黒卿として台頭したキューンは自らの対抗者となり得るウリックを亡き者にしようと「クラース」の本拠に降り立ちます。しかし同類相食む決闘を阻んだのは、今では彼らの先達となる太古のシスたちの亡霊でした。彼らは現存する唯一の暗黒卿たり得る二人が対立することの無為を説き、互いに師弟となることで銀河の支配に向けて手を携えることを提案。亡霊によって正式にシスとしての洗礼を授けられた二人の背教者は、ここに恐るべき同盟を結んだのでした・・・。

3996 BBY:『シス戦争』(’95年)

#1カバーアート:ウリック・ケル=ドローマと同盟者マンダロア・ジ・インドミタブル
#2カバーアート:古代シスの亡霊を解き放つエグザ・キューン

強力なジェダイ二人の背教は銀河に大きな波紋をもたらしました。テタ星系を支配する「クラース」の急速な台頭は名誉ある征服行を求める古代マンダロリアンの関心を惹きつけ、決闘を通じてその力に敬服した彼らの頭目マンダロア・ジ・インドミタブル不屈のマンダロアはウリックに忠誠を誓います。シスの魔力に加えてマンダロアの軍事力を得た「クラース」は共和国の造船所を襲い、膨大な数の艦船をも確保。もはや留まるところを知らないかに見える彼らは大胆にも首都惑星コルサントまでもその射程に収めたのでした。

一方エグザ・キューンの活躍は一見地味ながらより深刻な影響をジェダイ騎士団に与えて行きます。密かにジェダイたちのもとへ戻ったキューンは強大な力に関する秘密を匂わせることで彼らを誘惑。言葉巧みにヤヴィン4へと連れ帰った離反者たちをまんまとシスの手先へと転向せしめたのでした。共い旧きジェダイ討滅を誓う彼らは至るところでかつての同胞や師を手に掛け、次々にその手を血に染めて行きました。恐るべきジェダイ虐殺が始まったのです。

#3カバーアート:師ヴォド=シオスク・ヴァスと対決するエグザ・キューン
#4カバーアート:暗黒面の怪物に立ち向かうノーミ・サンライダーとマスター・ソン

キューンの制止も虚しく首都コルサント強襲を敢行したウリック。しかしその前に立ちはだかったノーミ・サンライダーもまた彼に劣らぬ強大なジェダイとして成長していました。フォースを通じて相手を戦意喪失もしくは同士討ちへと誘う「戦闘瞑想バトル・メディテーション」の技術によって恐れられた彼女はそれをさらに発展させ、相手からフォースとの繋がりそのものを断つ技術をも習得していたのでした。予想外の反撃と同志アリーマの裏切りによって快進撃を続けたウリックはついにこの地で囚われ、戦争犯罪者として裁判にかけられることとなったのでした。

卑劣な裏切りによって強大化した「クラース」の首領に返り咲いたアリーマでしたが、個人的にウリックへの忠誠を誓うマンダロア・ジ・インドミタブルは独断でキューンにその救助を依頼。マンダロアの大軍勢と共にウリック弾劾裁判に乗り込んだキューンは恐るべきシス魔術でその場の人々を圧倒。立ちはだかるかつて師ヴォド=シオスク・ヴァスをも葬り、共和国最高議長すらもその手に掛け、ウリックと共に、人々に絶望だけを残して去ったのでした。

#4カバーアート:ケル=ドローマ兄弟の対決
#6カバーアート:ジェダイによる「光の壁」に圧倒されるエグザ・キューン

裏切者の粛清と役立たずの始末。再び銀河に返り咲いたウリックはキューンと共に、利己心の塊たるシスにふさわしい恐るべき計画に着手します。アリーマを指揮官とする「クラース」艦隊は共和国の拠点の一つクロン星団でナガ・サドウが遺した強力な兵器を用い、誰もが予想しなかった規模の超新星爆発を引き起こすことで防衛に赴いた共和国・ジェダイ連合軍の多くを葬り去りますが、その強力すぎる連鎖反応は彼女たち自身をも銀河の藻屑としました。

憎むべき敵と不穏分子を一掃した超新星爆発の余波はジェダイたちの英知の貯蔵庫である惑星オッサスにまで及びます。迫りくる滅亡を前に混乱を極める人々の前に再び立ちはだかったウリックに対し、彼の弟ケルは兄を救うべく命を懸けた説得に努めるのでした。もはや後戻りできぬ深みにはまったウリックはしかし、自らの手で実の弟の命を奪って初めて己の欺瞞と愚かさに打たれ、遅すぎる後悔に身を引き裂かれたのでした。

