『MEDSTAR1:BATTELE SURGENS』&『MEDSTAR2:JEDI HEALER』【レジェンズ小説(未邦訳)】〈Did it make sense to have the powers of a god, without the wisdom of a god?(神の知恵なしに神の力を持つことに意味はあるだろうか?)〉

レジェンズ小説
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※本作品は未邦訳作品であるため文中に記載する日本語引用文などは筆者による非公式な翻訳であります。

あらすじ

軍医たちの物語

“Sometimes I feel like finding whoever started this rankweed war and performing a neumonectomy with my bare hands.”(このろくでもない戦争を始めた奴の肺を素手で切除してやりたいよ)

銀河共和国と分離主義勢力との戦いであるクローン戦争ですが、本作ではジェダイ率いるクローン部隊とドロイド軍団による戦闘描写はほとんどと言って良いほど存在しません。代わって物語の大半を占めるのは、劣悪な環境下の野戦病院で孤軍奮闘する医療従事者たちの「医療戦争」とでも呼ぶべき激務と葛藤に満ちた日々の記録です。

彼らにとってこの戦争は愛する共和国を守るためでもなければ憎むべき分離主義勢力を打ち倒すためでもなく、ひたすら人命を守る医療従事者としての責務を果たすことを強いられるものに過ぎません。そしてそのような環境を生み出したあらゆるものに対する怒り、憎しみ、虚無感に蝕まれつつ、それぞれの方法で自らの心をバランスを保ちながら激務をこなし続けて行くのです。

主要人物となるのはRepublic Mobile Surgical Unit(共和国移動外科ユニット)、略称RMSU(リムスー)と呼ばれる部隊に配属された軍医や看護師たち。

彼らは移動式の野戦病院を根城に各地で負傷兵を中心とする軍人たちの治療にあたっており、彼らと行動を共にすることになる本作の主人公バリス・オフィーもまた、当地の戦闘指揮ではなく彼女が得意とするフォースを通じた治癒能力を活用するべく派遣されたのでした。

負傷兵たちの治療に奔走する軍医たち(画像出典:Wookiepedia

しかしドロンガーにおける負傷者たちの姿は目を覆うものばかりでした。ある者は四肢を吹き飛ばされ、ある者は全身を焼き尽くされ、またある者は無数の榴弾に内臓を引き裂かれ、その悲惨さは筆舌に尽くし難いものばかりです。スター・ウォーズ世界はレーザー兵器が縦横に飛び交い、万能薬バクタをはじめとする高度な医療技術が発達しているはずですが、そのような世界にしてこの惨状を招いているのには、ドロンガーが持つ異様な気候風土と戦争がもたらした窮迫にその原因があったのでした。

沼と妙薬

物語の舞台となるDrongarドロンガーは、過剰な酸素濃度と常時90%を超えるという過剰な湿度、そして壊災害レベルの嵐や豪雨が頻繁に発生するという全域が熱帯で占められた惑星であり、さらには上空に繁茂する胞子の雲が有機物には疫病を、無機物には深刻な動作不良をもたらすというあらゆる高度な生命体の生存を拒絶するかのような過酷な環境に支配されています。

おかげで共和国も分離主義勢力も文明の粋を尽くした兵器のほとんどを使用することができず、小型火器やスラッグ(実体弾)を用いた銃や榴弾を駆使しての(スター・ウォーズ世界としては)非常に原始的な戦闘を強いられ、また戦況のひっ迫とともに戦地への補給もままならないことから軍医たちは夥しい銃弾や破片に引き裂かれた負傷兵たちを満足な医療機器や薬品もないまま治療するという難事に立ち向かわざるを得ないのでした。

それほどの犠牲を押してまで戦われる「ドロンガーの戦い」はいかなる戦略的重要性を持った戦いなのでしょうか? いえ、この戦いに一切の戦略的意義はないのです。彼らはひたすら「奇跡の妙薬」と謳われたある植物の所有権だけをめぐって、この悲惨な戦いを続けさせられているのでした。

