あらすじ
デス・スター撃破と皇帝の死によって幕を閉じたエンドアの戦いから約4年。銀河の統治に乗り出したものの未だ手強い帝国軍残党との苦戦を強いられている反乱同盟軍改め新共和国のもとに、思わぬ救いの手が差し伸べられたことから物語の幕は上がります。
3000年もの長きに渡って鎖国体制を敷き、莫大な富と精強な軍隊によって全盛期の帝国にすら恐れられた武闘派国家ヘイピーズ星団のイソルダー王子が、なんとレイアとの結婚と新共和国との同盟を申し入れてきたのです。思わぬ申し出に有頂天となった新共和国首脳たちの無神経な勧めをかわしながら、レイア自身もまた美貌と逞しさに加えて機知に富んだ人柄の持ち主でもある異国の王子に外交的配慮を越えた感情を抱きつつありました。
しかしそれを黙って見ているハン・ソロではありません。あの手この手を用いてレイアの心を取り戻そうと焦る彼はしかし、あまりにも女心に無知でした。度重なる失態に心乱したハンがとうとう許されざる愚挙に走ったことで、物語もまた走り始めるのでした・・・。
見どころ三選
ヘイピーズの王子
本作が初登場となる閉鎖国家ヘイピーズ星団のもっとも大きな特徴はなんといってもその徹底した「女上位社会」の気風でしょう。かつて勝手気ままな宇宙海賊の男たちに辛酸を舐めさせられた女たちは力を合わせて「無能な男ども」の支配に成功。以来アマゾネス社会の構築に成功し、苛烈な武断政治によって帝国にすら一目置かせるまでの勢力を誇ったヘイピーズ星団は女王タア・チュームの下で大いなる繁栄を誇っていました。
イソルダー王子はこの女王の息子であり、厳格な統治者である母の力量に敬服しつつも、必要とあらば人命など軽んじて憚らないあまりにも過酷な性向に対する反発を覚えもしているという二律背反に苦しむ側面を持ち合わせています。
常に「良き息子」として本分を果たそうとする彼が冒険を通して「偉大なる母」に対する想いを変化させて行く様子は、その舞台が遠い昔、はるか彼方の銀河でなかったとしても多くの人々が共感し得る普遍的な成長物語として読者の胸に迫ることでしょう。
堕ちた英雄
そして突如現れた「恋敵」によって大きな試練に立ち向かうことになるのがスターウォーズきっての英雄ハン・ソロです。
王族という「生まれの良さ」だけではなく「優れた身体能力と度胸」、そして「円満な人格」という自らの「上位互換」と言うしかないイソルダーにプライドを打ち砕かれたハンは、あの手この手でレイアの心を繋ぎ止めようと苦心しますが、このならず者は愛されることに慣れていても愛することには慣れていない男でした。
やることなすこと全てが裏目に出る惨状に打ちひしがれた彼はとうとう越えてはならぬ一線を越え、なんとレイアの身柄を拘束。彼女への贈り物として得意のサバックで怪しげな人物から所有権を巻き上げた惑星ダソミアへと連れ去ってしまったのでした。
完全なるストーカー男と言うしかない醜聞を巻き起こした恋人に対しレイアはその無責任を詰ります。なぜならハン・ソロという男はもはや一匹狼のならず者ではないからです。
数々の勲功によって多くの人々の尊敬を集め、これから立ち行こうとする新共和国を代表する「英雄」の一員と呼ぶべき人物による愚行は多くの人々の失望を生み、それは新共和国そのものへの侮辱となり、ひいては新共和国成立のために犠牲となった人々の命への冒涜ともなる・・・。誰よりも有為の人々を死地に追いやる苦痛を味わってきたレイアにとって、そのような行為は断じて許すことのできないものだったのでした。
ハン・ソロは、自らの「選択」によって英雄たる資格を失ったのです。果たして彼はこのまま見下げ果てた無頼漢に成り下がってしまうのでしょうか。それとも再び自らの選択によって英雄へと返り咲くことができるのでしょうか?
