スターウォーズ・フィギュア45年史〈Episode 2:ケナー帝国の興亡(’78~’95)〉【トピック】

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Episode1:未知との遭遇(~’78)

発売時期の遅延や苦し紛れの先行販売企画「Early bird certificate package」の売り上げ不振などスタートと同時に転倒した感は否めなかったスターウォーズ・フィギュアの発売ですが、映画公開の翌年1978年にひとたび本格的供給ラインが整うや否や、ケナー社は我が世の春を謳歌することになります。

目を見張るべきはその収益配分の凄まじさ。なんとルーカスフィルムとフォックス社は収益の5%を折半するに留まり、残りの95%はそのままケナー社の利益となるというのです。当初誰から見向きもされなかった「ハイリスク」を引き受けたことに対する十二分の「ハイリターン」と言う他はありませんが、驚くべきことにこの有利な契約はその後90年代に至るまで継続し、ルーカスは後に「ハリウッド史上もっとも馬鹿げた契約」だったと大いにほぞを嚙んだということです。

なんにせよ『スター・ウォーズ』の世界的ヒットの恩恵を一身に享受することになるケナー社の栄光は、下記の「戦士たち」によってもたらされたのでした。

ケナー帝国の旭日〈ベーシック・フィギュア〉(’78~’85)

スターウォーズ・フィギュアは各映画公開ごとにそのタイトルに応じたシリーズ(トイ・ライン)が展開されて行きます。大幅なサイズダウンによる安価さと場所を取らないコレクション性の高さが相俟って爆発的人気を誇ったスターウォーズ・フィギュアは「ベーシックフィギュア」と呼ばれ、以降多くの映画やコミック作品をモデルとしたフィギュア商品もこれに追従、まさにフィギュア界の「ベーシック基本」の名をほしいままにしたのでした。

Star Wars(’78~’80)

後に膨大な数量を誇ることになるスターウォーズ・フィギュアの「先兵」たちはやはりルークやレイアといったお馴染みのキャラクターたちでした。

直立姿勢、頭部と両手足の5か所可動というサイズ以外は伝統的アクションフィギュアのスタイルを踏襲しており、キャラクターの劇中シーンが印刷された台紙(カード)で封をした透明プラ素材によって梱包された「ブリスターパッケージ」による販売方法は長く同シリーズに踏襲され続けています。

フィギュア本体のギミックでもっとも目を惹くのはルークやベイダーらが持つライトセーバーに仕込まれたものでしょう。セーバーの先端にはまるでロウソクの芯を思わせるヒモがついており、それを引っ張ることで腕の中に収納された光刃が伸縮するというアイデアが用いられています。

また、この頃は今に見られる各モブキャラクターたちの詳細なプロフィールが設定されておらず、その特徴的な見た目から商品化はされていながら満足に名前すら付けられていないという不遇のキャラクターたちも多く見られます。例えばカンティーナでオビ=ワンに腕を斬り落とされたアクアリッシュのならず者ポンタ・バーバはWALRUS MANウォーラス・マン(セイウチ男)、同じくカンティーナに屯するエイリアンのアイソリアンはHAMMERHEADハンマーヘッド(ハンマー頭)、同じくス二ヴィアンと命名されるSNAGGLETOOTHスナグル・トゥース(乱杭歯)などです。

”セイウチ男”
”ハンマー頭”
”乱杭歯”

また、フィギュアの本格的発売と同時期に放映された悪名高きTV特番『スターウォーズ・ホリデースペシャル』に登場し、次回作にも登場予定とされた「謎の男」ボバ・フェットがキャンペーン商品としてフォーカスされるなど、多くの少年少女たちの耳目を集めたのでした。

Star Wars: The Empire Strikes Back〈’80~’82〉

4-LOMとして販売されたザッカスのフィギュア

『帝国の逆襲』公開によって既存シリーズと並行して新たに30種の商品が展開されます。前シリーズで特徴的だった伸縮式ライトセーバーのギミックは廃され、代わって独立したライトセーバーが小道具として付属しています。

そして外見的な違いがないためか、スターウォーズの「顔役」の一人であるベイダーの新作は制作されず、代わりに彼に召集された賞金稼ぎたちのラインナップが印象的です。

画像のフィギュアは現在ではZuckussザッカスとして知られる賞金稼ぎですが、当時は同じく賞金稼ぎである別キャラクター、4-LOMフォー・ロムとして間違って販売され、後に修正されたというスター・ウォーズのマニアックな設定を表すようなエピソードがあります。

そして前シリーズのボバ・フェット的ポジションの「次回作予告」としてエンドアの戦いの指揮を執ることになるアクバー提督フィギュアのプレゼントキャンペーンが行われたのでした。