Botaボタと呼ばれるその植物は非常に強力な薬効を持ち、あらゆる疾病治療に貢献できるだけではなく激しい覚醒作用も持ち、医療品としてもドラッグとしても破格の効能を持つ妙薬として知られ、加えてその特殊な構造からドロンガー以外での栽培が不可能であることからその資産価値は計り知れない希少種なのです。つまり両勢力は皮肉にも多くの命を救い得る妙薬をめぐって数多の命を削り合っていることになります。

そして莫大な利益を生むこと間違いなしのボタは当然、共和国と分離主義勢力以外の者たちの注目を浴びることは避けられません。両軍相食む戦場に覆いかぶさるのは銀河を股に掛ける犯罪シンジゲート〈ブラック・サン〉の見えざる手。その魔手は共和国軍内にも及び、そもそも主人公バリスが当地へ派遣されたもう一つの理由は、軍内で極秘裏に横行していると思しきボタの横流しに関する調査であったのでした。

果たしてバリスは劣悪な環境で戦い、血を流し、その治療に翻弄される兵や軍医たちの思いをよそに進行する醜い策謀の真相をつかむことができるのでしょうか。そして未だジェダイとして成長途上にあり、戦士よりも治療者でありたいと願う彼女の心は、あまりにも悲惨な戦場の現実を前にしてどのような成長を、あるいは変容を遂げさせて行くのでしょうか。

作品背景

作者:名手と名作

本作はともにスター・ウォーズ作家として名高いマイケル・リーヴススティーブ・ペリーによる共著であり、スティーブ・ペリーは『新たなる希望』と『帝国の逆襲』の間の物語として描かれ、小説に留まらずコミック、ゲーム作品と多岐に渡るメディア展開で一世を風靡した『帝国の影』の作者として有名です。そしてマイケル・リーヴスもまた、『ファントム・メナス』で脚光を浴びたシス卿の魅力を凝縮した傑作『ダース・モール 闇の狩人』の作者です。

名手と名手が手を組んだと言って良い本作ですが、コンセプトの下敷きとなったのもまた軍医たちを主人公とした痛烈な風刺映画として名作の誉れ高い『M★A★S★H』であるとされています。本作の主人公たちもまた過酷な環境に晒されながらもそれを辛辣なジョーク、あるいは美しい音楽に紛らわせて自らの心を守りつつ戦火を駆け抜けて行く様子が、看護師経歴を持つスティーブ・ペリーの医療知識に裏打ちされた緊迫感ある物語に仕上げられています。

スターウォーズ初のメディアミックス作品となった『帝国の影』(画像出典:Wookiepedia
『ファントム・メナス』直前のダース・モールを描く『闇の狩人』(画像出典:Wookiepedia
野戦病院の軍医たちを主人公路とする辛辣なブラック・コメディ『M★A★S★H』(画像出典:Wikipedia

物語の繋がりの点で興味深いのは『闇の狩人』の主人公であった情報ブローカー、ローン・パヴァーンの相棒を務めた魔改造ドロイドI-5アイ・ファイヴが登場していることでしょう。冒険の果てに巡り巡って記憶回路を損傷した状態で医療ドロイドとして共和国に流れ着いたI-5ですが、やがて記憶を取り戻し、かつての相棒の遺命を果たすため新たなる冒険へ出立。同じくマイケル・リーヴスが手掛けるローンの息子ジャックス・パヴァーンを主人公とした『Coruscant Night』シリーズへの橋渡しとなって行くのでした。

主人公:バリスって誰?