これもまた遠い昔、はるか彼方の銀河で起こったことでなくとも多くの読者の胸に迫る普遍的テーマと言えるでしょう。「公に対する責任」と「個人的な欲求」との間で醜く足掻くハンの苦悩は、銀河のならず者出身でなくとも、宇宙艦隊の指揮官でなくとも、年齢やキャリアを重ねる上で避けて通ることの許されない試練であるからです。
ダソミアの魔女
イソルダーやハンがスター・ウォーズという架空の物語を越えた普遍的テーマによって読み手を引っ張って行く登場人物であるとすれば、ダソミアの魔女たちはスター・ウォーズという架空の物語に新たなる深みと彩りを添える登場人物と言えるでしょう。
彼女らはかつてその悪行によって追放されたアリヤという名のダーク・ジェダイを始祖としており、ヘイピーズと同じく完全なアマゾネス社会を構成しています。
そのもっとも大きな特徴はジェダイを祖先とするだけに「魔法」という形で微弱ながらフォースを駆使できることであり、その使い方をめぐって往年のジェダイとシスよろしく閉鎖的ながら比較的穏やかな性向の「歌う山の民」と攻撃的な性向の「闇の魔女」に分かれての派閥抗争が巻き起こっていたのでした。
パルパティーンですらこの魔女たちを警戒し、特に他星系への勢力拡大を目指す「闇の魔女」の頭目ゲッゼリオンの野望を阻止するために艦隊を派遣しての惑星封鎖を行っていたという背景が明らかになります。
レイアとの「駆け落ち先」としてダソミアに乗り込んだハン、それを追うイソルダー、そしてこの地に眠るとされる往年のジェダイの遺産〈チューン・ソア〉を求めてやって来たルークらが足を踏み入れたことによって、辛うじて保たれていたダソミアにおける魔女と帝国のバランスは一挙に崩れ、恐ろしい戦いの火蓋が切って落とされることになるのでした・・・。
カノンの「リソース」としての本作
ダソミアの魔女今昔
本作で大きな存在感を見せるダソミアの魔女たちはアニメ『クローン・ウォーズ』シリーズにてダソミアのナイトシスターという形でカノン化され、マザー・タルジンやアサージ・ヴェントレスといった印象深いキャラクターも誕生。そして従属民である男たちもナイトブラザーとして同じくカノン化し、『ファントム・メナス』で強い印象を残したダース・モールやその弟サヴァージ・オプレスなどがその一員として挙げられます。
彼女らの存在はジェダイとシスに限らず様々な形でのフォース感応力の発現に思いを馳せさせるものであり、物語世界におけるフォース観を深め広げる役割の一端を担っていると言っても過言ではないでしょう。
そして本作における魔女たちと帝国の関係は、2023年現在最新のカノン作品であるドラマ『アソーカ』シリーズにおけるスローン大提督とペリディアに住まう魔女たちの関係を彷彿させます。
現時点でその真相は不明ながら、同作に登場するナイトシスターたちの始祖と思しきペリディアのグレートマザーたちは何かしらの思惑のためにスローンとの協力関係を築いています。
本作においても他星系への拡張を目指すゲッゼリオンはその攻撃的な力で現地に降り立った帝国軍部隊を支配し、はるか上空に展開する大艦隊の司令官であり新皇帝の座を狙う軍閥の一人でもあるズンジ大将軍の追及を巧みにかわしながら化かし合いにも似た協力関係を結んでいるのです。
その関係性に様々な逆転や相違はあれど、彼女らの関係を通して『アソーカ』における魔女と帝国の関係性を様々に予想してみるのも一興でしょう。
ジェダイ今昔
本作において私が他の何より深い読み応えを感じさせると思うのは、ジェダイの遺産を求めて旅を続けるルークの「銀河にあまねく存在するフォース」への理解の深まりと、それがもたらす言動の数々です。
またもや『アソーカ』と比較するならば、フォースと感応することができない(と思われていた)サビーヌにジェダイの道を説いたアソーカと同じく、ルークもまた偶然道行を共にすることとなった魔女の一人テネニエル・ディヨとレイアを追ってやってきたイソルダーにジェダイとしての道を説いて行きます。
魔女の一員たるテネニエルはともかく、フォースと一切接触することのできないイソルダーにジェダイの道を説くのは無意味ではないのでしょうか? イソルダー自身はもとより読み手である私たちもが抱く疑問に対して、ルークはこう述べています。
「忘れるなよ、正しいフォースに仕えるんだ。ライトセーバーを使いこなし、病を癒すことはないだろうが、きみ(イソルダー)のなかには光がある。その光に従って生きることだ」
「フォース」の概念が世界中の宗教・哲学思想をベースに練られたことを思い出させる台詞と言えるでしょう。新三部作の「ミディ=クロリアン」設定によってエリート化したかに見えたジェダイですが、彼らが本分は戦士として人間離れした能力や巧みなライトセーバー捌きを披露することではなく、賢者としての思慮深さを発揮することにあるということを示す一言です。
本作において生物のみならず山川草木に至るまで、あらゆる生命に存ずるフォースを感じ尊重するまでに成長したルークの言葉は、あらゆる人間が「選択」によって英雄たりうるというスターウォーズ最大テーマの一つを改めて語るものなのです。
『レイアへの求婚』を読むには?
本書は現在絶版となっており、Kindle等の電子端末にも対応していないためamazon等通販サイトで中古本を購入されるのがもっともお手軽な入手方法です。
また、本書と対比したドラマシリーズ『アソーカ』は現状動画配信サービスDisney+でのみ視聴可能となっております。
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