His abilities have made him, well, arrogant.(才能が彼を・・・傲慢にしています)
Yes,yes. A flaw more and more common among Jedi. Hmm, Too sure of themselves they are. Even the older, more experienced ones.(確かに。最近のジェダイに見られる欠点だ。力を過信しておる。経験豊かな先輩にも言えるがね)
『クローンの攻撃』においてヨーダが漏らした懸念はやがて現実のものとなり、彼らはその行き過ぎた自負心に端を発する視野狭窄と傲慢によって自ら滅亡の道をひた走って行きました。銀河にあまねく存在するフォースと繋がることで常人を遥かに超えた能力を発揮し思索を深めることが可能なジェダイはまた、それによって意識的か無意識的を問わず自らがより優れた存在であると過信し、自らの役割と存在意義を過大に評価し、やがてその「独善」によって人々の信頼を失って行きました。
本作は『ファントム・メナス』の約5年後を舞台とし、銀河共和国とジェダイ騎士団が共同で執り行った別銀河への開拓団派遣を目的とする「アウトバウンド・フライト計画」のあらましを中心として、ジェダイ騎士団が後に歩むことになる自壊の道行きを予感させる悲劇の物語が展開します。
作品背景1 : 「謎の計画」の全容
作者ティモシィ・ザーンはSWスピンオフ作品の歴史において欠かせない作家の一人です。彼は旧三部作公開終了後に発表した『スローン三部作』(『帝国の後継者』『暗黒の艦隊』『最後の司令』)として知られる作品群を皮切りに「拡張世界」の土台を作り上げた作家の一人であり、作中のメインキャラクターであるスローン大提督は人々に強い印象を与え、ついには『反乱者たち』においてカノン作品にまで進出するという異例の「出世」を遂げたのでした。
彼とその周辺状況をめぐる物語はその後『ハンド・オブ・スローン二部作』(『過去の亡霊』『新たなる展望』)と呼ばれるシリーズも生み出し、壮大な物語世界を私たちに提供してくれましたが、それらの作品中で語られながら全体像が謎に包まれていたのが本作の主題となる「アウトバウンド・フライト計画」なのでした。
――往年の銀河共和国が別銀河への植民を目的としてジェダイと共に送り出されながらスローンによって悲劇的な最期を遂げた大規模移民船団――
私たちに告げられていたのはそれら断片的な事実のみであり、同じくザーンによって著された本作と対を成す作品『生存者の探索』も同計画の約50年後を舞台とする後日談がメインストーリーとはいえ、計画の詳細と顛末そのものは長く謎に包まれたままであったのでした。
本作ではついにそれらが秘密のベールを脱ぐことになり、この壮大な計画をめぐるジェダイ騎士団と銀河共和国の思惑が、そして最高議長パルパティーンとシス卿ダース・シディアスに仕えるキンマン・ドリアナの暗躍が、彼らとファーストコンタクトを取ることになるスローンの決断が、そして一連の事件に巻き込まれる若き密輸業者ジョージ・カーダスの数奇な運命が混じり合うことで物語が展開し、一人のジェダイの狂気がそれらを取り返しのつかない方向へと押し進めて行くのでした。
作品背景2 : 「ファー・アウトサイダー」の遠雷
「外宇宙航行計画」の詳細はティモシィ・ザーン作品を味わうだけではなくレジェンズ史全体を把握するためにも大きな意義を持っています。レジェンズ作品群後半の画期となる長大な『ニュー・ジェダイ・オーダー』シリーズは別銀河からの侵略者であるユージャン・ヴォングとの凄惨な戦いを描いており、この一見突拍子もない存在である彼らに対する説得力の肉付けとして1999年のシリーズ開始以来様々な作品で彼らの存在の伏線となる設定が散りばめられて行きました。
代表的なものはSF界の大御所であるグレッグ・ベアによる『ローグ・プラネット』であり、謎の惑星ゾナマ・セコートで当時「遠来者」と呼ばれた未知の種族と接触したジェダイのヴァーゲアが消息を絶つという謎めいた事件は本作で展開される「外宇宙航行計画」の発足にも関わるものとなっています。本作では辺境銀河ですでに彼らとの接触を持ち、その脅威を認識していたとされるスローンに加えて後の銀河皇帝ダース・シディアスもまたこの未知の脅威を危惧していたことに言及され、そして5万人もの人々とともに悲惨な結末を迎えることとなる開拓船〈アウトバウンド・フライト〉の運命を決めたのもまた、彼らの存在によるところが大であったのです。
あらすじ