クローン戦争にまつわる物語はアニメやコミック、ゲームなど多くのメディア展開が為されており、小説作品としては「Clone Wars Novel」と題されて7作品が刊行されています。それらのうちいくつかの作品は「クローン大戦ノベル」として4作品が邦訳されていますが、残念ながら本作は邦訳されることなく、多くの日本人ファンたちにとって敷居の高い作品となってしまいました。

その理由は作品の質が低いことではもちろんなく、バリス・オフィーという映画本編にほとんど登場せず、ファン以外はその存在すら知らないであろう端役が主人公であるということと、スター・ウォーズらしくないとさえ言えるハードな物語展開にあるのではないかと思います。

しかし本シリーズ第一作である『破砕点』が映画『地獄の黙示録』を彷彿させる陰惨かつ骨太な物語を展開して、無慈悲な戦場とそこに生きる人々の悲惨を活写しつつ、自らの役割に葛藤するジェダイの姿を描くことで立派に『スター・ウォーズ』であったのと同じく、本作もまたこの世の地獄と呼ぶべき環境に置かれた「平和の守護者」の役割に苦悩する若きジェダイが活躍するという点で充分に『スター・ウォーズ』としての読み応えを感じさせてくれるのです。

また、映画本編では「ジェダイその1」に過ぎなかったバリスですが、本作以降に発表されたスピンオフアニメシリーズ『クローン・ウォーズ』後半の”ある行動”によって重要な役どころを担うことになります。にもかかわらずそこへと至る十分な描き込みが為されているとは言い難く、未だ多くの謎に包まれた彼女の心の変遷に思いを致すという意味でも本作は重要極まりないものであり、本書刊行当時(2004年)より現在の方がより接する意義の強い作品ではないかと思う次第です。

映画本編におけるバリス・オフィー(画像出典:Wookiepedia
アニメ『クローン・ウォーズ』におけるバリス・オフィー(画像出典:Wookiepedia

参考資料

本記事でご紹介した『MedStar 1:Battle Surgeons』と『MedStar2:Jedi Healer』は未邦訳のため、Amazon Kindleまたは楽天ブックスなどで電子書籍購入で購入されるのがもっとも簡便かつ安価です。

また、本作で展開するクローン戦争の全容と主人公バリス・オフィーのその後はDisney+で全話配信中のアニメシリーズ『クローン・ウォーズ』でも言及されております。

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ネタバレ所感:バリス・オフィーをめぐるアレコレ。〈Did it make sense to have the powers of a god, without the wisdom of a god?(神の知恵なしに神の力を持つことに意味はあるだろうか?)〉

※以下は長文かつ本作およびスター・ウォーズ関連のネタバレ要素を多く含む記述となっております

「ジェダイ将軍」の是非

さて、神話的色彩に彩られたスター・ウォーズという物語の中で、共和国末期に展開したクローン戦争はその生々しい陰惨によって異彩を放っています。共和国は戦争のためだけに作られたクローン人間をなんの躊躇もなく戦地へ投入し、消耗品としてその命が燃やされるに任せました。「平和の守護者」として信望を築いたジェダイ騎士団は「共和国の将軍」となって輝かしい戦功を立てるのと引き換えに、その本質を見失って行きました。

のちに万雷の拍手とともに葬られることになる両者はすでに救いようのない迷妄の沼にはまり込んでいたように見えます。共和国は数多の人々の欲望によって銀河に秩序と平和をもたらすという役割を放棄して堕落し、多くの人々の怨嗟と軽蔑の的となりました。ではジェダイは? ジェダイもまた己の役割を放棄し、守護者ではなく戦士として戦うことで堕落していったのでしょうか?

すべての価値が覆されようとしていたあの時代、ジェダイの「歩むべき道」はどこにあったのでしょうか? そもそもそんなものは存在していたのでしょうか…?

I’ve leaned that trust is overrated.(信頼なんて何の意味もないと知ったわ)

The only thing the Jedi Council belives in is violence.(ジェダイ評議会が信じているのは暴力だけよ)

『クローン・ウォーズ』シーズン5・第20話『ジェダイの過ち』より

さて、バリス・オフィーといえば『クローン・ウォーズ』シーズン5にてテロ犯罪に手を染め、盟友アソーカを陥れた裏切者としての印象が強いキャラクターですが、彼女が言い放った上記の一言は一考の価値のある言葉です。

公式設定は乏しいながら、彼女はドゥークーやアナキンのように暗黒面に屈してシスの道を歩んだわけでも、堕落ジェダイのポング・クレルのように欲得にまみれて道を外れて行ったのでもないようです。そして「ジェダイ評議会が暴力に信を置いた」というのは「見方によれば」真実でもあります。

「”銀河の調停者”であるべきジェダイが戦争指導に加わった」ということが騎士団滅亡へ向かう最大の悪手であったと思う私ですが、では当時のジェダイたちには他にどのような道が残されていたのでしょう?

