ドラマ『アソーカ』で鮮烈な再登場を果たしたアナキン・スカイウォーカーは多くのファンたちを熱狂させました。そしてその口から語られた言葉の一つ一つが彼自身、ひいてはジェダイ全体が歩んだ道のりに対する多くの示唆に富んだものであったことで、その登場は単なるファンサービスやサプライズ以上の意味を持ったのでした。
Wihtin you will be everything I am. All the knowledge I possess. Just as I inheritesd knowledge from my Master and he from his. You’er part of a legacy.
(お前の中には僕のすべてがある。僕の有する知識がある。マスターを通じて代々受け継いできた遺産だ。お前もそれを受け継いでる)
ドラマ『アソーカ』より
数万年の歴史を持つジェダイ騎士団が積み上げてきた「遺産」は目のくらむものであったことでしょう。もちろんそれらは一つの時代において完成したのでも、一人の偉大な人物によって作り上げられたのでもなく、気の遠くなる年月をかけて、数えきれないジェダイたちの切磋琢磨によって積み上げられてきたものでしょう。
本書の主人公たちもまた、それら「ジェダイ遺産」を受け継ぎ、引き継いでいった者たちなのです。物語は四つの世代、四組の師弟、そして一人の男を主軸に進んで行きます。
あらすじ
ヨーダとドゥークー、
ドゥークーとクワイ=ガン、
クワイ=ガンとオビ=ワン、
オビ=ワンとアナキン。
映画本編を彩った偉大なジェダイたちの系譜に、一人の男の数奇な人生が交差します。
男の名はロリアン・ノッド。少年時代、偉大な友ドゥークーへの羨望に端を発した愚かな振る舞いのせいで道を誤り騎士団を放逐されたこの異端者は、以降様々な形でジェダイたちと因縁を取り結ぶことになります。
成長したドゥークーの前には冷酷な宇宙海賊として、ドゥークーの弟子クワイ=ガンの前には油断ならない辺境惑星の軍事指導者として、そしてクワイ=ガンの弟子オビ=ワンの前には共和国に忠誠を誓う政治指導者として。
果たして四世代のジェダイに絡みつく過去の亡霊のようなこの男の本性はどこにあるのでしょうか? そしてこの男を軸に巻き起こる物語を通して、ジェダイの師弟たちはどのような「遺産」を作り出し、引き継いで行くのでしょうか?
作品背景
プリクエル補完計画
作者ジュード・ワトソンはプリクエル時代を扱う作品群の作家として特に知られ、1999年には『ファントム・メナス』以前のクワイ=ガンとオビ=ワン師弟を描いた『Jedi Apprentice 』シリーズ、2001年には『クローンの攻撃』以前のオビ=ワンとアナキン師弟を描いた『Jedi Quest』シリーズ、2005年には『シスの復讐』以後のオビ=ワンら生き残りジェダイの活躍を描いた『The Last of the Jedi』シリーズを手掛けており、映画作品では言及し切れなかったジェダイたちの内面や師弟関係を補完しています。
本作はそれら作品群の2003年時点での総決算とも呼べる作品であり、所々に他作品未読者を置き去りにしてしまう個所もありますが、それらを一先ず措くとしても約200頁という読みやすい分量であることから作者手掛ける長大なシリーズに取り組む前の予習としても本作はうってつけと言えるでしょう。
ジェダイたちを映す鏡
しかし本作は単なる他作品をつなぐ箸休め的作品ではありません。
スター・ウォーズにおける主人公級キャラクターたちが揃い踏みとなる本作において、彼らを凌ぐ存在感を放つのが4世代すべてにおけるキーパーソンとして登場するロリアン・ノッドです。それぞれの個性によって影響を与え合う師弟たちは、この異端者との関りを経ることで互いをより強く意識し合い、その関係性を良くも悪くも深めて行くのですから、このロリアンこそ本作の真の主人公と言って過言ではありません。
作中のジェダイたちは意識的・無意識的を問わず自分の師を、そして自分自身を見つめさせる鏡のような存在としてロリアンに間接的に試され鍛えられたということができるでしょう。正しき者として揺るがぬ自意識を誇るドゥークーはその正しさによって友を捨て、あらゆる面で師と異なる自分の性質に戸惑うクワイ=ガンは師の旧友との戦いを経て自らの生き方を思い定め、一度はロリアンと同じく騎士団を離れかけた過去を持つオビ=ワンはかつて師と渡り合った旧敵からの思わぬ申し出を前に逡巡しながら弟子アナキンとの関りに対する大きな不安を露呈して行くのです。
そしてロリアン自身もまた、ジェダイの背教者として歩み続けた己の紆余曲折に充ちた道のりを踏まえて自分自身、ひいては銀河に住まう多くの人々の運命すら動かし得る重要な「選択」へと至るのでした。どのような本性であろうと人は選択という実存でその価値を決めるというスター・ウォーズの根底に横たわるテーマをなぞることで、ロリアン・ノッドもまた「ジェダイ」としての生き方をまっとうしたと言えるのです。
追記:「遺産」は死なず
ともあれ本作においてヨーダ、ドゥークー、クワイ=ガン、オビ=ワンと引き継がれたジェダイの遺産はアナキンの暗黒面への転向とジェダイ騎士団壊滅によってあえなく潰えたように見えます。数万年を越えて連綿と紡がれたジェダイの遺産は一人の背教者によって消え去ってしまったのでしょうか?
もちろんそうではないでしょう。アナキンの息子ルークはオビ=ワンとヨーダの薫陶を受けて新たなるジェダイとして騎士団復興を目指します。
そして本書を2024年現在において読む人々はまた、本記事冒頭に引いた最新作『アソーカ』におけるアナキンの台詞が端的に示すように、彼が間違いなく「ジェダイの遺産」をかつての弟子に伝授し得たことを思い起こすでしょう。
それはジェダイ騎士団が歩んだ歴史と同じく、決して正しいことばかりではありません。彼ら自身と同じく時に迷い、誤り、『最後のジェダイ』においてルークを追い詰めヨーダが哄笑とともに焼き捨てたいにしえの書物のように、もはや未来への展望を阻害する過去の亡霊にすぎないものもあるに違いありません。
それでもなお数千世代にわたって築き上げられた彼らの「遺産」は、フォースとともに生きる者たちがそうであるように、大いなる闇と同時に大いなる光を放って私たちを魅了します。本作においてヨーダ、ドゥークー、クワイ=ガン、オビ=ワンと紡がれた「遺産」は、レジェンズにおいてはルークを介して新たなるジェダイ騎士団に、カノンにおいてはアナキンを通してアソーカに、ルークを通してレイにと確実に新たなる人々へと受け継がれ、光をもたらしあるいは闇をもたらしながら壮大な思想のうねりを形作って行きます。
本作で描かれるのは物語が始まる数万年前から紡がれ、そして物語が終わったはるか先まで紡がれて行くであろう「継承の旅路」のほんの一場面に過ぎないのです。
参考資料
本記事でご紹介した『Legacy of the Jedi』は各種ECサイトでお求め頂けます。
また、本作の根幹となるスター・ウォーズ作品に触れるならほぼ全作品を網羅したDisney+でのご視聴がもっとも効率的です。なお、記事内言及の『アソーカ』は現在Disney+でのみご視聴可能です。
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