ジェダイたちは混乱に乗じてオッサスから多くの知の遺産を奪い去ったキューンを追ってヤヴィン4へ侵攻。盟友ウリックを失ったキューンはもはや独力での対抗は不可能と観念したものの、最後の賭けに出ることを決意します。それは彼に従う全マサッシたちの生命エネルギーを犠牲とすることで己の魂を分離し、永遠の存在として生き続けるというもの。しかしノーミたちジェダイが一丸となってつくり出したライトサイドの壁によって封じ込められた彼の魂は、死ぬこともできず永遠に暗闇の中に閉じ込められることとなったのでした・・・。

幕間:「サタニック・ジェダイ」の背景

こうして打ち砕かれた恐るべき暗黒卿たちによる銀河征服の野望ですが、そもそも一連の災厄の元凶となった、まるで「悪魔憑き」のようなジェダイのシス転向はなぜ起こるのでしょう? 暗黒面に囚われ暗黒卿としての道を歩み出した二人のジェダイは、決して初めから邪悪な野心に心を曇らせていたのではありません。ウリックは流血の惨事から銀河を救うため、そして師を死へと追いやってしまった自らの無力を克服するために暗黒面へと近づき、キューンもまたそもそもの始まりは有り余る好奇心と向上心に拠るものでした。つまりシスとなってからの野望「銀河征服」など思い描いてさえもいないのです。

私はその元凶を、彼らの心に巣食う「罪悪感」にあるのではないかと思います。スピンオフ小説『ダース・プレイガス』にてシディアスの師プレイガスはこう語ります。

「不安と憎しみに駆り立てられれば、ジェダイですらオーダーの教えが拘束している先の境地へと達し、さらに深い力を見いだすことができる。だが、平和と正義への忠誠を越えた者、怒りや欲望に駆られて殺したジェダイですら、ひとりとしてダークサイドのフォースをわがものにすることはできない。ダークサイドに堕ちた、あるいはダークサイドがこんな行動を取らせたと自分を納得させようという試みは、あわれな正当化に過ぎないのだ。だからこそ、シスは最初から闇を抱き、力の獲得に集中する。われわれは言い訳を口にしない。シスの行動は自己から始まり、力へと流れ出す。われわれは餌食となる小動物のようにフォースの解きがたい気まぐれに降伏するのではなく、ハンターのようにフォースにつきまとう」

シスと「ジェダイ崩れ」の違いはここにあるのではないでしょうか。彼らがそのすべてと思い定めていたジェダイの道を自らの意思で捨て去り、そのことへの罪悪感に押し拉がれたとき、己の罪深さから目を背けたい一心の彼らはそのような決断を下した自分自身を正当化できる世界の獲得を目指してしまうのではないでしょうか?

しかしそのようなものは所詮幻想に過ぎません。迷妄を打ち砕かれ、己の罪を見つめながら生きるしかないという真実に向き合わされた者はどうやって生きて行くのでしょうか? 否、生きる価値があるのでしょうか?

3986 BBY:『贖罪』(’98年)

未曽有の大戦争から10年。実の弟を手にかけた自分の行いに打ちのめされ、怒りに我を忘れたノーミの「戦闘瞑想」によって永遠にフォースとの繋がりを断たれてしまったウリックは、終の棲家と定めた極寒の惑星レン=ヴァ―で独り虚しい余生を送っています。「自分はなぜ自ら命を断たないのか」それだけを考え続けながら・・・。

#1カバーアート:虚しい余生を送るウリック・ケル=ドローマ
#2カバーアート:己の務めに身を捧げるトット・ドニータ

10年の歳月を経て、物語の主人公たちは大きな成長を遂げています。かつてウリックの盟友の一人であったトット・ドニータは窮乏に喘ぐ同胞トワイレックたちの保護に努め、ノーミ・サンライダーはジェダイと共和国の偉大な指導者として欠かせぬ存在となっています。ほんの子供に過ぎなかった彼女の娘ヴィマも今では活発な少女へと成長しましたが、自分を顧みない母への反発は日を追って大きくなって行きます。日々の公務に追われるノーミは、偉大なジェダイとなるべき資質を備えている娘に満足な修行すらも施せていないのでした。多感な少女の我慢はついに限界を迎え、自らを導いてくれる師を求めて出奔します。目指すのはかつて母が愛した偉大なジェダイ、ウリック・ケル=ドローマのいるところ。

