We’re bounty hunters, Zam. Not heroes.(俺たちは賞金稼ぎだ。ヒーローじゃない)
SWの人気キャラクターの一角を占める賞金稼ぎたちの魅力を一言で表すならば「無頼」が相応しいでしょう。大義や秩序など鼻で笑い飛ばし、フォースのライトサイドやダークサイドなど歯牙にもかけない。信ずるのは己の腕、準ずるのは己の欲望というアウトローな生き方は二元論的世界観を基軸とするSW世界において抗いがたい魅力を放っています。そしてそんな賞金稼ぎたちのなかで抽んでた人気を誇るのは何と言ってもボバ・フェット、そして彼の「父」たるジャンゴ・フェットでしょう。
その人気ゆえに多くのスピンオフ作品で主人公または主人公級キャラクターとなってきた彼らは、物語の厚みが増すにつれて単なる冷酷無情のアウトローには収まりきらない魅力を獲得して行きました。特に『クローンの攻撃』で初めから重要キャラクターに設定されていたジャンゴは、その後のSW史に与えた深い影響、そして未邦訳コミック『Jango Fett : Open seasons』やゲーム『スター・ウォーズ ジャンゴ・フェット』で掘り下げられた悲劇的半生とその過程で培われた「高潔と冷酷」というアンビバレントな人格が露わになるにつれて、ボバのものとは異なる大きな魅力を獲得して行きました。
本作は両作品での冒険から数年後。日々の仕事に明け暮れながらも「息子」ボバとの穏やか日々を過ごし始めたジャンゴ・フェットが、奇妙な因縁で結ばれた同業者ザム・ウェセルと再会したことをきっかけに足を踏み入れて行くこれまでとはまったく異質な冒険の数々を物語ります。彼はまったくの無報酬で仕事を引き受けるという賞金稼ぎにはあるまじき選択をし、それによってマンダロリアンにはあるまじき相手と協力し、そしてアウトローにはあるまじき成果を挙げることになるのです。
動画版ご紹介
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『Star Wars : Jango Fett』
ジャンゴ・フェットは賞金稼ぎとして変わり映えのない日常を送っていました。犯罪王からの依頼、犯罪組織に属す賞金首、ターゲットへの速やかな接近、そして情け無用の暗殺。しかし今回の仕事はいつもと違う結末を迎えます。いつも通り受け取るはずの高額な報酬が、依頼主ドレッドンの暗殺によってふいになってしまったのです。
手を下したのはかつて奇妙な因縁で行動を共にした過去のある同業者ザム・ウェセル。彼女もまたジャンゴが抹殺した賞金首アントニンによって雇われてこのハットの犯罪王を亡き者にしたのであり、二人は意図せず互いの仕事の邪魔をし合ったことになったのでした。
二人の奇縁はなおも続きます。盗難美術品奪還の依頼を受け、それを速やかに遂行したジャンゴの前にまたしても彼とまったく同じ依頼を受けたザムが立ちはだかります。前回は互いの依頼主の死によって無用の対決を避け穏やかに袂を分かった二人。しかし今回は事情が異なります。高額の賞金がかかった古代美術品を前に、二人の腕利き賞金稼ぎが選んだ道とは・・・?