Star Wars: Return of the Jedi 〈’83~’84〉

トリロジー三部作最終作となる『ジェダイの帰還』でケナー社はラインナップにラストスパートをかけ、更に31種の新規製品を展開します。終盤で大活躍するイウォークが多くラインナップされており、また賞金稼ぎたちを中心に比較的名前の明らかだった前回と比べSQUID HEADイカ頭(クオレン)やPRUNE FACEプルーン・フェイス(ドレセリアン)、RANCOR KEEPERランコアの飼育係(マラキリ)、そしてTHE EMPEROR皇帝(パルパティーン)などの渾名で発売され後に名前が与えられた商品も目立ちます。

”イカ頭”
”プルーン・フェイス”
”ランコアの飼育係”

頼もしき援軍〈ビークル&プレイセット〉(’78~’85)

スターウォーズを代表するビークルの一つX-wing

従来のスタンダードを打ち破る3.75インチへのサイズダウンが英断であったことは、心強い「補助戦力」となるビークルやプレイセットの存在によっても証明されました。

作中屈指のインパクトを残すXウィングやTIEファイター、そしてミレニアム・ファルコンといったビークルは多くの少年少女を虜にして行きます。

デス・スター内をイメージした「DEATH STAR SPACE STATION」

そして各シーンを彷彿させるプレイセット。そもそも私たちが単なるプラスティックの人形に過ぎないフィギュアに入れあげてしまうのは、それが物語世界への没入するための絶好のアイテムであるからでしょう。

当時の少年少女たちもまた、デス・スターやクラウドシティ、ジャバの宮殿などを舞台に想像の翼を羽ばたかせ、自分だけの『スター・ウォーズ』世界に遊んだことでしょう。

不遇の兵たち

破竹の勢いで売り上げを叩き出すスターウォーズ・フィギュアですが、それらすべてのシリーズがヒットした訳ではありません。なかには不幸な目論見違いによって陽の目を見ることなく廃れていった不遇の商品たちも存在します。

Large Size Action Figure(’78~’80)

ルーク・スカイウォーカーの12inフィギュア

「3.75インチの小型フィギュア」という革命的アイデアによって価格とコレクション性を大幅に向上させたことがケナー社の偉業であるとすれば、この商品は自分たちが衰退させたものへの不可解な逆行と映るでしょう。

この「バービー」「G.I.ジョー」以来の伝統的な12インチフィギュアは相応の品質を誇ったものの、ベーシックフィギュアとは異なりビークルやプレイセットといった「援軍」の助けを得られない商品展開の狭さがネックとなり、『帝国の逆襲』を待つことなく販売開始からわずか2年という短命に終わったのでした。

Star Wars Micro Collection(’82)

ホスの戦いをモチーフとした「HOTH TURRET DEFENSE」

ケナー社は小型サイズのフィギュアとそれに見合ったビークル&プレイセットの展開によって大成功を収めましたが、その方針を推し進めるものになったはずの本企画は見事な失敗に終わりました。

1.75インチ(約4.4センチ)という、より小型かつ無可動のフィギュアを基準とした同シリーズは「ジオラマ」というべき商品であり、フィギュアに自由なポージングをさせて遊ぶことに慣れた当時の少年少女たちの関心を呼ばなかったようです。

『ケナー・ウォーズ』の行方〈オリジナル作品〉

Mini-Rig(’81~’84)

〈ミニ・リグ〉MTV-7:Multi-Terain Vehicle

小型サイズのフィギュアとそれに対応したサイズのビークル&プレイセットの組み合わせの妙は両者間の価格格差という大きな問題を抱えていました。ベーシックフィギュアが一つ約1.97ドルという安価なものであったことに比べ、ビークルの中でも巨大さを誇るファルコンは約24ドル。ターゲットである子どもたちに買い与える親にとって、そう気軽な出費とは言いかねる金額です。

そこでケナー社は従来の商品よりも小型かつ安価なビークルを、映画には映っていなかった場面で活躍していたものとしてオリジナルデザインで発売したのです。そしてこれは多くのスピンオフ作品によって物語世界を深めて行くスターウォーズのスタイルを先取りするものとも言えるでしょう。実際「映画の外で活躍していた」という設定のもとに販売された各種オリジナル製品は後にいくつかが他作品に登場することになり、名実ともに「スピンオフ」の一員となったのでした。

Body-Rig(’85)

〈ボディ・リグ〉The Security Scout 

『スター・ウォーズ』シリーズの完結によって勢いに陰りが見え始めた1985年、ケナー社は〈ミニ・リグ〉の方針を更に発展させ、より小型で文字通り単体で操作Rigする〈ボディ・リグ〉としてオリジナル・ビークルのラインナップを展開しました。

