『DOOKU:JEDI LOST』【カノン小説(オーディオブック)】(未邦訳)〈Monsters, we are not. Feelings we have.〉

カノン小説
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虚空からいきなり何かが生み出されることがないように、物事には必ず因果関係が存在するはずです。

例えば花が咲いたなら、そこには必ず花を支える茎があり、茎からのびる葉があり、それらが根ざす土壌があるはずです。

例えば人が堕ちたなら、彼には必ず堕ちるに至った道程があり、そこへと追いやられた事情があり、その原因を招いた土壌があるはずです。

その重要性に反して映画本編でほとんど詳細が語られることのなかったドゥークー伯爵にもまた、堕ちるに至った道程があり、そこへと追いやられた事情があり、その原因を招いた土壌があるはずです。

いったい偉大なジェダイマスターとして尊敬を集めていたはずのドゥーク―は、なぜジェダイから離れかつての宿敵シス卿として銀河史に再登場するに至ったのでしょうか?

あらすじ

時はクローン戦争開戦前夜。敬愛するマスターの無惨な死によって感情を乱し、暗黒面へと足を踏み入れた堕落ジェダイのアサージ・ヴェントレスはシス卿となったドゥークー伯爵のもとで葛藤に充ちた日々を送っていました。そして亡き師への追憶と新たなる師への畏敬の狭間で揺れ動く彼女の心は、新たな任務遂行のために分け入って行くことになるドゥークーの過去と触れ合うことでよりいっそうその混迷を深めて行くことになるのです。

新たな師としてドゥークーに仕えるアサージ(画像出典:Wookiepedia

英雄の末裔

本作ではドゥークーの出生の秘密が詳細に語られることになります。故郷や家族との絆を断ち切ることが普通のジェダイとしては珍しく、彼は惑星セレノーの伯爵家出身という明確なアイデンティティが設定されており、物語冒頭で運命のいたずらともいえる事件をきっかけに妹である少女ジェンザと出会ったドゥークー自身もそれを知ることになります。

後の運命を想えば皮肉にも、彼の生家はかつて銀河を混迷に陥れたシス帝国との死闘で名を馳せた英雄を祖としており、ジェダイとしての人生を歩み始めたばかりのドゥークー少年の「偉大な血脈」が明らかにされます。そして物語冒頭では彼と同じくやがて銀河史に大きな影響を及ぼすことになる友人サイフォ=ディアスとの友情、ライバル関係にある朋輩アラスとの反目。そして彼らを導くヨーダを始めとするジェダイマスターたちとの関係など、スクールライフ作品を彷彿させる牧歌的な雰囲気であると同時に後の悲劇をうかがわせる様々な展開が配石されて行きます。

なかでも興味深いのはセレノーで伝説上の生き物として知られる古代竜ティラタカの存在への言及。「The dragon that holds the world together」(世界を束ねるドラゴン)として語り継がれるこの古代種は、人々の畏敬の象徴であるとともにその彫像に触れることすら憚られるほど不吉の象徴ともされ、不思議なめぐり合わせからドゥークー少年を恐ろしい災厄へと巻き込んで行きます。思えば「ドラゴン」という存在はノベライズ版『シスの復讐』でもアナキンの心に巣食う憎しみや執着の象徴として描写されており、シスとなった二人に共通して投げかけられるドラゴンのイメージは不気味な符号を感じさせます。

冒頭の舞台となる惑星セレノー(画像出典:Wookiepedia

受け容れられざる者たち

物語が下り、ドゥークーが少年から青年へと変わり行く頃には、その周囲に不穏な影が見え隠れするようになります。好奇心に駆られて悪友サイフォとともに聖堂内に眠る太古のシスの遺物を暴き、来たる暗黒卿の再来に備えてシスの遺物研究に大きな関心を抱く異端的ジェダイマスターのリーン・コスタナに傾倒して行くドゥークーは、他のジェダイたちと比べて格段に暗黒面やシスにまつわる事物への興味を深くして行きます。

そしてコスタナのもとでの修行を開始し、かつては奔放な性格でドゥークーを振り回しつつも楽しませた悪友サイフォには不可思議な能力が開花。フォースを通じたヴィジョンを垣間見ることで恐ろしい未来を幻視するようになったサイフォはそれがもたらす衝撃と苦痛に苛まれ、以前とは打って変わって陰鬱な雰囲気に包まれるようになります。