ストーリーそのものは未だ「物語前編」といった趣きでとくに見るべきものはありませんが、要所要所に見られる冷徹な賞金稼ぎジャンゴ・フェットから漏れ出す数々の人間味ある描写は読み手に強い印象を残します。冷酷非情な仕事を終えたジャンゴも、ひとたび居を構えた惑星カミーノに戻れば未だ戦闘や殺戮と無縁の愛する「息子」ボバとともに遊び戯れる優しい父としての顔を見せます。また、本来であれば自らの仕事を妨げる障害物でしかないはずのザムに対しても冷酷になり切れないでいる面を見せたりと、かつての恩人ジャスター・メリールが理想としたであろう勇猛と道徳を併せ持った新マンダロリアンを体現する男となって行ったことを思わせます。
『Star Wars : Zam Wesell』
ジェダイ評議会は不穏な情報への対処を求められていました。危険な革命家アシャール・コルドが破壊兵器を用いてのテロ攻撃を画策しているというのですが、彼らの情報網はそれがどこでどのように行われる予定であるのかまでは突き止めることができなかったのです。やむなく候補となりそうな重要惑星をジェダイたちが監視することになり、首都惑星コルサントは強力なテレパシー能力で名高いヤレアル・プーフの監督下に置かれることとなったのでした。
同じころ、重要な情報を手にしたザム・ウェセルは再びジャンゴにコンタクトを取るため惑星カミーノに赴き、驚くべき事実を告げます。前回彼らが奪還した古代美術品の正体は恐るべき破壊力を秘めた超兵器の一種であり、それを手にしたアシャール・コルドがコルサントを標的とした大規模なテロ攻撃を計画しているというのです。良心を痛めたザムはジャンゴに計画阻止のための共闘を申し出ますが、冷徹な賞金稼ぎを以て任ずる彼がその言葉に耳を傾ける理由はありませんでした。なにしろそのような話は1クレジットの儲けにもならず、そして今の自分には守るべき「息子」がいるのだから、と・・・。
ジャンゴのなかに眠る良心は日に日にその大きさを増しているかのようです。その最大の要因はなんといっても「息子」ボバの存在であることは明らかでしょう。ザムに持ちかけられた提案に対して無報酬でヒーロー気取りの真似をすることを拒んだ直後、「My son nees Me.(息子は俺を必要としている)」と本音とも取れる言葉を漏らします。そしてそれを受けた「How many sons do you think there are on Coruscant?(コルサントにはどれだけの”息子”がいると思う?)」というザムの言葉が彼をこの「タダ働き」へと駆り立てたのでした。
そしてこの冒険は、彼を本来ならばあり得なかった状況へと向き合わせます。それは彼が蛇蝎のごとく憎み倒しているジェダイとの共闘。コルドを追ってコルサント下層部へ赴いた二人は、同じくコルドの行方を追っていたプーフと合流。ジャンゴは不本意ながら仇敵ジェダイと共にコルサント壊滅を目論むテロ集団との戦いを繰り広げるのでした。
深手を負い超兵器発動阻止に力を使い果たしたことでプーフは息絶え、恐るべきテロを阻止した英雄の存在は半分しか歴史に記されることはなかったのでした。この偉大な同胞が超兵器発動を阻止して命を捧げたことは明白である。しかし肝心の超兵器はどこへ? 英雄の半分はいったいどこの何者であったのか?
…But heroes come in the most unexpected of guices.(しかし英雄は思いもかけない形で現れるものだ)
ヤレアル・プーフの火葬に立ち会いながら、メイス・ウィンドゥはつぶやくのでした。
ジャンゴの未来はあり得たか?
思いもかけない形で英雄となったジャンゴですが、彼が「冷酷」とともに併せ持つ「高潔」は本作において一層の深みを獲得したとも言えるでしょう。彼がこれまで道徳的に守り続けたものは「仲間」であり「息子」であり、それだけならば単に「自分」の延長線上に存在するものを守っているに過ぎませんが、本作においての彼は「息子」という補助線を用いてとはいえ自分とはまったく関係のない他者のために命がけの活躍を繰り広げたのでした。
ジャンゴはこのまま「ヒーロー」になり得たのでしょうか?
SW銀河の「ヴィラン」の一画を占める彼の「悪行」の数々は賞金稼ぎというその職業の故であり、フォースの暗黒面や帝国の理念といった邪悪なモラルに突き動かされてのものではありませんでした。彼を支え続けたジャスター・メリールに発する道徳心の存在は彼を欲にまみれたアウトローに堕とすことを許さず、ならず者でありながら私たちが十分共感可能なキャラクターたらしめています。
ガリドラーンで誤情報を鵜呑みにし、ジオノーシスで仲間を守るために戦争勃発のお先棒を担ぐという「不見識」に支配されたジェダイたちがいなければ、アウトローであり続けながらも息子への愛と強い道徳心に裏打ちされたディン・ジャリンのような魅力を放つジャンゴ・フェットが存在し得たかもしれません。
強い光は濃い影をつくり出します。かつて光り輝くジェダイの騎士たちから闇にうごめくシスの暗黒卿が生まれ出たように、ジャンゴ・フェットもまたジェダイという強い光が生み出した影絵の一人であったのかもしれません。光あるところ必ず影は存在するとはいえ、光に出会ってしまった影は情け容赦もなくかき消されてしまうだけなのです。
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