『バクラの休戦』【レジェンズ小説】(’93刊行)

レジェンズ小説
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あらすじと特徴

バクラの休戦

本作は『ジェダイの帰還』直後を舞台としており、物語は勝利の喜びと激戦の疲労も冷めやらぬエンドアの反乱軍艦隊にもたらされた一つのメッセージに端を発します。それは銀河の最辺境に位置する帝国領バクラからのものであり、今や亡き皇帝に宛てられたその内容は謎の侵略者シ=ルウクの脅威を訴え救助を求めるものでした。

罪なき人々の犠牲には心痛むとはいえ、仇敵である帝国領に戦いの傷も癒えない自分たちが赴く義理があるのか? そもそも彼らは自分たちの救援など受け容れるのか? 多くの疑問に揺れる同盟軍の方針はしかし、今や英雄となったルークの発言によって決定的になります。

彼のもとにフォースの霊体となったオビ=ワンが現れ、この侵略者を撃退せねば銀河に大いなる災いが降りかかると予見したというのです。意を決した同盟軍はルーク、レイア、ハンらを中心とする小規模艦隊を未知なる脅威の排除と、あわよくば帝国の支配に甘んじるバクラ解放を目指して派遣することを決定します。

休戦協定を結ぶレイアとネリアス長官(画像出典:wookiepedia

バクラの支配者ネリアス長官は「招かれざる客」の到来に憤懣を隠せないながらも〈デス・スター〉破壊と皇帝の死が事実であると知るや、不本意ながら唯一の希望である反乱軍からの協力の申し出を受諾。ここに未知の敵に対する「バクラの休戦」が成立します。

しかし互いに憎み合って余りある両者の共闘関係がスムーズに行くはずもなく、その行く手に大きな障害が横たわっていることは誰の目にも明らかなのでした・・・。

シ=ルウクの脅威

彼らが直面することになる未知の種族シ=ルウクはあらゆる意味で異様な存在でした。巨大な爬虫類のような外貌を持つ彼らの文明でもっとも異様なのはあらゆるテクノロジーの動力を得るために不可欠な「エンテクメント」と呼ばれる技術です。

彼らは捕虜をエンテクメント・チェアと呼ばれる器具に接続することで生きながらそのエネルギーを抽出し、戦艦や戦闘機といったあらゆるものの動力源としてしまうのです。エンテクメントされた捕虜たちには恐ろしい苦痛が待ち受け、自分がエネルギーを供給している機械が破壊されるか気が狂ってしまうまで終わることがないという残酷極まりない運命が待ち受けています。

エンテクメントされる犠牲者(画像出典:wookiepedia

シ=ルウクはこの技術を用いて大規模な艦隊を組織しており、生前の皇帝の思惑も相まって更なる生体エネルギーの獲得を求めて帝国領へと食指を伸ばしてきたのでした。

自分たちと異なる種族を徹底して軽蔑し、単なる動力源としか見なさないシ=ルウクの冷酷さと残虐さは帝国と肩を並べるほどのものであり、激戦に疲れ切った反乱軍と屋台骨を失った帝国軍にとってより一層恐るべき強敵として立ちふさがるのでした。

シ=ルウクの戦士(画像出典:wookiepedia
シ=ルウクの近縁種にして従属種プウィック(画像出典:wookiepedia

魅力と難点

本作でもっとも特徴的なのは、同時代に展開した他シリーズがあるいは太古の昔のジェダイとシスの激闘、あるいは新共和国と帝国軍残党との戦いといった既存のキャラクターや勢力の掘り下げを主題としているのに対して別銀河からの侵略者という「未知の脅威」を主題としていることでしょう。

広大な世界観を誇るスター・ウォーズ世界においてわざわざ別銀河からの「エイリアン襲来」を描く本作の主題は、帝国の後継者スローン大提督の攻勢や皇帝の復活、物語の中心人物ハンとレイアのロマンスといった「映画地続き」の展開に比べれば突飛な印象を与えることは免れませんが、それでも本作は決して奇をてらった異色作として片付けるべき作品ではないのです。

なぜなら主敵として登場する謎の異種族シ=ルウクの存在は他作品とも連携することでスター・ウォーズ世界に一層の広さを与え、なによりも作中で展開する物語は『スター・ウォーズ』の一部であることを越えた普遍性をもって私たちの心に訴えかけてくるからなのです。

しかしその一方、「第三勢力の脅威を前に渋々ながら共闘する同盟軍と帝国軍」という出版当時の他作品にはない独自のシチュエーションを活かしきれていないきらいはあり、心理描写とアクション要素のアンバランスが目立つ作品でもあります。

虐げられた人々

本作の登場人物たちの多くは何ものかによってその心身を虐げられ支配されている人々と言うことができます。

舞台となる辺境宙域バクラが帝国の植民地であることに始まり、元指導者ヨーグ・キャプティソンは首相とは名ばかりの帝国の傀儡に甘んじ、その姪ゲリエルもまた帝国に刷り込まれたプロパガンダを通して帝国の正義とジェダイの邪悪を盲信し、バクラに駐留する帝国軍士官の一人プター・サナスもまた、かつて自らの良心を帝国への恐怖心によって萎ませた過去を持つ複雑な人物として描かれています。