そしてドゥークー自身もまた、異例にも最長老ヨーダからの教えを受け着実にジェダイとして成長して行きつつ、周囲の誰にも言えない秘密を抱え込んでいたのでした。

それは少年時代に遭遇した妹ジェンザとの密かな交信。「執着」を禁ずるジェダイにとって絶対の御法度である家族とのやりとりは人目を忍んで長く続けられ、やがて彼らの母の死をきっかけに公になったときには評議会と彼との最初の本格的衝突を招くきっかけとなったのでした。

すでに彼を待ち受ける暗い運命の予兆とも言えそうな展開の数々ですが、それ以上に読み手に迫ってくるのは「偉大な正義」として君臨するジェダイ評議会に対する異端者たちの種々相ではないでしょうか。

本作では映画本編はもちろん、スピンオフ作品でもあまり言及されなかったサイフォ=ディアスの詳細が語られる(画像出典:Wookiepedia

「善なる暴君」に背を向けて

弟子に芽生えた前代未聞の能力を持て余すコスタナはしかし、ドゥークーも勧めたように評議会に対する報告や相談を行うことはせず、ひたすらその能力を隠すことに専心しました。なぜなら評議会は遥か昔から辺境惑星ローラ・サユーにジェダイ専用の監獄シタデル”を設け、危険な能力や思想を持つと判断された「はぐれジェダイ」を収監していたことから、凶事を予知する能力を危険視された愛弟子が囚われの身になってしまうことを激しく恐れていたからでした。

さらに後の展開ながら、評議会の座にありながら犯罪行為に手を貸すジェダイマスターも登場。彼女が恥ずべき不正に加担したのもまた、ジェダイには許されぬある秘密が評議会に暴露されるのを恐れたが故の犯行だったのでした。

彼女らの言動を無思慮やエゴの名の下に裁くのは簡単でしょう。しかしこれら「異端者」たちの身の上を思う時、読み手はまた異なった感情も味わうことになるのではないでしょうか。

ジェダイ騎士団の名は銀河の守護者として比類ない尊敬と名声を得ていました。そして彼ら自身もまた、その名声に適うだけの優れた人格と資質の持ち主たちだったことでしょう。しかしそれだけになお、その名に値しないあやまちを犯した者、あるいはその姿勢に賛同しかねる者たちにとっては、実に恐るべき重圧としてその心にのしかかっていたのではないでしょうか。

YODA:

Monsters, we are not. Feelings we have.

(ヨーダ:モンスターではないぞ、わしらはの。持っておるとも、感情を。)

DOOKU:

Feelings we suppress.

(ドゥークー:抑圧された感情をね。)

もちろんヨーダらジェダイの重鎮たちにそのことへの自覚はなかったでしょう。

彼らは心からフォースへの帰依と銀河平和への貢献、後進たちへの適切な導きを旨として懸命に務めを果たしていたことでしょう。政治上の事柄に対する姿勢はさておいて、銀河の誰もが非難のしようがないほど彼らは倫理的正義に適う行動をしています。

しかしあまりにも絶対視された倫理的正義は鋭すぎる刃物と同じく、触れるものすべてを切ってしまいはしないでしょうか? たとえ当人たちにそのつもりがなくても、そして切られた側にすらその自覚がなくても、明白な正義は少しでも後ろ暗さを持つ者たちを知らぬ間に傷つけ、やがて恐れさせてはいないでしょうか?

後の離反者ドゥークーの周囲で活躍する人々はまるで眩しすぎる光に目がくらみ、目を伏せながら歩く人々の姿を思わせます。さながらすべてに恵みをもたらすと同時に強すぎる光熱によってすべてを枯らし得る太陽のように、ジェダイ騎士団は悪意なき善良な暴君として、大路を歩み得ぬ者たちの頭上をじりじりと照らしつけているかのような印象を与えます。

『クローン・ウォーズ』でも舞台となったジェダイ専用監獄”シタデル”(画像出典:Wookiepedia

“I am Jedi! And I am not alone!”

