本書は2003年から2005年にかけてクローン戦争の様相を描くことを目的として刊行された『クローン大戦ノベル』シリーズ第2弾です。前作の『破砕点』がもはやSWらしからぬほどの陰惨によって読み手を驚かせたのに比べ、本作はよりSWらしい世界観が戻ってきた印象です。それでも本作にはジェダイの戦争参加への是非、大義の見えぬ戦争に巻き込まれる人々の悲惨など、前作に負けず劣らず骨太なテーマ性を覗かせています。
今回の物語の発端となるのは分離主義勢力が新たに導入を決定した恐るべき新兵器の存在です。それらは〈ジェダイ・キラー〉と呼ばれ、なんとフォースを感知して効率的にジェダイを狩り立てることが可能であるというのですが・・・。
あらすじ:共和国とジェダイの二重外交
評議会は最高議長直々の要請を受けてオビ=ワン・ケノービとキット・フィストーの二人を中立惑星オード・セスタスへと派遣します。同地はもともと共和国に属していましたが、度重なる行き違いによって不信感を募らせたことで今では袂を分かち、クローン戦争にも中立を表明しているという扱いの難しい惑星ですが、この度同地で支配的な権勢を誇る大規模ドロイド製造会社セスタス・サイバネティクス社が密かに分離主義勢力と結託して〈ジェダイ・キラー〉密売を行おうとしていたのでした。
最高議長の要請は、なんとしてもセスタスを共和国側に引き戻し、それが無理ならば「実力行使」もやむなし。つまりセスタス政府が共和国に帰順しないのならば、脅威を排除するため同地に軌道爆撃を加えて壊滅状態に追い込むという過酷なものでした。最悪の事態を避けるべく奔走するオビ=ワンらが試みるのは硬軟両面の二重外交。つまりオビ=ワンは共和国大使としてセスタス政府と交渉を行い、その裏でキットは反政府ゲリラグループを支援することで政府にプレッシャーを与えるというものでした。しかし分離主義勢力もそれを黙って見過ごすはずはなく、総帥ドゥークー伯爵は腹心のアサージ・ヴェントレスをセスタスへ派遣してオビ=ワンらの思惑を阻止せんと暗躍しはじめるのでした・・・。
相手が意に反する行動をとり続けるならば力づくでの排除も辞さないという後の帝国的やり口の片鱗を垣間見せるパルパティーン。そんな彼の意思に逆らうこともできず二重外交というジェダイらしからぬ所業に手を染める評議会。本作のあらすじは、未曽有の国難を前に共和国とジェダイ双方がそれぞれの本質を取り返しがつかないほど大きく揺るがせていることを感じさせることを大きく印象付ける展開と言えるでしょう。
真の主人公とその魅力:『クローンの帰還』
とはいえ本作最大の魅力はあらすじにはなく、ジェダイたちに同行するクローン部隊の一員であり、「ネイト」と通称されるトルーパーをめぐる物語と言えるでしょう。後に『クローン・ウォーズ』で大きく掘り下げられることになる「画一的に製造されたはずのクローンたちの自我と個性」という主題を、本作は実に見事に描いているのです。
アサージの妨害によってその真意を暴露されてしまったオビ=ワンは外交継続不可能とみて姿を消し、キットが支援するゲリラグループと合流することになります。ここで彼らの目的はゲリラグループと共闘することで、同地を支配し共和国からの離反を推進している実力者グループ「ファイブ・ファミリー」を交渉の場に引き出すことに一本化されるのです。が、ストーリーが過熱する中でゲリラグループの指揮育成を担う精鋭の一人であったネイトをめぐる物語が俄然その比重を増して行きます。
彼らクローン・トルーパーは人間でありながら「製造」された人工生命であり、その存在理由は戦争において有能な働きを見せることのみ。自立心抑制・成長促進・軍事的英才教育によって「栽培」された彼らは、臨機応変さだけを人間の名残とする戦闘マシーンであるはずでした。しかし一人の女性と巡り合ったネイトは戦禍のなかで人間としての心を取り戻して行きます。自分を兵士ではなく一人の男、人間として愛してくれる者との触れ合いに、ネイトは徐々に人としての感情を持ち始めて行くのでした。
それは取り除かれていたものが「もたらされた」のでしょうか? それとも取り除かれたと思われていたものが「復活」したのでしょうか? どちらにせよ「製造」された「戦闘マシーン」である自分にあるまじき感情の数々に戸惑いながらも抗しきれない安らぎを感じて行くネイトは、フォースと繋がる不思議な生物ダシュタ・イールと出会うことによってついにその心の膜を破り、自分の「感情」を持つに至るのでした。それはかつての屈強で恐れを知らぬクローン・トルーパーではない、一人の軟弱で、感傷的な人間としての感情であったのでした。
「おれが死んだら寂しいと言ってくれ。繰り返し訓練され、完璧に身につけたこのたったひとつの機能を果たしたあとで、おれが・・・死んだら」
これはもはや奪い去られたと思われた人間性を「愛」によって再び蘇らせたアナキン・スカイウォーカーの帰還とテーマを同じくする物語と言えるでしょう。人として生まれず、人として育てられず、しかし人として愛され、人となった男が臨む最後の戦いの結末はいかに?
本書はそのあらすじとネイトをめぐる物語とでSWらしさと文学性を両立させた名作と呼ぶべき作品なのです。
オマケ:些細な愉しみ
【ジェダイ・ダンス】:本書上巻で外交使節としてセスタスに赴いたオビ=ワンは、同地で開かれたパーティにて華麗なダンスを披露しています。ジェダイはその戦闘訓練の一環としてリズム感覚を養うためにダンスを必修科目としており、オビ=ワンは中々の名手であるとのことです。ということはヨーダもメイスもクワイ=ガンも、かつてのドゥークーも? 実写化希望。
【行方不明のアナキン】:作中でオビ=ワンとコンビを組むのはEP2、3でもお馴染みのジェダイ・マスターであるキット・フィストー。そうか、アナキンはもはや一人前のジェダイゆえ別行動を・・・と思いきや本文中には彼は「未だ一人前のジェダイではないものの」との記述。この間アニーは何してたのだろう? そして本作中のキットは理知的で温和なオビ=ワンと対照的に直感的で野性味あふれるキャラクターとして描かれており、アナキンでもまったく違和感がないのです。ますますもってなぜキット?
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