1996年に刊行された本シリーズが扱うのは16ABYから17ABY。つまりEP4のヤヴィンの戦いから約16年から17年にかけての時代に起こった事々であり、時代の変わり目を迎えて政治的動揺を見せる新共和国の内情と、排他的な純血至上主義者イェヴェザとの闘争が中心となって、数々の物語が綾織りを成して綴られて行きます。
物語の発端は帝国の瓦解が決定的となったエンドアの戦いの8か月後、突如反旗を翻した帝国の被支配民イェヴェザたちによって、辺境惑星ヌゾスから撤退中であったスター・デストロイヤーが乗組員もろともハイジャックされ、いずこともなく消え去ってしまったのでした。いったい彼らの目的は、そして乗員たちの命運は? 謎に満ちた真相が明らかになるには事件から13年もの歳月を必要とするのでした・・・。
第1作『嵐の予兆』〈母の名はナシラ?〉
本作は四つの物語が大筋として展開して行きます。
まずはレイア。かつて反乱同盟軍の勇気ある指導者として活躍した彼女は今また新共和国元首として、そしてハンとの間に誕生した三児の母として、戦争指導とは別個の厳しい戦場を戦い抜いていました。今回もまた新共和国への加盟をめぐって優れた技術力を持つ惑星ヌゾスを中心とするダスカン連盟の総督ニル・スパーとの折衝に忙殺される日々を送っています。しかし彼らはその友好的な態度にも関わらず、裏ではレイアをはじめとする新共和国の人々を「害獣」呼ばわりする始末。そしてヌゾスといえばかつてクーデターの舞台となった惑星です。いったい彼らの真意はどこにあるのでしょうか?
そしてハン。元首の夫として子供たちの父として、レイアと同じく別個の戦地に身を置くかつての英雄に、再び冒険の予感が訪れます。発端となったのは奇跡的に入手された帝国軍残党の戦略配備図から明らかになった恐るべき艦隊の存在。それこそが本シリーズの表題でもある〈ブラック・フリート〉であり、超巨大戦艦であるスーパー級を含む多くのスター・デストロイヤーから成るその戦力は、未だ帝国残党の領袖ダーラ提督も健在の今、決して看過することのできない存在なのでした。アクバー提督は新編成の艦隊に〈ブラック・フリート〉捜索を命じ、ハンもまたその一員として随行することとなります。果たして帝国の恐るべき残存艦隊の行方やいかに?
そしてこちらは相も変わらず多くのビジネスを手掛けては成功と失敗を繰り返すバイタリティ溢れる日々を送るランドもまた、新たな冒険へと駆り出されます。こちらの発端はとある漂流船の存在。偶然発見されたその船は数々の重武装に身を固め、明らかに単なる難破船ではないようです。発見された宙域の名を取って〈テルジコンの放浪船〉と名付けられたその船はしかし、あっという間に再び彼方へと去ってしまいます。果たしてその正体は? 共和国情報部は早速探索に乗り出し、その豊富な経験と見識を買われたランドが一行と行動を共にすることとなるのでした。
そして何と言ってもファンが気になるのはルークの活躍でしょう。しかし本作においてルークはそのライフワークであるジェダイ騎士団再興をある程度まで成し遂げ、ヤヴィン4に築いたジェダイ・アカデミーを有望な弟子ストリーンに委ねて自らはかつての父の居城跡に居を構え、隠棲と瞑想の日々を送ります。それは強力なジェダイとして成長したがゆえに自らの身の振り方を慮った末の決断だったのですが、その平穏な生活は一人の女性の来訪によって破られます。アカナと名乗るその女性はフォースと似た力であるという「白き流れ」を操る能力を持ちながら今では銀河に散り散りとなった宗教団体ファラナッシの一員であり、なんとルークの母もまた彼女の同胞であるばかりか今も存命であるというのです。父との対峙を経てその呪縛を乗り越えたルークも未だ空白であった母の存在は大きな関心を呼び、一抹の不安を抱きつつも彼女と行動を共にするのでした。
すでに新三部作を知る私たちにはルークの母の存在は自明のことであり、本作に登場するルークの母ことナシラがその人ではないことは明白でしょう。しかし未だその詳細が明らかでなかった当時の読み手にとっては興味深いテーマであり、また本作のみの登場とはいえフォースと似た力「白き流れ」の存在はレジェンズ作品群で展開したフォースへの幅広い解釈の一つであり、またカノンにおけるチアルートが用いた不可思議な感覚のように、決して一つではないSWユニバースへの解釈の道幅を広げてくれる非常に興味深いものと言えるでしょう。
そして本作においてもっとも気がかりなのは無数の激務に押し拉がれたかに見えるレイアの混迷でしょう。少女と言っても良い年代から反乱軍を率い、今また新共和国元首として戦い続けるレイアはやはり余りにも大きすぎる重圧に晒され続けたのでしょう。後に折衝相手であるイェヴェザからの精神操作を疑われるほどにその思慮や決断力を鈍麻させて行きます。
果たしてルークは母との再会を果たせるのか? レイアは往年の強い姿を蘇らせることができるのか? そしてハンとランドの冒険の顛末は? 多くの物語が期待と不安とともに動き始めます。
第2作『偽りの盾』〈英雄たちの苛立ち〉