共和国の威光拡大と未知領域でのフォース感応者の発見。銀河共和国とジェダイ騎士団双方にとって明るい未来をもたらすはずの「アウトバウンド・フライト計画」は暗礁に乗り上げようとしていました。しかし計画の主唱者であるジェダイ・マスターのジョラス・シボースは最高議長パルパティーンやジェダイの長老ヨーダを相手に一歩も譲らず、その並外れた熱意でとうとうこの壮大な計画にゴーサインを出させることに成功したのでした。しかし彼のあまりにも自信と確信に充ちた言動に評議会を構成するジェダイ・マスターたちは危惧の念を隠し切れず、重鎮メイス・ウィンドゥはオビ=ワン・ケノービと彼の弟子アナキン・スカイウォーカーに〈アウトバウンド・フライト〉が辺境宙域に達するまでの「御目付役」を命じたのでした。
ジェダイ上層部の懸念通りシボースは日増しにその高圧的態度を露わにし、密かに温めていたある計画を実行するべく5万人にのぼる開拓者たちの王として君臨し始めます。ジェダイとして目に余る独善ぶりを見せ、人々らを守るためと称してその尊厳を踏みにじって行くシボースの暴挙の数々を前に、ついにオビ=ワンは重大な決心をします。この「異端者」の暴走をなんとしても食い止めるべく、銀河に別れを告げてでもここに留まらねばならないと。
しかし同じころ、最高議長パルパティーンのもとでアウトバウンド・フライト計画を推進していたキンマン・ドリアナは「もう一人の主人」であるシス卿ダース・シディアスからの指令を受けて動き出します。その目的はただ一つ。〈アウトバウンド・フライト〉を撃墜し、強力なジェダイであるシボースともども多くのジェダイたちを宇宙の藻屑とすることでした。
そして彼らが向かおうとしている未知領域では得意先とのトラブルに巻き込まれた密輸業者一行が謎の種族チスとの邂逅を遂げていました。一行のなかでもっとも若く、しかしもっとも機知と好奇心に恵まれたジョージ・カーダスは自分たちを捉えた「チス拡張防衛艦隊」の司令官ミスローニュルオドことスローンの優れた能力に感銘を受け、彼らの文化を吸収して行きます。ともに開かれた精神の持ち主として意気投合したスローンはカーダスに自らの故郷への愛情、許し難い無法者ヴァガーリへの憎しみ、そして恐るべき未知の侵略者の脅威についてを語るのでした。
ジェダイ率いる開拓団、それを狙うシスの魔の手、そして未知の俊英が率いる防衛艦隊。広大な銀河の最辺境で、大きな運命の歯車が噛み合おうとしていました。
正義と狂信
スローン大提督はもちろんのこととして、彼に勝るとも劣らない印象を残すのはその剛腕で計画を推し進めてゆくジョラス・シボースです。『スローン三部作』ではジョルース・シボースと呼ばれる往年のジェダイ・マスターのクローンとして登場し、強いフォースでルークたちを翻弄しながらもクローン技術の副作用によって精神を病み、やがて狂人へと変貌していったとされる彼ですが、本作で明らかになるのは彼の狂的な性向は決してクローン技術の副作用に拠るばかりではなく、彼自身の、ひいては当時のジェダイたちが持つ固有の問題点であったことが明らかにされて行きます。
「尊敬と恐怖は同じコインの表と裏だ。法に従う市民はそのコインの片側を、無法のなかで生きる者はその反対側をつかんでいる」
「よいか、ジェダイは、そのどちらにも、弱いとか、判断力がないと思われてはならんのだ。けっしてな」
シボースの言葉に滲む傲慢さが法と秩序の守り手たるジェダイの騎士としての強すぎる矜持に発するものであることは明白です。日増しに開拓者たちの上に独裁的権力を振るって行く彼のなかにはしかし、自ら王になり他を支配したいという利己主義はありません。ひとえに銀河に正義をもたらす者としての強烈すぎる自負心が彼の心を蝕み、結果として独裁者という醜悪なペルソナを与えているのです。これは『シスの復讐』におけるメイス・ウィンドゥら過激派ジェダイを彷彿させます。彼らもまた共和国がもたらす正義と秩序を信じ、それらの守護者たるジェダイとしての自負心とシスへの憎しみに目を曇らされた挙句ついには元老院統制を口にし、最高権力者排斥を目論み、自ら「反逆者」へと堕ちていったのでした。
他を脅かす存在になるために、または自らに破滅をもたらすために必要なのは邪悪さや私利私欲ばかりではありません。自らの存在意義に疑いを差しはさむことなく狂信の沼に陥った時、尊敬されるべき正義の騎士は厭うべき狂信者へと堕して行ったのでした。両者の姿はジェダイの極北なのかもしれません。自らの力を徹底して他者のために使うことを志向したジェダイたちは力の誤用を恐れるあまり自らの感情や情操に蓋をし、ついにはそれらを正確に認識することすらできなくなり、やがて自らを「俗人」たちより深い見識を持った強大な存在であると錯覚して行ったのではないでしょうか?