ともあれ銀河に蔓延る数多くの不正と腐敗、共和国の硬直と評議会の追従を前に幻滅の度を強くしても、ドゥークーは青年期から壮年期、そして初老の域に達するまでジェダイとしての道を捨てることはありませんでした。しかしジェダイ評議会の方がドゥークーの行動を、ジェダイには不適格のものとして断ずるようになって行きます。

ドゥークーにとって苦境に喘ぐ人々を救うことはジェダイたる者の義務でしたが、評議会にとっては”元老院の意向に沿って”苦境に喘ぐ人々を救うことこそがジェダイたる者の義務なのです。それは圧倒的少数者の身で銀河の守護を志すジェダイに永遠につきまとうジレンマですが、妹を通じて故郷セレノーに対する侵略行為を知り、多くの腐敗をまき散らしながら多くの無辜を危険にさらす兄ラミル伯爵の暴挙を知り、それらを阻止すべく起ったドゥークーの行動を血縁に基づく「執着」として断罪されたドゥークーには、もはやジェダイ評議会に居場所はなく、また居場所を求める価値すらもなくなってしまったのでした。

たとえ絶体絶命の危機を前にジェダイとしての矜持とフォースへの信頼によって奮起し得たとしても、もはや彼はジェダイ騎士団の一員ではあり得なかったのです。

『テイルズ・オブ・ジェダイ』 もうひとつの『Jedi lost』

その重要性に比して映画本編ではあまりに触れられることのなかったドゥークーの背景を濃密に描き出す本作ですが、それでも釈然としないことは残ります。それは、これほどまでに強い意志と高い意識のもとにジェダイを離脱したドゥークーがなぜ暗黒面へと足を踏み入れ、シス卿としてダース・シディアスの手駒に堕してしまったのかということです。

彼は物語クライマックスにおいてさえ高度な自制心を備えており、一度は不覚にも暗黒面への傾倒を見せたとはいえ直ちにそのバランスを正しています。むしろ物語終幕において言及される「フードをかぶった人物」の存在は突然の感すらあり、彼の「ジェダイ離反」に比べて「シス転向」に関する記述は極度に少ないのです。

ところが本作には「続編」と呼んで差し支えない連続性と完成度を誇る映像作品が存在しています。2022年からDisney+にて配信されている短編アニメシリーズ『テイルズ・オブ・ジェダイ』はアソーカ・タノとドゥークー伯爵という、ともに一度はジェダイに背を向けた者たちの背景に言及する完成度の高い作品群ですが、そこにおいてもドゥークーの共和国の腐敗への憤り、ジェダイ騎士団の無為に対する失望が描かれています。

一見すると『ファントム・メナス』直後までジェダイ騎士団に在籍しているように見えるため本作とは齟齬があるかのような『テイルズ~』ですが、実は伯爵となってからも元ジェダイであることから頻繁に聖堂への出入りやジェダイたちとの交流は続いていたとされており、ともにカノン作品であることから両作品は完全に地続きの物語と言うことができるのです。

しかしそれもまた解決にはなりません。なぜなら全3話で構成される物語の最終話ではすでにドゥークーはシディアスの弟子となっており、葛藤に揺れつつ最後の一線を越えたことで完全にシス卿へと転向する場面は描かれていても、そもそもなぜ彼がシスのもとに身を寄せるようになったのかについては触れられていないからです。

ドゥークーのジェダイ離反は、決してジェダイであることを捨て去るものではなかったでしょう。むしろジェダイとして本来あるべき姿に戻るため、彼なりの方法で苦境に喘ぐ人々を救おうとして、この前例少なき狭き門をくぐる決意をしたはずです。いったいそんな彼がどこでエゴと支配を旨とするシスに惹かれて行ったというのでしょうか?

3Dアニメで再現された若き日のドゥークーとクワイ=ガン(画像出典:Wookiepedia
『ファントム・メナス』直後、ドゥークーの葛藤と決定的な転向が描かれる(画像出典:Wookiepedia

かつて倒すと誓ったものに・・・

ここで私が想起したのは過去に弊ブログ内で紹介した未邦訳レジェンズ小説『MEDSTAR』の一節です。

ジェダイとなる試練を受けるためクローン戦争の激戦地ドロンガーに派遣されたバリス・オフィーは、フォース感応力を飛躍的に高める薬物Botaを摂取することで強大な力を手にし、無慈悲な破壊をもたらす分離主義勢力の軍勢を一挙に壊滅させるチャンスに恵まれます。それは確かにジェダイにはあるまじき安易かつ破壊的な、すなわち暗黒面へ至る道に他なりません。

しかしそれによって目の前の悲劇に終止符を打つことができるのなら、それは間違った手段と言えるのでしょうか・・・?

