『ジェダイ・アカデミー』三部作〈新生ジェダイ騎士団の産声〉【レジェンズ】

レジェンズ小説
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帝国を打ち倒した反乱同盟軍は高らかに「新共和国」を名乗り、数千世代に渡って光り輝いた旧共和国の継承者と成るべく理想に燃える一歩を踏み出しました。しかし政府を司る暫定評議会内部の対立に帝国軍残党の脅威と、終わりなき内憂外患に喘ぐ新共和国の礎は未だ盤石とは程遠いものでした。

多くの人々は、新共和国にはかつての共和国に存在していた重要な人々が欠けていることに気付いていなかったのです。フォースを自在に操り、銀河の守護者にして調停者として旧共和国を支え続けたジェダイ騎士団が欠けていることに・・・。

「拡張世界」の覇者

本シリーズは今では「レジェンズ」と総称される拡張世界エクスパンション・ユニバース」を語るうえで欠かせない作品と言えるでしょう。作者ケヴィン・J・アンダースンは映画本編の約5000年前から4000年前を描く『ジェダイ物語』(『Tales of the Jedi』未邦訳)の主要作者の一人でもあり、もう一人の作者であるコミック脚本家トム・ヴィーチはレジェンズ・コミックの名作としてジョージ・ルーカスも絶賛したという『ダーク・エンパイア』シリーズの生みの親でもあります。

知名度や人気という点では、今なお高い人気を誇るスローン大提督を生み出した『帝国の後継者』三部作で知られるティモシイ・ザーンに軍配が上がるかもしれませんが、「拡張世界」のベースを作り上げたことへの功績という点ならばこの二人に勝る者はいないでしょう。

トム・ヴィーチによって始まりケヴィン・J・アンダースンによって引き継がれた、古代銀河を舞台とするジェダイとシスの宿命の対決を描く『ジェダイ物語』シリーズから、彼らの末裔たるルークとパルパティーンとの最終対決を描く『ダーク・エンパイア』シリーズは1991年から1998年にかけてという屈指の「長期政権」を誇るシリーズであり、そこで活躍した多くの登場人物や舞台となった惑星、そして明らかにされた設定の数々は2012年のルーカスフィルム買収に伴う「拡張世界」凍結に至るまで基本的設定として生き続けただけでなく、少数ながらカノン設定に輸入されるという形で生き残りさえしたものもあります。また、先発作品である『バクラの休戦』や『レイアへの求婚』など、ともに「拡張世界」を構成する作品でありながら相互の繋がりに乏しかった小説作品群のあらましへの積極的な言及を行うことで小説版「拡張世界」にも統一的な展望を与えた作品でもあると言えるでしょう。

もちろん「拡張世界」作品群は同時期に並行して刊行されたものもあり、1994年に刊行され始めた本シリーズがその「末裔」であるという表現には語弊が伴います。しかし現代に生きる私たちの目から眺めるならば、およそ5000年前にヤヴィン4で潰えたナガ・サドウの野望終焉、その1000年後に起こったエグザ・キューン台頭とウリック・ケル=ドローマの悲劇、クローン皇帝の死によるシスの滅亡、ジェダイ再興を阻むため再びよみがえる古代シスの亡霊を滅ぼし、新たなる希望として輝く新生ジェダイ騎士団の発足に至る数千年に及ぶ壮大な物語の結末をその他周辺作品をも取り込みながら物語る本シリーズは、大きく広げられた「拡張世界」の一里塚と呼ぶに相応しい作品なのです。

新たなる展望と過去の亡霊

多くの登場人物と展開から成る本シリーズはあらすじを語るだけでもハイボリュームな内容となっていますが、もっとも感慨深いのはジェダイ騎士団再興に燃えるルークとそれを阻止すべく復活した古代シスの暗黒卿エグザ・キューンという未来と過去を代表する二人の対決でしょう。『ジェダイ物語』で主人公の一人を務めたキューンはジェダイでありながら暗黒面の誘惑に屈し、同じく堕落したウリック・ケル=ドローマと共に全銀河を震撼させたシス大戦を引き起こしたものの敗れ、魂だけの姿となって永遠の暗闇をさまよっていたのでした。

皮肉なのはフォースを感知できない者には存在を知らせることすらできないキューンは4000年に渡って誰にも知られず影響を与えることもできなかったにも関わらず、強力なジェダイとなったルークとその教え子たちが登場したおかげで再び銀河史にその姿を現すことができたということです。言い換えればルークたちが存在しなければキューンの復活も起こり得なかったというわけで、「光があるからこそ闇が存在し得る」という両者の関係性を象徴するような展開とも言えるでしょう。