そして「俗人」たちの方でも同じく、彼らを偉大なる存在と錯覚して行ったのでしょう。本作と後日談『生存者の探索』にも登場するディーン・ジンズラーはシボースの弟子ロラナ・ジンズラーの弟であり、彼らの両親は娘がジェダイとなる「栄誉」を過大に受け取り、何かにつけてディーンを「偉大な姉」と比較しては手厳しい言葉を浴びせ、結果として彼の心にジェダイへの大きな憎しみを植えつけて行ったのでした。
かつてジェダイの騎士たちが銀河の人々を守る「偉大な者たち」であったことは事実でしょう。しかしその偉大さとそれがもたらす引力は、長い年月をかけて彼ら自身にすら制御不能なほど大きく膨れ上がり、彼ら自身のみならず彼らと接する人々にすらも実態とはかけ離れた印象を抱かせ、多くの人々の認識を狂わせていったのではないでしょうか? 共和国末期のジェダイは熟れ切った果実を思わせます。あとに残されているのはもはや腐り落ちるだけであり、やがて宿された種が新たに芽吹くまで、地上に無残な姿をさらすのが運命だったのではないでしょうか。
「われわれはジェダイだ。宇宙の究極的な力だ」彼の言葉は会議室に鳴り響いた。「思うとおりにするぞ。行く手を阻むものは破壊する」
シボースの言葉は「狂気」なのでしょうか。それとも・・・。
守るべきもののために
思えば本作は「守るべきもの」のために道を踏み外して行った者たちが主人公と言えそうです。本作のもう一人の主人公スローンもまた、他に抽んでた能力を持ちながらその逸脱ぶりを危険視されているという点ではシボースとよく似た存在と言えるでしょう。銀河帝国の大提督という紛うことなき「悪役」である彼ですが、その行動原理は「人々を守りたい」という非難しようもない動機に発しています。彼は防衛軍司令官として日々チスの脅威となる勢力との戦いを繰り広げていましたが、とりわけ破壊と略奪を旨とするヴァガーリたちに対してとりわけ強い憤りを感じています。
「(中略)なぜ何百万というほかの種族の苦しみに、背を向けなくてはならないのだ?」
ヴァガーリたちは精強なチスを狙うほど愚かではなく、もっぱら十分な防衛力を待たない辺境を移動する船を狙って略奪をほしいままにしていました。よって専守防衛を金科玉条とするチスが彼らと事を構える理由はないはずですが、スローンは目の前で命や人生を奪われて行く無辜の人々を前に傍観することを拒絶し、それによって故郷の人々との間に埋めがたい溝を深めて行きます。後にその対立が嵩じて自らが属す社会に背を向け、銀河帝国でその実力を悪しき方向に発揮することになってしまう彼の姿は、後のアナキン・スカイウォーカーとも共通する悲劇性を感じさせます。
シボースとスローン。ともに「守るべきもの」のために危ういバランスを保ち続ける二人の上に「守るべきもの」を一切持たないシスの影が覆いかぶさります。それによってシボースはジェダイとしてのバランスを維持する術を失い、スローンは何よりも厭う無辜の人々の血で自らの手を汚すこととなってしまったのでした。「アウトバウンド・フライト」の挫折。それは邪悪な意図によってもたらされた二人の天才たちの衝突がもたらした悲劇だったのでした。
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