「戦争指導はジェダイの道ではない」として政争や戦場から身を引く。そして戦争に突き進む共和国からも離れ、独自に戦争停止に向けたアプローチを繰り広げつつ、独自に戦災にあえぐ人々に救いの手を差し伸べる。それが「守護者」「調停者」を以て任ずるジェダイの取るべき理想的態度だったでしょう。しかしそれがどれほど非現実的かつ有効性に乏しい態度かは明白であり、また当時の彼らを取り巻く環境は、そのような決断を許すものでは決してなかったでしょう。

なぜなら彼らはフォースを通じて得られる強力な力を「他者を守る」ことに使用すると誓っており、彼らにとって窮地に陥った他者を見捨てるのは「ジェダイの道」に反する行為でした。そして広大な銀河に住まう100兆人を越えるとされる人々を1万人足らずという圧倒的少数者であるジェダイたちが守護するためには、圧倒的多数者によって運営される共和国との連携が欠かせず、ここにジェダイ騎士団と共和国の運命共同関係が成立したことになります。

ということはジェダイが己の道を歩むためには共和国との協調が欠かせず、それを欠いた上で「人々を守る」などと言っても所詮絵に描いた理想論に堕してしまうのです。ゆえにジェダイを滅ぼすためにそれと正面切って敵対するのではなくジェダイの運命共同体を乗っ取ってしまうことで方向性を狂わせるというパルパティーンの陰謀はじつに見事に機能したのです。

共和国の方針が狂ったとき、運命共同体であるジェダイ騎士団の方針もまた狂うことは避けられなかった。シス卿の掌の上でジェダイは自分たちの首を絞め、宿敵台頭の後押しをして行くことになる。(画像出典:Wookiepedia

つまりその発端に関与した是非は措くとして、多くの人命が危険にさらされている戦争状態にあって、独りよがりに終わることなく効果的に多くの人命を救うためには、ジェダイたちは共和国のもとで戦い、より早い戦争終結のために奔走することだけが残された唯一の選択肢だったのではないでしょうか。しかしその道は暴力を否定する「ジェダイの道」に反するものでもありました。

「他者を守ること」と「暴力を否定すること」は無視できない矛盾をはらんでいます。理不尽な暴力から他者を守るためには時に暴力に訴える必要があり、飽くまで暴力を拒絶するなら他者どころか自分自身すら守ることは不可能なのです。しかしそれを受け容れるためには、己の規範としてきたものに対する矛盾を真正面から見据えることを強いられるのです。

We must adjust to the times. Look, When Obi-Wan taught me, we were keepers of the peace. But now, to win this war, Ihave to teach you to be a soldier.

(役割は状況によって変わる。僕がオビ=ワンについたとき、ジェダイは平和の守護者だった。でも今は、戦争に勝つには兵士になる必要がある)

『アソーカ』第5話『影武者』より

ドラマ『アソーカ』にて上記の台詞を語ったアナキンは、後のシス卿としての姿を垣間見せながら戦場へ向かうことでジェダイのその後を暗示しました。彼の言葉が、ジェダイとして「正しいもの」でないのは明らかです。アソーカをはじめとする若きジェダイたちは、平和の守護者たれという教育を受けた先に待っていた戦争指導に明け暮れる日々をどのような心で耐えていたのでしょうか? 

Is that all I’ll have to teach my own Padawan one day? How to hight?

(じゃあ私もいつかパダワンにそう教えるの? どう戦うかを?)

