SWを代表する「出世頭」といえば本作の主人公ボバ・フェットでしょう。SWにはダース・ベイダーやC-3POなどをはじめとして映画作品を観たことがないという人々にも高い知名度を誇るキャラクターが数多存在するとはいえ、映画本編にほんのチョイ役で登場しただけにもかかわらず長い期間に渡って人気を誇り、ついには主要キャラクターの一人となるに留まらず単独ドラマシリーズが制作されるまでに登りつめたキャラクターはなかなか存在しません。
この銀河屈指の賞金稼ぎとして登場したならず者は、多くのファンたちの熱い支持を得て新三部作では恐るべき帝国の象徴ストーム・トルーパーの前身クローン・トルーパーのオリジナル素体である伝説的な賞金稼ぎジャンゴ・フェットの純正クローンとして蘇ったことでその「素性」が設定s…もとい明らかになったのでした。しかしカノン作品に登場する彼の姿への戸惑いを隠せなかったオールドファンも少なくはなかったのではないでしょうか? 少なくとも私は『マンダロリアン』シーズン2で焼き付けられた雄姿にこそ大いに熱狂したものの、つづく『ボバ・フェット』での失速ぶりには大いに戸惑い、「タトゥイーン大名」としてすっかり漂白されてしまった姿には言葉もない思いとなったのでした。
しかしレジェンズ世界でのボバは違います。『ダーク・エンパイア』で堂々復活を遂げたボバはその後も孤高の賞金稼ぎとしての活躍を繰り広げ、いつまでもどこまでもクールにして冷徹な悪の魅力を失うことはなかったのでした。本書はそんな彼の日常風景、つまり依頼者から標的に至るまで数多の曲者を向こうに回して巧みに立ち回る狡猾な賞金稼ぎの日常風景が物語られるのです。
本作のストーリーを手掛けたのはジョン・ワグナー。『シャドウズ・オブ・ジ・エンパイア』の「ボバ編」とも言うべきコミック版ストーリーを手掛け、本作の後にはEP4直前を舞台に同じくボバを主役に据えた未邦訳コミック『Boba Fett – Enemy of the Empire』シリーズのストーリーをも手掛けることになる「ボバ専門作家」とも呼ぶべき人物によるシャープな『The Book of Boba Fett』なのです。
第1話『バー=クーダを追え』(’95/12)
麗しの美女アナクロに恋をしたゴーガ。しかし彼女はゴーガが蛇蝎のごとく憎むハットの大物オルコ・ザ・フンの愛娘でした。愛する女のために憎むべき仇敵との関係修復を図るゴーガは、かつてオルコのビジネスに大損害を与えた宇宙海賊バー=クーダを「生贄」とすることを計画します。しかし多くの配下に取り巻かれ重装備の宇宙船を根城とするこの危険極まりない男を捕えることができるのは銀河有数の腕利きである「あの男」を措いては他に存在しないのでした。
というわけで破格の報酬と引き換えに宇宙海賊バー=クーダ捕獲に乗り出すボバですが、前述のとおり強力な武力を有する宇宙海賊を相手に正面から戦いを挑むほど愚かなボバではありません。彼が思い立ったのはちょうど帝国からの依頼によって捕らえたばかりの奇術師マグウィット。度重なる不運によって無実の罪を着せられたに過ぎないマグウィットは解放をちらつかせるボバの「提案」に藁をもすがる思いで飛びつくのですが・・・。
第2話『アナクロ危機一髪』(’96/9)
莫大な賞金と引き換えに「義父」オルコの歓心を買うことに成功したゴーガは晴れてアナクロと結ばれる。幸福の絶頂に浮かれるゴーガだったが、新婚旅行に訪れた惑星でギャング集団の襲撃を受け花嫁を誘拐されてしまう。アナクロは誰よりも何よりも愛する女。しかし要求された多額の身代金は払いたくなし・・・。進退窮まったダーガは再び「あの男」に連絡を取るのでした。
アナクロ誘拐劇を主軸としつつも単なるギャング相手のアクションに終わることなく、ある意外な結末に向かって展開するサスペンスともなっています。たった一人でギャング団を壊滅に追い込んで行くボバの機知と武力は圧巻。彼にとって己以外の存在は命あるものもなきものも、すべては利用すべき材料に過ぎないのです。
そして本話より本シリーズの「ラスボス」となるライ=クーダが登場。バー=クーダの兄にして弟以上の凶暴性と弟以下の知能を誇る猛獣のようなならず者が弟殺害に関わった者たち ―つまり主要人物ほぼすべて― を血祭りに上げんと物語の第三勢力として立ち上がります。
第3話『オルコ暗殺計画』(’97/8)
またもや莫大な出費と引き換えに愛する女を取り戻したゴーガ。しかし彼の憎むべき「義父」への怨念は限界に達しつつありました。またもや「あの男」に連絡を取ったゴーガはついにオルコ暗殺を依頼するのでした。しかしハットのなかでも超大物に属するオルコ殺害のリスクを鑑みたボバは一計を案じ、「益多くして労少なし」を地で行く奸計を巡らせるのでした。
受けた依頼を着実にこなすプロフェッショナルという印象の強いボバですが、やはり彼も暗黒街の住人。過重なリスクは確実に回避しより安全に、より効率の良い儲けを追究する姿はダークヒーローのたくましさに充ちています。しかし彼は知る由もありませんでした。「益多くして労少なし」のはずの仕事の結末に、最強の怪物との決戦が待ち受けていることを・・・。
巻末カタログ:ボバ・フェット・マニア!
フィギュアやグッズをはじめとするマーチャンダイジング(商品政策)の王者とも言うべきSWですが、クールなビジュアルの持ち主であるボバは映画公開から常に「花形選手」の座をほしいままにしてきました。本書巻末にはフィギュア商品を中心に歴代のボバ・グッズがずらり勢ぞろい。ケナー社による3.5インチアクションフィギュアから本書刊行時点の2000年現在に至るまで、数多のラインナップがその完成度や売れ行き、発売当時のSW環境に至るまでの寸評とともに掲載されておりその史料的価値、そして「オタクホイホイ」としての価値は破格。本書を購入した中学生当時の私は『スター・ウォーズ・テールズ』巻末の歴代コミック年表と並んでそれこそ貪るようにこのページを愛読したことを今でもありありと思い出すのd…以下略
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