古代暗黒卿の凄まじい力に圧倒されたルークはなんと仮死状態へと追い込まれ、有力な弟子として将来を嘱望された青年キップ・デュロンは幼い自分から人生と家族を奪った帝国への憎しみを煽られて新たなる暗黒卿への道を歩み始めてしまいます。キップは帝国が新たに開発した超兵器〈サン・クラッシャー〉を奪取して次々と帝国の重要施設を血祭りに上げてゆきます。しかも〈サン・クラッシャー〉は惑星どころか星系そのものを破壊するという、あの〈デス・スター〉をも凌ぐ大量殺戮兵器だったのでした。

キップの存在はシークエル三部作におけるカイロ・レンを彷彿させます。その理由は異なるとはいえ、キップもまたルークの弟子でありながら暗黒面の誘惑に屈し、ダース・ベイダーと己の相似に戦慄しつつも暗黒卿への道に足を踏み入れ、破壊と殺戮の限りを尽くして行きます。カイロはハンの息子でしたが、キップもまた物語序盤で帝国の鉱山奴隷として使役されており、同じく奴隷に落とされたハンと協力し合うことで脱出に成功したことからまるで年の離れた兄弟のような深い絆で結ばれています。そして「弟」の凶行に心痛めたハンはカノンと同じく命を賭しての説得を決意するのでした。

本シリーズとシークエルは同じくジェダイ再興に乗り出したルークの蹉跌を描きますが、大きく異なるのは彼の教えを受け継ぎ彼を支えることになる多くの弟子たちの存在でしょう。シークエルにおけるルークの弟子たちはカイロ・レンによって虐殺されてしまいましたが、本シリーズでのルークの弟子たちは師が仮死状態に追いやられたことに絶望し打ちひしがれはするものの、レイアの一喝を受けて前を向く決心を固めます。

「あなたたちは新世代のジェダイ騎士となるべき人材なのです。たしかに苦難にみちた道のりかもしれませんが、なんとか一人前に成長してください。新共和国はあなたたちを必要としているのですから。かつてジェダイ騎士団は千世代にわたって共和国の守護者をつとめました。最初の試練でくじけてどうするのですか? たとえジェダイ・マスターがいなくても、あなたたちはフォースの覇者になれるはずです。ルークの教えを守り、一歩ずつ進んでゆけばね。力を合わせて訓練を続けなさい。そして戦うべき相手とは戦いなさい。絶対にあきらめてはいけません!」

シークエル作品のルークを思い浮かべるとき、その姿には常に孤独の影が付きまといます。しかしレジェンズ作品におけるルークの姿には常にレイアやハンをはじめとする多くの仲間や理解者、そして彼を信頼する多くの弟子たちに囲まれている姿が想起されます。

そして彼を師と仰ぐ弟子たちもまた、その全員が既に相応の人生経験を積んだ者たちであったことも大きかったでしょう。頼れる先達もなく、自らの指導力に一抹の不安を感じつつも弟子たちの指導に打ち込んでいたことでは両作品ともに同じであったルークですが、本シリーズでは妹レイアをはじめとする何を措いても彼の味方となってくれる存在に助けられながら過去の亡霊との対決を繰り広げて行くことになるのでした。

「私は間違っていた。ジェダイ1人の力で銀河を救うことはできない。志を同じくする者が結束せぬかぎり戦いには勝てないのだ!」

かつて『ダーク・エンパイアⅡ』でルークが断言したこの一言は本作において見事に結実します。ジェダイの本分は他者との連携と共生にあり、それこそが己一人を恃むことしかできないシスにとっての越えられない壁となっているのでしょう。

帝国の十字架

本作に登場する人々の多くは、形は違えど帝国によって負わされた十字架の重みに喘いでいます。帝国への憎しみを抑えることができずに暗黒卿への道を歩み出してしまったキップは言わずもがな、数多のブラックホールによって守られると同時に外界から遮断された僻地中の僻地とも言うべきモー星団に位置する帝国軍秘密研究所では帝国に蔓延る女性蔑視への憎しみによって軍のヒエラルキーを駆け上がったダーラ提督がその旗艦〈ゴルゴン〉の名にふさわしく不気味な存在感を放ち、帝国による行き過ぎた詰め込み教育によって生けるデータベースと化した天才女性科学者キウイ・ズークス博士が新たなる超兵器〈サン・クラッシャー〉を嬉々として完成させています。