『アソーカ』第5話『影武者』より

後にテロ行為を断罪されたバリスは法廷で次のように言い放ちます。

what many of people in the Republic have come to realize, that the Jedi are the ones responsible for this war, that we’ve so lost our way that we have become villains in this conflict, that we are the ones that should be put on trial, all of us!

(動機は、戦争の責任の一端がジェダイにあることを国民に広く訴えるため。戦いの中で私たちは本来の姿を失いました。裁きの場に立たされるべきは、みんなです!)

『クローン・ウォーズ』シーズン5・第20話『ジェダイの過ち』より

「平和の守護者」としてのジェダイを仰ぎ、その変節に憤ったのは彼らに畏敬の念を抱いていた人々ばかりではなかったでしょう。自らがそうなり得る力を持ち、尊敬すべき先達たちの教えを受けながら日々修行に励んでいた若きジェダイたちこそが、もっとも自分たち自身に対する激しい幻滅の念に襲われたではなかったでしょうか?

ジオノーシスの戦い以後、ジェダイたちは将軍として戦いの日々を送る(画像出典:Wookiepedia

ジェダイとフォース。宗教と哲学の均衡。

思えば「ジェダイの道」は不可解なものです。フォースが銀河を統べ、森羅万象を司る偉大な力場であるというのなら、そこに生きる矮小な生命体の一つでしかない人間が手を加えるべきなにが存在するというのでしょう?

生と死がフォースの意志であるというのなら、なぜ死にゆく者を救う必要があるのでしょう? それが理不尽な暴力によるものだとしても、それは矮小な人間の「見方」に過ぎません。生成と破壊がフォースの意志であるというのなら、なぜ滅びゆくものを救う必要があるのでしょう? 正義や邪悪、光や闇といった捉え方もまた、矮小な人間の「見方」に過ぎません。

自然界では食うものと食われるものが互いに命を生み出し合い削り合い、そこに善悪を見出すことなく見事な自然のサイクルを循環させています。フォースを信じるならば、フォースが差配する世界に介入することなく、フォースが見せるすべての側面を受け容れ、すべてをフォースに委ねることこそがジェダイたちのあるべき姿ではなかったでしょうか?

しかしそのような考えが、人間性を無視した極論に過ぎないことも明白です。人間ならば強い力を持っていながら理不尽な暴力に怯える者を見捨てることはできず、またそうする者がいれば大いに軽蔑するのは当然の心の動きでしょう。ジェダイは周囲の人々から見れば神のごとき力を持ちながら、しかし神に遠く及ばない「感情」を持っていることで常に矛盾に満ちた生を歩まねばならないことを宿命づけられていると言えるのではないでしょうか。

フォースを信奉するジェダイ騎士団が宗教団体であることは明白です。しかし信仰を持つことと思考を放棄することは絶対にイコールではありません。むしろフォースであろうと神であろうと、なにものかを信じるということはそれに内在する矛盾をも受け容れ、永遠に答えのない問いを考え続けるということではないでしょうか。

Wihtin you will be everything I am. All the knowledge I possess. Just as I inheritesd knowledge from my Master and he from his. You’er part of a legacy.

(お前の中には僕のすべてがある。僕の有する知識がある。マスターを通じて代々受け継いできた遺産だ。お前もそれを受け継いでる)

『アソーカ』第5話『影武者』より

ジェダイの滅亡が内に抱える矛盾の拡大と爆発にあったと思う私ですが、数万年に及ぶジェダイの歴史の中で彼らはクローン戦争を機に初めてその矛盾に気付いたのではないはずです。例えばもはや非公式のレジェンズ設定ながら映画本編を遡る約1000年前の新シス戦争のさ中、ジェダイたちは迫りくるシスの脅威に立ち向かうため軍事権力に加えて政治権力すら握っており、戦争終結後のルーサンの改革によってそれらを手放すことで再びジェダイの本義に立ち戻りました。

