忠誠と盲従を分かつバランスポイントはどこにあるのでしょう?
どれほど素晴らしい大義や組織や個人であっても、特定のなにものかへの忠誠を求められる世の中はなんともきな臭く、魅力に欠ける時代と言わざるを得ません。私ならばそのような時代にスリルやロマンを感じることは可能でも、実際に生きることは御免被りたいと思い、またそのような人に威厳や尊厳を感じることは可能でも、実際にお近づきになることは御免被りたいと思います。
ただ一つだけ例外があるとしたら、それは自らの心に対する忠誠ではないでしょうか? そしてそれらは決して予め用意されているものではなく、自らの頭脳と意思とで見出すしかないものではないでしょうか? それによって時に反逆者と呼ばれることになったとしても・・・。
忠誠の象徴たち
SWの登場人物たちの中で忠誠という言葉がもっとも似つかわしいのは帝国の精鋭たるストームトルーパーではないでしょうか? 映画本編では散々な扱いの彼らですが、あくまでも設定上の彼らは帝国に鉄の忠誠を違い、恐るべき戦闘能力と冷酷さで銀河に秩序をもたらす帝国の剣なのです。
そして本作に留まらず『スローン三部作』の作者としても名高いティモシイ・ザーンが生み出したキャラクター、マラ・ジェイドもまた帝国に鉄の忠誠を誓い、優れた能力と冷徹さで帝国に仇なすものを滅ぼす皇帝の懐刀、通称「皇帝の手」として恐れられる存在です。
多くの主人公級キャラクターたちが織りなす本作においてこの二者、とりわけ大抵の作品では脇役に徹することになるストームトルーパーたちが、重要な役割を果たして行くことになります。
犬たちの忠誠
物語はEP4の直後、反乱同盟軍が秘密基地を築いた惑星ティアドロップへの帝国艦隊の侵攻に始まります。いち早く侵攻を察知した反乱軍は艦隊の到着直前に辛くも脱出に成功し、惑星はもぬけの殻となっていました。しかし帝国艦隊はそれを信ぜず、ゲリラ掃討の名の下に無抵抗の民間人たち ―とりわけい彼らが差別対象とする非人類種族― を無差別に虐殺したのでした。
それを実行したのはもちろん帝国の剣ストームトルーパーです。しかしその全員が無実の人々の血で手を染めたのではありませんでした。帝国への忠誠よりも己の心への忠誠を選んだ一部の兵たちは命令に従うことを躊躇い、やがて彼らを追及する冷酷な上官を殺害してしまうに至ります。
ラローンという名の男をリーダーとする5人のトルーパーたちは以降軍を脱走。いつしか「審判の手」と名乗り、各地で虐げられた人々に助けの手を差し伸べて行くことになります。なぜならそれこそが、彼らが殉じると誓った「帝国とそこに生きる市民への忠誠」であったからです。
とはいえ彼らはこれを機に大義に殉じる正義の士になったわけではありません。相変わらず自分たちのしでかしたことに慄きつつ、かといって自らの心に従うこともやめられず、様々な疑問と葛藤に悩みながら銀河を彷徨って行くことになるのです。
一方のマラ・ジェイドは帝国の威名を傘に私欲を満たさんとする腐敗分子摘発に精を出す日々を送っています。とある海賊集団の摘発に端を発する帝国上層部の腐敗を嗅ぎつけた彼女はその実態を突き止めるべく、謎が謎を呼ぶ冒険へと足を踏み入れて行きます。
ともに帝国への忠誠を誓いながらも片や帝国への裏切りを犯して、片や忠実なる帝国のエージェントとして、それぞれの方法で帝国の理想を実現しようとする対照的な両者の姿を軸に、物語の歯車は回って行きます。
狼たちの忠誠
もちろん人々に特定の大義や組織に忠誠を誓うことを求めるのは帝国の人々だけではありません。彼らと対立する反乱同盟軍もまた、その大義と組織に忠誠を求めるという点では帝国となんら変わることはなく、本作では指導者の一人レイア・オーガナを中心として「忠誠」をめぐる物語が紡がれて行きます。
