『ハン・ソロ三部作』〈もうひとつの『ローグ・ワン』〉【レジェンズ小説】

レジェンズ小説
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本シリーズは若き日のハン・ソロと彼を取り巻く人々のドラマを主軸として反乱同盟軍創設をめぐる物語が描かれ、多くのローグ(はぐれ者)たちの活躍とともにEP4の直前までを補完するという、まさにレジェンズ版『ローグ・ワン』とも言うべき作品です。

SW史上もっとも偉大な足跡を残すことになる人物の一人であるハン・ソロはしかし、SW史上もっとも大義や名誉などというものに冷笑的な人物でした。いったい彼はなぜ、あのように稀代の拗ね者として私たちの前に姿を現すことになったのでしょうか?

第1作『聖地の罠』〈ハン・ソロ/若き日の大冒険〉

本作の主要テーマはなんといってもハン・ソロという人物像の掘り下げにあるでしょう。彼の名を聞いて直ちに連想するチューバッカやランド、そして〈ミレニアム・ファルコン〉すら登場しないというファンサービスとは徹底的に無縁な展開にも関わらず、読み手は何の不満も感じることなくハン少年、やがて青年の冒険を追うことができます。

コレリアの貧民街で孤児として育ったハン少年は、無法者ギャリス・シュライク率いるギャング集団での過酷な生活を強いられていました。彼がまともな教育の代わりに叩き込まれたのは盗みや詐欺、密輸などあらゆる犯罪のやり口でした。ややもすれば社会のダニとなるしかないような劣悪な環境から彼の心を守ったのは、ギャングたちの根城である巨大艦船〈トレーダーズ・ラック〉で召使いとして使役されているウーキーの女性デュランナとの人間味ある関係でした。

数々の悪事に染まりながら、しかし自らを愛してくれる者と共に育つことのできたハン少年はやがて一つの夢を抱きます。それは、いつかこの劣悪な環境から抜け出し、映えある帝国軍将校となって人々から尊敬されることだったのでした。

果たして少年は夢を叶えることができるのか? ハンはこの後大きな代償を払って無法生活から脱出し、惑星イリーシアで教祖テロエンザ率いる謎のカルト教団とその裏に潜む巨悪と対決。恋に落ちた女性ブリア・サレンを救うための苦難に満ちた冒険を繰り広げ・・・と王道アドベンチャーを思わせる展開を通しての様々な成長を遂げて行きますが、その中でもっとも際立った印象を受けるのは彼の異分子に対する開放性ではないでしょうか。

誰一人、何一つ信用しては馬鹿を見るような過酷な環境にあって彼の人間性を守ったものは、他の人々が奴隷と見下し、しかも言語によるコミュニケーションすら困難なウーキー族との絆でした。彼はその絆によって人間性を損なうことから免れ、また多くの苦難が降りかかるイリーシアでは人々から獰猛な怪物として恐れられる肉食種族トゴリアンのマーグと打ち解けてコンビを組むことでそれらを潜り抜けて行きます。

そんな彼の開放性と、悪に塗れながらも根本的には損なわれていない健全な人間性とが後に彼を偉大な人間たらしめるのですが、その前に彼の人生に大きな影を投げかけることになるのでした・・・。

第2作『ハットの策略』〈ナー・シャッダは燃えているか?〉

本作では物語が一気に加速度をつけて展開。そして一挙に「解禁」された感のあるハン・ソロゆかりの様々なキャラクターの登場など、ファンサービス要素も満載の一作です。

多くの苦難を切り抜け明るい未来に踏み出したかに見えたハン青年はしかし、彼にとっては不可解な理由で愛するブリアに去られ、念願叶って入学した帝国アカデミーでは帝国の俗悪とかつての恩人の同族ウーキーへの目に余る虐待ぶりに耐えかねて大問題を起こして放逐され、とまさに人生のどん底に陥ってしまいます。もはや彼に残されたのは幼い頃から身につけたパイロットとしてのノウハウと、処刑寸前を救われたことから「命の借り」と称して彼の傍らを離れようとしない屈強なウーキー族チューバッカだけとなったのでした。

心機一転密輸業者として身を立てることを決意した彼は新たな「相棒」とともに悪名高きスマグラーズ・ムーン(密輸業者の月)こと衛星ナー・シャッダへと向かい、『ダーク・エンパイア』でもお馴染みのマコ・スピンスシャグ・ニンクスサラ・ゼンドらと交流を深め、しかし前作で大損害を与えたカルト教団教祖テロエンザが放った賞金稼ぎボバ・フェットに追われ、間一髪をランド・カルリジアンに救われ、とファンサービスのオンパレードといった趣きです。しかも孤児であったはずの彼の親族を名乗るジャリク・ソロなる少年まで現れ・・・と様々な懐かしさと謎に充ちた展開が愉しい一作です。

しかし密輸業者として順調にキャリアを重ねて行くかに見えた彼は思わぬ形で再び帝国と相対することとなります。辺境で反乱分子による打撃を受ける帝国はその元凶を彼らに武器を提供する密輸業者と見定め、なんと皇帝直々に「密輸業者一掃」を命じる勅令が発布されたのです。賄賂や偽装工作で強かに生きのびてきた密輸業者たちも軍隊に真っ向から向かってこられてはどうすることもできません。果たして彼らの運命やいかに?