そして新共和国の歴戦の勇士アクバー提督の補佐を務めるターフェンもまた、過去に受けた帝国による人体実験によって脳内に埋め込まれた有機回路の影響とはいえ裏切り行為に加担することを余儀なくされています。彼らはまるで自らの心に刻み込まれた帝国の爪痕にあるいは支配され、あるいは懊悩しながら自らの行動を選択して行きます。

ダーラは帝国への鉄の忠誠を誓い新共和国への反撃を試みるも、かつて味わった女性蔑視への恨みに突き動かされたことで独断専行に走り、その行動は常に怨念によって曇らされているかのようです。幼少時から信じ込まされていた自らの研究の「有効利用」の真実を突きつけられたことで帝国の欺瞞に気付いたキウイは激しい葛藤に苛まれます。意に反する裏切り行為によって尊敬するアクバーを政治的抹殺に追い込んでしまったターフェンは身も世もあらぬ苦しみに悶えることになります。

そしてキップ・デュロン。暗黒面の力と奪い取った超兵器〈サン・クラッシャー〉によって帝国の重要施設を次々と血祭りに上げる彼は、憎むべき帝国軍の人々を軍民の区別なく大量に虐殺。しかしその過程で発生した思わぬ事件が彼の憎しみに曇った心を大きく揺さぶります。果たして彼らは各々の「帝国の十字架」の重みを背負いながらどのような「選択」を繰り広げて行くのでしょうか。

スカイウォーカーの末裔

「拡張世界」はハンとレイアの間に生まれた子供たちの成長を愉しむという側面も持ち合わせています。『帝国の後継者』シリーズで誕生した双子のジェイナジェイセン、そして末子アナキンはその強いフォース感応力と「ダース・ベイダーの孫」という出自から無数の危険にさらされることが予想され、実の両親すらその場所を知らない秘密の惑星アノスでレイアの腹心中の腹心ウィンターによって養育されています。しかし2歳を迎えた双子を再び親元で養育すると決心したレイアは、ただでさえ多忙を極める政務に加えて母親業という未知の困難に挑戦して行くことになります。

ジェダイとシスをめぐる壮大な物語や、帝国の十字架に喘ぐ人々の陰惨な物語が多くを占める本シリーズにあって、幼い二人をめぐる物語は一服の清涼剤と言えるエピソードとなります。レイアのサポートをするべく「子守り機能」をアップロードした3POは当然ながら予測不能な双子に振り回されててんやわんや。後に子供たちにとって頼れる伯父のような存在となるチューバッカもこのときばかりは3POとともに翻弄される一方の醜態をさらします。

しかし双子たちは単なるトラブルメーカーではありません。やはり強力なジェダイの血脈を受け継ぐ二人は仮死状態に陥り絶体絶命となった伯父ルークのために重要極まりない役目を果たすことになるのでした。

クラシカル・スターウォーズの輝き

というわけであらすじの一部を紹介するだけでもかなりのハイボリュームとなる本シリーズですが、全編を貫く雰囲気には懐かしさを感じる読み手違和感を感じる読み手とに分かれることになるのは間違いないでしょう。日々ディティールの掘り込みが精緻を極め、シリアスさを増して行く昨今のSW諸作品を見慣れているであろう新しいファン層にはその勧善懲悪にして所々場違いの感さえあるコミカル演出に当惑すること間違いなく、あまりにもリアリスティックなSW世界に隔世の感を感じることも多いであろうオールドファン層には良くも悪くもノスタルジックな感慨に耽ることは間違いないでしょう。

そこにはSWという作品本来がもつ特徴であり、歴史的成功の源でもある「前向きなエンターテイメント」性の遺憾なき発露なのです。

映画三部作は基本的にアクションアドベンチャーであり、深刻なテーマはあくまでも奥底に潜み、作品全体は活力みなぎる明るいトーンで包まれていた。それはジョージ・ルーカス自身が抱く社会認識と根本理念「世のなかの悲観的な側面ばかりを強調しても問題は解決しない」に起因した者であろうが、(中略)こうして肯定的な未来感に裏打ちされた本書の結末は、最後までつき合った読者にさわやかな読後感を与え、「ああ、これがスター・ウォーズなんだよなあ」と実感させてくれる。

巻末解説に記されたこの一文が余すことなく伝えてくれるように、SWとは本来このようなポジティブなエネルギーに充ちた作品であったのでした。本シリーズはそのことを忘れてしまいがちな(?)昨今のファンたちこそがぜひとも再読すべき「原点回帰」の一冊と言えるのではないでしょうか。

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