そしてもちろんシ=ルウクたちにエンテクメントされ、恐ろしい苦しみとともに動力とされている捕虜たちもまた、心身ともに虐げられた犠牲者であることは言うまでもないでしょう。

強いフォースを持つ悲運の少年デヴ(画像出典:wookiepedia

そんな中でももっとも印象的なのは、幼くしてシ=ルウクに囚われて以降その強いフォース感応力を買われて奴隷として洗脳され、多くの人々の死に関わってきた少年デヴ・シブワラの存在です。ときに自らの過ちを悔やみながらも度重なる洗脳に抗すること叶わず、徹底的に利用され搾取され続ける姿は悲惨の一語に尽き、その関係はまさにカルト教団とその洗脳下にある信者を彷彿させます。

そしてその姿は皇帝への恐怖と暗黒面の支配から脱せずもがき苦しんだアナキン・スカイウォーカーの苦悩とも重ねることが可能でしょう。果たしてレイアをはじめとする同盟軍は彼らの目を開かせることができるのでしょうか。そして恐るべき力の前に良心を忘れ、許されざる残虐行為に手を染めたということでは父と共通しているこの少年に、ルークは再び救いをもたらすことができるのでしょうか?

そして本作には当のアナキン・スカイウォーカーまでもが登場。オビ=ワンと同じく霊体となって娘のもとへ現れ過去の贖罪を果たそうとしますが、レイアはかつて自分自身と故郷の人々を踏みにじり虐殺したベイダーの言葉に聞く耳を持ちません。果たして自らの罪に苛まれるアナキン自らの「呪われた血」に苛まれるレイアに救われる日は来るのでしょうか?

また、ジェダイの騎士として戦局や人々の心に大きな力を発揮することになるルークも決して全知全能の聖人ではありません。強力な侵略者と戦い狡猾な帝国の陰謀を食い止め、恐るべき呪縛に捕らわれた少年デヴの心を解き放とうと努めるルークの心もまた、多大な重圧によって押しひしがれて行きます。

そんな彼はバクラの若き元老院議員ゲリエルに心惹かれ、彼女もまた己の信条に反してジェダイであるルークに心を寄せて行きます。新三部作によって「ジェダイは愛してはならない」という戒律の存在と誤謬が明らかになりますが、本作において「禁断の愛」がルークにどのような影響を及ぼして行くのかも見所の一つと言えるでしょう。

ルークと惹かれ合うゲリエル(画像出典:wookiepedia

顔のない軍隊

というわけで抑圧された人々の心の葛藤が大きな読みどころと言える本作ですが、『スター・ウォーズ』に欠かせない手に汗握る活劇やドッグ・ファイトの魅力という点では大きな不満が残ると言わざるを得ないでしょう。初めからそのような要素を削ぎ取った内省的な作品であるなら話は別ですが、本作は「未知のエイリアン種族による侵略」を主軸とし、「因縁の仇敵どうしである同盟軍と帝国軍の緊張に充ちた共闘」というファンにとって実に”アツい”展開を期待させるものである以上、アクション描写の物足りなさはなんとも残念なポイントと言わざるを得ません。

エンテクメントや奴隷デヴに対する仕打ちを中心としたシ=ルウクたちの残虐な性向は存分にフィーチャーされているものの軍事勢力としての恐ろしさを実感させる描写は少なく、白兵戦においてもライトセーバーを手にしたルークに存外あっさり打倒されてしまう彼らの姿には読み手の恐怖心を掻き立てるものもないのです。

また大きな見せ場となり得る「信頼と不信入り混じる帝国軍との共闘」という設定はほとんど活かされず、そもそも艦隊規模での戦闘を詳細に描いた場面も希薄。宇宙におけるシ=ルウク艦隊との戦いもハンとレイアの座乗する〈ファルコン〉のみの活躍に終始している印象で、本作の要である「虐げられた人々」の内的葛藤やルークとゲリエルの淡いロマンスといった個人的描写の濃密さと比べれば大きな落差を感じさせる出来栄えと言わざるを得ないでしょう。

というわけで本作は各キャラクターの内面描写を主軸に愉しむべき作品と割り切り、その他アクション描写に関しては適宜脳内補完を行うのが美味しい味わい方ではないかと思う次第です。

余波

しかし本作に登場したシ=ルウク艦隊はほんの先遣隊であり、その背後にはさらに多くの脅威が待ち構えているという設定のまま幕を閉じます。以降本作の直接的な続編が刊行されることはありませんでしたが物語の続きは他の作家たちによって紡がれており、レジェンズ作品群の総決算と言うべき『ニュー・ジェダイ・オーダー』シリーズの『逃亡者』にも登場。

本作と同時期にスローン大提督の出身母体であるチス・アセンダンシーによって壊滅的打撃を受けていたことが判明し、奴隷種族プウィックによる反乱騒動をはじめとする政治的・宗教的動乱に揺れる彼らのその後の姿が描かれています。

約20年越しに銀河の表舞台に登場するシ=ルウク(画像出典:wookiepedia

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