レイアが己の信じる大義のために生きる志士であることは論を俟たず、また本作での活躍ぶりもそれを裏付けるに十分なものですが、そんな彼女と終生行動を共にすることになるハン・ソロほど「忠誠」という言葉の似合わぬ男もいないでしょう。
その半生をならず者の密輸業者として生き抜いてきた彼が信用するのは己の技量、そして相棒チューバッカのみ。利害得失を無視した大義やそれを掲げる組織への忠誠心など鼻で笑い飛ばして痛烈な皮肉の一つや二つをお見舞いするのが永遠の一匹狼ハン・ソロの魅了でもあります。しかし後に反乱同盟軍を勝利に導いた英雄の一人として記録されることになる彼もまた、あるものへの忠誠心ならば人一倍持ち合わせていたのでした。
それは己自身の良心。本来ならば帝国のエリート軍人となれたはずの人生を棒に振ったのは異種族を奴隷として使役して恥じない帝国への嫌悪感であり、カネにもならないはずの反乱同盟軍との協力関係も、未だ彼自身自覚はないものの愛するレイアへの想いと、頼りない弟のように思い始めているルークへの個人的愛着なのです。
ルークが父アナキンを暗黒面の呪縛から救い得たのがジェダイとしての大義ではなく息子としての父への愛に拠るものあったことに思いを馳せれば、ハンの個人的愛着もまた誰かを何かを救うことに繋がる美しい感情に他ならないでしょう。例え大義名分への忠誠ほどの輝きが人々の目を奪うに至らないにしても。
しかし自己への忠誠すべてが素晴らしい結果を生むとは限りません。本作において憎むべき悪役として登場する腐敗将校や海賊たちもまた、己の心に忠誠を誓っているという点では主人公たちと変わるところはないでしょう。人々の命などなんとも思わぬ憎むべき海賊の首領たちも、そんな彼らと結託して邪悪な野望にひた走る腐敗将校たちもまた、本作の主題である「忠誠」に己の生きる道を見出すのです。
まるで共にフォースを奉じながらそのライトサイドとダークサイドでせめぎ合いを演じるジェダイとシスのように、本作ではそれぞれの忠誠を掲げて生きる登場人物たちの駆け引きと激闘が繰り広げられます。ときに喜劇的、ときに悲劇的、ときに感動的な戦いの果てに、それぞれの忠誠心はどのような結末を迎えるのでしょうか。
併録作品『ミスト・エンカウンター』
短くも印象深い本作は皇帝による「新秩序」発布の直後を舞台としています。物語はスターデストロイヤー〈ストライクファスト〉に追われる密輸業者ブースター・テリックの遁走に始まり、未知領域のとある惑星への不時着に端を発します。
なんとしても密輸業者を摘発せんと奮闘する艦長パークは早速捜索隊を組織しその追及に当たりますが、ある者は忽然と姿を消し、ある者は謎の死を遂げ、帝国の精鋭ストームトルーパーたちは不可思議な現象の前に為すすべなく敗北を喫して行きます。
果たしてこの謎に満ちた攻撃を行うものは誰なのか。パークは一計を案じ、謎の攻撃者の燻し出しに成功しますがその正体は実に意外なものであり、その出会いは彼らの運命を大きく変えてしまうことになるのでした・・・。
あの有名キャラクターの銀河史登場にまつわる物語!・・・とはいえ本書帯にしっかりネタバレ表記がされてしまっているのはご愛敬。全編通してなんだかゴルゴ13を彷彿させる「あの方」のやり手ぶりが実に印象的な一作。
参考資料
本記事でご紹介した『忠誠』は各種ECサイトにてご購入いただけます。
物語の根幹となるスター・ウォーズ映画に触れるには全作品を網羅したDisney+でのご視聴がもっとも効率的です。
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