どうせ戦争指導に手を染めたことでジェダイはその本分を失っているのだから、この際暗黒面の力を用いてでも悲劇の終わりを早めることは間違った選択なのでしょうか・・・?

大いなる力を前に、バリスの出した答えは次のようなものでした。

Those who embrace the dark side don’t see themselves as evil. They believe that they are doing the right thing for the right reasons. The dark side warps their thinking, and they come to believe that the end justifies the means, no matter how awful those means might be.

(ダークサイドを受け入れる者は、自分を悪だとは思わない。彼らは正しい理由のために正しいことをしていると信じている。ダークサイドは彼らの思考をゆがめ、その手段がどんなにひどいものであっても、目的は手段を正当化すると信じるようになる。)

悪の道を生きる者の多くはその自覚のないまま、自らの行為を「正義」や「不可抗力」という名の欺瞞で糊塗しつつ歩度を強めて行くものです。そして意識無意識を問わず一度はずれ始めたたがは時を経るとともにそのズレを増し、当初は考えも及ばなかったほどの恐ろしい齟齬となってその者の言動を歪めて行くものではないでしょうか。

もしかすると当初はもはや反面教師でしかなくなったジェダイに対するカウンターカルチャーとしてシスとの接触を受け入れたかもしれないドゥークーは、やがてその強大な力に自らの理想実現の可能性を見、気づかぬうちに恐るべき暗黒卿の思惑に取り込まれ、その行動原理を変質させて行ったと想像することも可能なのではないでしょうか?

That kind of power could not help but be addicting. It would consume anyone who was less than absolutely pure, less than all-wise, less than wholly selfless. Barriss was by no means a bad person, she knew that. But she was not perfect, and such contact with the Force on a regular basis needed perfection to survive uncorrupted.

Did it make sense to have the powers of a god, without the wisdom of a god?

(そのような力は、中毒にならずにはいられない。純粋さ、賢さ、無私の精神に欠ける者を蝕む。バリスは悪人ではなかったが完璧ではない。フォースと接触できる彼女は、堕落せずに生き残るための完璧さが必要だった。

神の知恵なしに、神の力を持つことに意味があるのだろうか?)

『MedStar2:Jedi Healer』本文より

ジェダイが光を尊び闇を忌むだけに留まらずその間での「バランス」を至上命題にしていることはスター・ウォーズに奥深さを与えている一因と言えるでしょう。これに想いを馳せることによって、この物語群は単なるスペース・オペラを越えて普遍的な物語として私たちの心に迫って来ます。

ドロンガーの悲惨な戦地においてそのことに気づいたからこそ、バリスは神ならずして神のごとき力を持つジェダイとなる資格を得、恐らくドゥークーはそのことを忘れたことで神ならず神のごとき力を持つ悪魔へと変貌してしまったのではないでしょうか。

you have become the very thing you swore to destroy.

(かつてお前が討ち果たすと誓ったものに成り果てた)

『シスの復讐』より オビ=ワン

かつてオビ=ワンがアナキンに向かって言い放ったこの言葉は、ドゥークーをはじめとする堕ちたジェダイたちすべてに当てはまる言葉なのかもしれません。

そして日々多くの自己欺瞞によって自らの堕落や蹉跌に気づかぬ振りをしている私たち自身にも。

『MEDSTAR1:BATTELE SURGENS』&『MEDSTAR2:JEDI HEALER』【レジェンズ小説(未邦訳)】〈Did it make sense to have the powers of a god, without the wisdom of a god?(神の知恵なしに神の力を持つことに意味はあるだろうか?)〉
※本作品は未邦訳作品であるため文中に記載する日本語引用文などは筆者による非公式な翻訳であります。 あらすじ 軍医たちの物語 "Sometimes I feel like finding whoever started this rankwe...

参考資料

本記事でご紹介した『Dooku : Jedi lost』はKindleにてオーディオブック、または脚本の形でお読み頂けます。

また、スター・ウォーズの根幹となる映画作品および本書読み解きに当たって参考とした『テイルズ・オブ・ジェダイ』はDisney+にてご視聴頂けます。

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