ダスカン連盟の首領ニル・スパーはついにその凶暴な本性を剥き出しにします。純血主義を奉じる彼らは過去に受けた帝国からの奴隷的従属の屈辱を過去のものにするため、イェヴェザたちの居住する宙域全土の「浄化」を宣言。物語冒頭のクーデターによって手中にしていた〈ブラック・フリート〉の戦力を核として、その地に建設された植民地の非イェヴェザの大虐殺を実行したのです。
自らの至らなさゆえに敵の恣意にを見抜けず、その行動を助長すらしてしまったことに衝撃を受けたレイアは一時元首辞職まで覚悟しますが、夫ハンをはじめとする多くの人々の支えによって往年の覇気を取り戻すに至り、ついにダスカン連盟との対決姿勢を明確にします。
しかし英雄としての顔を取り戻したレイアの強硬姿勢は、新共和国元老院を構成する一部の人々からの大きな反発を招きます。彼らにしてみれば自らの裁量で重大な決断を次々と下して行く彼女の姿はかつての皇帝パルパティーンの専制を彷彿させ、その強硬姿勢は徒に戦争を求める過激な言動と映ったのでした。
英雄たちを取り巻く環境は大きく変わり、今やその行動を阻むものは悪意ある敵の攻撃や妨害ではなく、自らと相容れない考えを持つ味方の異議や横槍だったのでした。レイアは動きを封じようと迫りくる種々の思惑に絡め捕られながらの苦闘を強いられ、同じく戦争の英雄の一人アクバー提督もまた硬直した軍の姿勢に業を煮やしと、かつての英雄たちは良くも悪くも時代が変わったことを噛み締めさせられるのでした。
それでも対ダスカン連盟に向けて人々を団結させんと奮闘するレイアたちですが、敵は恐るべき「盾」を用いて彼女らの意気を挫こうと画策するのでした。一方ランドたちがその正体究明に乗り出した〈テルジコンの放浪船〉は未だ謎めいたテクノロジーでランドたち、そして読み手を困惑させるのみ。物語はそのまま最終巻へと持ち越されて行きます。
第3作『暴君の試練』〈もたらされたバランス〉
それぞれの物語が一つにまとまり、物語はクライマックスを迎えます。数々の苦難を前についに政治生命を絶たれたかに見えたレイアは先達モン・モスマとの会見を経て公私に揺れる自らの感情の均衡を得ることに成功して完全復活を遂げ、周囲の思惑に踊らされることなく己の道を貫く覚悟を決めるに至ります。
アカナとともに謎めいた宗教団体ファラナッシの生き残りたちのもとを訪ねたルークもまた、同じく大いなる力を操りながらもジェダイとはまったく異なるスタイルを貫く彼らの生き方に衝撃を受けるとともに、自らの在り方への確信を揺さぶられ、それでもなおジェダイとしての己の道を進むことを決意するのでした。
それぞれ次元は違えど大いなる力を手にする者として、その力の使い方に対するバランスを再確認した二人を核に、ついに強大な侵略者イェヴェザとの最終決戦が幕を開けるのでした。
さて、クライマックスを飾る「ヌゾスの戦い」は主人公たちのみならず名もなき戦闘機乗りや艦船クルーの奮闘ぶりまでが伝わるほど詳細に熱を持って描かれ、読み手を退屈させません。新共和国軍のみならず、物語冒頭で引き起こされたハイジャックの犠牲となって以来長きに渡ってイェヴェザたちに虐待の限りを尽くされてきた帝国軍将校もその矜持を最大限に発揮。今回ばかりは帝国の冷酷さまでがヒロイックに見えるほどの活躍を繰り広げるのでした。
というわけでスペクタクルの点では申し分のない良作である本シリーズなのですが、その筋立てには少々疑問符が残ります。まずはルークの母ナシラについてですが、スピンオフ作品で踏み込んで行くにはあまりにも重要な設定のため肩透かしに終わるのは致し方ないとしてもあまりにも盛り上がりに欠け、前2作計5冊を費やして引っ張った謎の行方がこの結末かと呆気にとられたのは私だけではないと思っています。
そして本作においてもっともその存在が謎だったのは、ランド一行とともに読者に多くの謎を見せつけた〈テルジコンの放浪船〉のエピソードでしょう。たしかに謎めいた船内の描写やその正体、その結末などは大変ミステリアスかつ美しく、そして現代SWファンとしては後のユージャン・ヴォングとの繋がりをも期待させる高揚感を味わわせてくれましたが、あまりにも本筋との関連が薄いその存在には物語上の存在意義が判然とせず、なにやら一つの物語の中で二つのストーリーが別個に進展しているようで何とも言えないバランスの悪さを感じたのでした。
また、恐るべき侵略者にして奇異な生態を持つエイリアン種族イェヴェザも過去作品『バクラの休戦』に登場した別銀河からの侵略者シ=ルウクに比べれば異様さの点ではもう一つ及ばずという感じ。という具合に不満を挙げれば様々に口を突く本シリーズではありますが、元首として母として妻としての感情に煩悶するレイアの再起へと至る道程や、フォースとジェダイというSWの根底を成す存在を別な角度から見つめる視座を提供してくれる白き流れとファラナッシの存在に触れるだけでも、本シリーズは読みごたえのある作品と言えるでしょう。
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