本作はハンを中心とした密輸業者たちの物語を主筋として、ハンのもとを去り反乱軍の一員として活動し始めたブリアを中心として当時の未だまとまりを欠く反乱軍の様相が描かれ、ハンを雇用するマフィアのドンであるハット一族の内訌を通して後の犯罪王ジャバ・ザ・ハットが台頭するに至る経緯が描かれ、とその内容は盛りだくさん。クライマックスには彼らの物語が一つにまとまり、SW史上「ナー・シャッダの戦い」として知られる激戦へと結実して行きます。

圧倒的劣勢にあって自らの道を切り開こうと奮闘するハンたちの運命は? 愛する男とのすれ違いに心痛めながらも大義のために戦い続けるブリアを待つものは? 壮大な野望を胸に様々な謀略を展開するジャバが手にするものは?

第3作『反乱の夜明け』〈ブリア・サレンという女〉

若きハン・ソロの活躍をたどる本シリーズですが、本作における主役は彼を愛しつつそのもとを去ったブリア・サレンでしょう。かつて裕福で何不自由ない生活に倦み、イリーシアのカルト教団にのめり込んだことで奴隷のような境遇に堕ちた自分を恥じ、人々を奴隷化しようとする帝国を倒すことこそ自らのライフワークと思い定めた彼女は、有り余るバイタリティによってある反乱グループの幹部となって行きます。しかし未だ目立つことを恐れ、陰からの奇襲攻撃を是とする小グループに分散しているに過ぎない「反乱軍」たちの現状を憂えた彼女は上層部に働きかけ、グループの大同団結、つまり反乱”同盟”軍の結成に向かって邁進するのでした。

一方のハンは前作での大決戦に辛くも勝利したものの密輸業者の命である持ち船を失い、惑星べスピンで開催される銀河屈指規模のサバック大会への参加を決意。彼はついにここで〈ミレニアム・ファルコン〉の持ち主となり、その経緯は多くのファンたちに手に汗握らせる面白さに充ちています。

そして権謀術数渦巻くハット一族の抗争の主導権を握らんと暗躍するジャバはついにベサディ一族のアキレス腱を発見。巧みな謀略でとうとう首領アラクを亡き者とすることに成功します。アラクの息子ダーガは敬愛する父にして一族の屋台骨を失った衝撃に激怒。そして復讐に我を忘れる彼の前に巨大犯罪シンジゲート〈ブラック・サン〉の首領シゾールが手を差し伸べるのでした。後に『帝国の影』で皇帝とベイダーを向こうに回して大立ち回りを見せることになる「犯罪王子」が善意で復讐に手を貸すはずはありません。果たしてその目的とは?

それぞれの物語がいよいよ大詰めを迎える本作ですが、映画本編との食い違いも目立ちます。それほど熱意と行動力に溢れるリーダーであるブリアはなぜその後の歴史に姿を現さないのでしょうか? 現状周囲と良好な関係を築いているように見えるハンはなぜ後にランドから「鉄面皮の裏切者」と罵倒されるまでに信用を失墜させてしまうのでしょうか?

すべては物語のクライマックスを飾る「イリーシアの戦い」の行く末で明らかになります。愛と大義の狭間で苦しみつつ戦い抜いた一人の女性によって後に見る反乱同盟軍は完成し、稀代の拗ね者ハン・ソロもまた誕生するのでした。

多くの冒険の果てに多くの傷を負ったハンは再び立ち直ることができるのでしょうか? 失意のなか辺境惑星タトゥイーンの安酒場に行き着いたところで若きハン・ソロの物語は終わりを告げます。

そして『物語』が始まるのです。

追伸:魅力と難点

ハン・ソロという人物像をこれでもかと掘り下げる内容の濃密さは言うに及ばず、ブリア・サレンをはじめ彼を取り巻く人々のキャラクターの豊富さとその関係性の妙が読み手を飽きさせません。副筋となるハット一族の内訌も『ゴッドファーザー』を彷彿させる緊張感を最後まで維持し、映画本編では邪悪な鈍物といった印象の強いジャバの悪役としての魅力をしっかりと味わうことができます。またボバやシゾール、さらにラストにチラリと登場する某マイナーキャラなどファンをくすぐるサービス精神に溢れた愉しさも併せ持つ、実にクオリティの高いシリーズと言えるでしょう。

ただ惜しいのは人物描写やストーリーテリングの巧みさに比して戦闘描写などのアクション要素を描くときに著しくテンポが悪い印象を受けます。「ボバに追われるハン、それを間一髪救い出すランド!」「一匹狼の密輸業者たちが共通の利害のもとに一致団結して帝国軍を迎え撃つ!」といったスリリングな見せ場があったにもかかわらずその筆致はもたつき加減で説明的な記述も多い印象を受けました。

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