私たちの歴史がそうであるように、ジェダイの歴史もまた過ちと修正を繰り返しながら破滅的な終末を避ける努力の積み重ねであったのかもしれません。

クローン戦争を遡ること1000年以上前。新シス戦争の激戦は共和国を衰退させ、軍事権力を持つ「ジェダイ卿(Jedi Lord)」が誕生したばかりではなく最高議長に就任したジェダイによって共和国が統治されさえした(画像出典:Wookiepedia

バリスが来た道、バリスが往く道

本作におけるバリスもまた、ジェダイとして生きる以上それら過ちと修正のバランスを無視することは許されず、大いなる力の前での葛藤を経験します。強力な覚醒作用を持つBotaを摂取することで計り知れないフォースとの合一を成し遂げられることを知ったバリスは、無慈悲な攻撃を展開する分離主義勢力を一掃するためにその力に手を伸ばそうとします。

それは安直な道ではあるかもしれませんが危険にさらされた無力な人々を救うためであり、決してシスのように支配と暴力に心惹かれたからではありませんでした。

しかし・・・

Those who embrace the dark side don’t see themselves as evil. They believe that they are doing the right thing for the right reasons. The dark side warps their thinking, and they come to believe that the end justifies the means, no matter how awful those means might be.

(ダークサイドを受け入れる者は、自分を悪だとは思わない。彼らは正しい理由のために正しいことをしていると信じている。ダークサイドは彼らの思考をゆがめ、その手段がどんなにひどいものであっても、目的は手段を正当化すると信じるようになる。)

『MedStar2:Jedi Healer』本文より

一刻も早く戦争を終わらせたいのならば、シスのようにフォースから引き出せる絶大な力を用いて敵を打ち倒してしまえばいいのです。たとえその力が自分たちが良しとするものではなかったとしても、どのみちすでに踏み外した道ならば、多くの無辜の命を救うために暗黒面すら受け容れてしまえばよいのではないでしょうか?

That kind of power could not help but be addicting. It would consume anyone who was less than absolutely pure, less than all-wise, less than wholly selfless. Barriss was by no means a bad person, she knew that. But she was not perfect, and such contact with the Force on a regular basis needed perfection to survive uncorrupted.

Did it make sense to have the powers of a god, without the wisdom of a god?

(そのような力は、中毒にならずにはいられない。純粋さ、賢さ、無私の精神に欠ける者を蝕む。バリスは悪人ではなかったが完璧ではない。フォースと接触できる彼女は、堕落せずに生き残るための完璧さが必要だった。)

(神の知恵なしに、神の力を持つことに意味があるのだろうか?)

『MedStar2:Jedi Healer』本文より

矛盾に惑うことと思考を放棄することは同じではありません。平和を標榜しながら戦争指導に足を踏み入れ、非暴力を謳いながら暴力にまみれた日々を送り、それでもフォースの「光」を求めるジェダイとしてのバランス感覚を理解した彼女はその瞬間、パダワンであることを抜け出し真にジェダイの騎士としての成長を遂げたのでした。

In that moment, Barriss felt something new rise within her, a certainty as strong and real as her journey to the center of the Force had been: she was a Padawan no longer.

(その瞬間、バリスは自分の中に新しい何かが湧き上がってくるのを感じた。フォースの中心への旅がそうであったように、強く現実的な確信である)

『MedStar2:Jedi Healer』本文より

本作におけるバリスは、自らの内に沸きあがる矛盾に折り合いをつけることでジェダイへと成長を遂げることができました。しかし彼女の運命は後に知られる通りです。いったいこの後、彼女の心にどのような変化が起こったのでしょう?

どれほど修養を積んでも「感情」から自由になることを許されない私たちは、常に為すべきことと為したいことの狭間を揺れ動き苦悩します。そしてもしかしたら避けられない矛盾を前にして絶望し、そのバランスを取ることを放棄したときにジェダイは、いえ私たち人間は、「暗黒面」に堕ちてしまうのかもしれません。

治癒者としてジェダイの本分を尽くすバリス(画像出典:Wookiepedia
テロ犯罪に手を染め、ジェダイの堕落を訴えるバリス(画像出典:Wookiepedia

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