〈ミニ・リグ〉と同じくそれらもまた後の作品に登場するに至りますが結局のところ商品展開は3商品に留まり、大きなムーブメントを生み出すには至らなかったようです。

ケナー帝国の落日〈サーガの終焉〉

ケナー社の栄光はしかし『スター・ウォーズ』の輝きの残照という側面からは抜け出せません。85年の『ジェダイの帰還』公開を最後になりをひそめてしまったシリーズ沈滞の煽りと無関係でいることの許されないケナー社はしかし、ハイリスク・ハイリターンを現実のものとした逞しい商魂を発揮。このまま大人しく衰亡を受け入れる気などさらさらなかったのでした。

Wicket the Ewok(’84)

『ジェダイの帰還』公開と同時期の1985年、ルーカスのもう一つの関心事であったアニメーション制作の果実としてイウォークとドロイドたちを主人公とする『Ewoks』『Star Wars: Droids: The Adventures of R2-D2 and C-3PO』と呼ばれる二つのシリーズが誕生しました。ケナー社は公開に先駆けた1984年、主に幼児を対象としてウィケットを主人公としたフィギュアやプレイセット、塗り絵などのラインナップを展開し、やがて後続のシリーズへと合流して行きます。

Star Wars: Ewoks(’85~’86)

「EWOKS」ラインナップとプロトタイプ

本編中で活躍するウィケットたちイウォークと、彼らと敵対する異種族デュロックとの戦いを中心とする『Ewoks』のキャラクターたちをフィーチャーしたシリーズ。アメリカ本国よりもヨーロッパで高い人気を誇りました。

イウォークからは映画本編でも活躍するウィケットとその同胞ログレイ、彼らの宿敵デュロックはグリンチを彷彿させるフォルム。商品は画像上段6体までがリリースされ、下段6体は第2シリーズとして企画されながらもお蔵入りとなった商品たち。

Star Wars: Droids(’85~’86)

「DOROIDS」パッケージ
「DOROIDS」ラインナップとプロトタイプ

映画本編の約15年前を舞台とする3POとR2の活躍を中心とした『Star Wars: Droids:The Adventures of R2-D2 and C-3PO』のキャラクターをモチーフとしたシリーズ。主人公である二体のドロイドは当然として、アニメ・映画両方に登場するボバ・フェットもラインナップされています。

Star Wars: The Power of the Force(’86)

The Power of the Force』シリーズロゴ

もはや出せるだけのキャラクターを出し尽くした感のあるケナー社はしかし、新たなるシリーズの展開を目論みます。アルミ製コインを同梱し、過去最大級の約90種を超えるラインナップを想定されて発売されたものの売り上げは不調。わずか1年で打ち切りの憂き目を見たのでした。

The Epic Continues(’86)

進退窮まったケナー社はとうとう〈ミニ・リグ〉〈ボディ・リグ〉シリーズの発展形とも言うべきオリジナル商品の開拓を考案します。しかし今回はビークルに留まることなく、なんと独自のキャラクターを交えたストーリー展開そのものに進出しようとしたのでした。

ケナー社によるルークのコンセプトアート
ケナー社によるアサ・プライムのコンセプトアート

物語は皇帝の死によって追放から帰還した遺伝子工学の達人アサ・プライムを中心とする波乱をメインストーリーとし、新たな装いのルークら主人公たちの活躍が描かれ、奇跡的に生還していたグランドモフ・ターキンまで登場するという驚くべきものでしたが、ルーカスフィルムの拒絶によってあえなく頓挫。旭日のケナー帝国も、ついに落日の時を迎えようとしていました。

しかしこれまたあらゆる素材の「再利用」に熱心なスター・ウォーズ世界の創造者たちはこの逸話も無駄にはしませんでした。

本シリーズで商品化されるはずだったビークルの数々は後のスピンオフ作品群に採用されるに至り、主敵アサ・プライムのデザインや役割は後に登場するキャラクターたちによってオマージュされています。

『ダーク・エンパイア』インペリアル・センチネル
『SkyeWalkers: A Clone Wars Story』ゼータ・マグナス

ハズブロ=ケナー帝国(’91)

やはり成功の大元たる映画シリーズ終了の影響は計り知れず、栄華を誇ったケナー帝国にも落日が訪れようとしていました。そして滅び行く帝国に手を差し伸べたのが、もう一つの「玩具帝国」ハズブロ社だったのでした。

まるで財宝を積んだ難破船を見つけた気分だった。

という当時のハズブロ社社長ハッセンフェルドの言葉も虚しく、既に出尽くした感のあるキャラクターやビークルたちのフィギュアに新風を吹き込むことは叶わなかったようです。1991年にスター・ウォーズグッズの権利ともどもケナーを買収したにもかかわらず同社は1995年に至るまで新商品の発売を行わず、映画もグッズも供給の途絶えたスター・ウォーズ界隈は大帝国崩壊後の中世にも似たDark times暗黒時代を迎えることとなったのでした・・・。

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