突如現れたヴィマに驚き、その申し出に更に驚きを深くするウリック。フォースとに繋がりを断たれた自分に、ましてや過去に計り知れない罪を犯した自分に師たる資格はないと拒絶するウリックでしたが、どこまでも彼を信頼するヴィマのまなざしに心動かされ、自分にできる限りの導きを与えることを決心します。それはかつて悪にまみれ、今では罪に苛まれ、もはや生きる意味をも喪失していたはずの男に訪れた、第二の人生の始まりでした。

#3カバーアート:レン=ヴァーをさまようヴィマ・サンライダー
#4カバーアート:身を裂く憎しみに悶えるシルヴァー
#5カバーアート:ウリック・ケル=ドローマの償い

かつて愛した女の娘との交流の日々は確実にウリックの心をほぐし、彼に生きる意味を与えました。しかし彼が過去に犯した罪悪の余波は決して鎮まってはいないのでした。戦争のさ中、キューンの言葉に従って暗黒面に囚われて非業の死を遂げた恋人を忘れられぬジェダイのシルヴァーは満足な刑罰も与えられぬまま姿をくらましたウリックをその手で討ち果たすことを願い、レン=ヴァーに乗り込みます。ヴィマの失踪と居所を知ったノーミもまた己の無思慮を悔い、娘をかつての大罪人の手から取り戻すためにレン=ヴァーへと向かいます。

しかしノーミの憂慮をよそに人間性を取り戻したウリックの指導のもと、ヴィマは強く聡明なジェダイとして成長していました。ノーミはかつてこれ以上ないほど愛し憎んだ男の心の変化を理解し、彼を赦しますが、同時に到着したシルヴァーはそれを信ぜず、飽くまでもウリックを亡き者にしようと復讐の刃を向けるのでした。

ウリックは彼女の攻撃を防ぎつつ、彼女の行いの虚しさを説きつつも、その刃の下に自らを差し出します。かつて自分自身が愛する師を失った怒りと憎しみと無力感によって道を踏み外したウリックには、道を踏み外すことを承知で復讐に燃える彼女を支配する「切実」が誰よりも、痛いほど、理解できたのです。

しかし彼が覚悟した死は、まったく意外な形で訪れたのでした・・・。

「ジェダイ」という生き方。「ジェダイ」という選択

SWとは選択の物語である」。どれほど強調してもし過ぎることはないであろうこのテーマは本作においても通底しています。「ジェダイである」ということは生まれながらに定められたものなのでしょうか。フォースとの繋がりを持つから人はジェダイになるのでしょうか。そうではないでしょう。本作において強力無比な素質を持ったジェダイたちが、自らシスとなる道を選択したことで己と周囲を大いなる破滅へと追いやりました。ジェダイであるためには、何よりもジェダイとして生きるという「選択」が不可欠なのです。

フォースを断たれ、無力感に苛まれるウリックは自らを目の見えなくなった芸術家に例えました。もはや自分には絵を描くことはできないのだ、と。それに対しヴィマは絵が描けないなら彫刻を彫れば良いと答えます。自らの天分を活かすには様々な方法があるはずだ、と。

フォースに触れられないからジェダイではいられないというのは言い訳であり、フォースに触れられなくてもジェダイとして生きる「選択」はできるのではないでしょうか。過去を持ちも知りもせぬことで無限の開放性を持つヴィマの言葉に応じてジェダイとしての生き方を取り戻して行くウリックの行動は、その最期に正しさが証明されます。フォースと断絶したはずの彼の命が尽きたその瞬間、彼の肉体はフォースと一体化して消失したのです。

それは高度な修行を積んだジェダイ・マスターにしか起こりえないはずの現象でした。かつて道に背き、悪に染まり、フォースとの繋がりを断たれ、あらゆる意味でジェダイとしての資格を失ったかに見えたウリックは、自らの「選択」によって再びジェダイとしての道に復したのです。そして彼が心から悔いる悪行の記憶は誰よりも他者の痛みを理解させ、復讐に憑りつかれたシルヴァーの魂を救うに至り、それによって自らの魂をも救ったのではないでしょうか。

かつてアナキン・スカイウォーカーは命と引き換えにシスを滅ぼすことでその罪を償い死んで行きました。同じく消せない罪を背負ったウリックが生き長らえた理由もまた、罪の痛みとともに他者を導き、他者を救い、未来を育てるという償いを果たすためだったのではないでしょうか?

かつて光にあふれながら闇を選び、再び大いなる光へと回帰することを選んだ男の物語は、単なるスピンオフ作品であることを越えて、もう一つのSWと呼んでも過言ではない格調を備えてはいないでしょうか?

≫次作『シスの黄金時代』『シス帝国の没落』

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

コメント

タイトルとURLをコピーしました