『シスの復讐』〈すべての終わり。すべての始まり〉【カノン映画・小説・コミック】※ネタバレあり

新三部作
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※本記事は作品内容を吟味・考察を行うことを目的としているため、多くのネタバレ的内容を含んでいます。

ノベライズ必読の迷作?

前作『クローン攻撃』の約3年後を描く本作ではついに共和国が滅んで銀河帝国が樹立され、ジェダイの騎士アナキン・スカイウォーカーが滅んで暗黒卿ダース・ベイダーが誕生する超重要作品となりますが、前作と同じく「なぜ」に対する著しい説明不足によって多くの人々を置き去りにしてしまった迷作でもあります。

もちろん迫力ある映像表現やSWファンたちを熱狂させる演出の数々は素晴らしいものですが、私がもっとも重視する「物語の文脈」に関してはお粗末と言わざるを得ません。致命的なのはやはり「アナキンがシスとしての道を歩む決心をした」ことに対する説得力の乏しさに尽きるのではないでしょうか? 今回もまた、ノベライズ版作品を補助線として私なりの物語の見立てを行ってみたいと思います。

というわけでお馴染みのオープニングクロールで明かされる事前知識は以下の通り。

  • クローン戦争は激化の一途をたどっていること
  • 分離主義勢力のグリーヴァス将軍が首都を襲い、パルパティーンを誘拐したこと
  • いまや英雄となったオビ=ワンとアナキンがその救出に向かったこと

「玉座の間」ふたたび〈ルークとアナキンを分かつもの〉

物語冒頭で私たちを熱狂させるのはなんといってもオビ=ワンとアナキンによる迫力あるアクションの数々です。アナキンは既に一人前のジェダイとして独立し、いまではこの二人は「師弟」ではなく「パートナー」としてともにこの泥沼の戦争を戦い、その力を強め、その絆もより強固なものとなっていることが分かります。

しかし力強いジェダイとなったことでは同じの二人ですが、アナキンの心にはある大きなわだかまりが居座っていることも描かれます。ノベライズ版では打ち続く戦いによって失われていった多くの仲間たちへの悲しみ、いっときも安全ではない妻パドメの身の安全への不安、夫婦生活を犠牲にせざるを得ない日々への不満など、多くの鬱屈を「ドラゴン」という形で心に住まわせ、日増しに強い執着心に苛まれている様子が描写されています。

二人はともに敵の旗艦〈インヴィジブル・ハンド〉に乗り込みパルパティーンを救い出さんとしますが、現れた宿敵ドゥークー伯爵と対決となり、物語は初っ端から激しいライトセーバーバトルが展開することとなります。この場面はEP6における皇帝の面前でのルークvsベイダーと全く同じ図式ですが、その結果は真逆のものとなるのでした。

怒りに起因する凄まじい力の差で敵を圧倒したことでは同じのルークとアナキンですが、ルークが暗黒面の息吹に戦慄して自制し得たのとは反対に、アナキンは既に戦闘能力を失くしたドゥークーを殺害します。ここにルークとアナキンの決定的な差が現われていると言えるでしょう。

パルパティーンの面前で道を踏み外すアナキン(出典:Wookiepedia)
パルパティーンの面前で父と剣を交えるルーク(出典:Wookiepedia)

ここで描かれているのは二人の自制心やジェダイとしての適性の差に留まらず、「二人を取り巻く環境の差」であると思われます。

(出典:Wookiepedia)

「救うべき父」ではなく「倒すべき災いの元凶」と戦ったアナキンは、「ジェダイであることへの強い矜持」よりも「ジェダイとの不確かな繋がり」を意識せざるを得ない心境にあり、ルークにとっては敵対すべき悪の象徴に過ぎなかったのとは異なり長年に渡って良き理解者であったパルパティーンの言葉に後押しされる形でジェダイとしての道を踏み外してしまいます。

ルークがあの場面で暗黒面の誘惑に屈しなかったことでジェダイに成長したのと反比例する形で、あの場面で誘惑に屈したアナキンはシスとしての道を歩み始めることとなってしまいます。そもそも双方の指導者であるパルパティーンが誘拐されてしまうなどという茶番劇がお膳立てされたのもアナキンをそのような状況に追い込むための「テスト」であったわけですが、パルパティーンにはもう一つの目的がありました。それがアナキンに強い影響力を発揮し得るジェダイ、オビ=ワンの抹殺だったのです。

不信の巣の中で〈オビ=ワンの可能性と限界〉

本作において、そのほとんどすべての登場人物たちは「不信」の網の目に取り込まれています。

密かに会合を持つ反議長派(出典:Wookiepedia)

元老院議員たちは日増しに権勢を強めて行くパルパティーンへの不信を募らせ、ついにパドメや盟友ベイル・オーガナらを中心に後の「反乱同盟軍」に繋がる息吹が芽生えます。彼らにあっては「最高議長と近しい」ジェダイ騎士団すらも、もはや完全な信頼の対象とはならないのでした。

また「シスの支配下にある」と匂わされたことで元老院への不信を拭えないでいるジェダイ騎士団もまた、パルパティーンを始めとする元老院関係者たちを不信の目で見つめています。

「急進派」とさえ呼べる重鎮メイス・ウィンドゥなどは議長排除や元老院掌握すらも視野に入れるほど、その政治干渉ぶりを顕著にしています。彼らもまた「最高議長と近しい」アナキンを信頼せず、メイスははっきりと「彼は信用できない」とすら口走るのでした。

最高議長と接見するジェダイマスターたち(出典:Wookiepedia)

そして渦中のアナキンもまた、自分を完全に信用していないこと明らかなジェダイや、なにか隠し事をしていると思しきパドメへの不信に苛まれています。あまりに危険な反議長活動にかかわるパドメにとって、「ジェダイとしても個人としても最高議長と近しい」アナキンはもはや何でも話せる相手ではなくなってしまったからです。

そんな世界にあってなお、オビ=ワンというジェダイは「信頼の中心点」に存在していたと言えるのではないでしょうか?

(出典:Wookiepedia)

彼はその穏健でバランスの取れた人格と非政治的な言動で多くの人々の信頼を集め、同胞たちのあまりに急進的な姿勢に難色を示すパドメも「決して口外しない、ジェダイにすらも」という仲間たちの取り決めの例外として、つまり「信頼できる人間」としてオビ=ワンを想起します。

前述の「急進派」メイスすらもオビ=ワンの言葉には耳を傾け、自分がバランスを欠きそうになったら助言してほしいと口にし、もちろんアナキンにとってもパルパティーンと肩を並べるほど強い影響力を持った人物であったのです。

おそらく帝政樹立とジェダイ滅亡を図るパルパティーンにとって、あの時点でもっとも邪魔な存在はヨーダら強力なだけのジェダイや反対派議員たちではなく、このオビ=ワンであったことでしょう。冒頭の茶番劇はアナキンへのテストであったのみならず、アナキン誘惑へのほぼ唯一の障害物であったオビ=ワンの排除にあったのことは明らかです。

しかしオビ=ワンは飽くまでもジェダイでした。彼は当時評議会の一員にまで選出され、強い発言権を持っていたはずですが、「アナキンによる議長スパイ」という法的にも倫理的にもに問題のある行為に反対しきれず、アナキンの人間的すぎる苦悩にも完全な理解を示すことができませんでした。

後にアナキンはオビ=ワンに対して「彼がクワイ=ガンのようであったら・・・」という思いに駆られます。いかに信頼しているとはいえ飽くまでも正統派のジェダイであるオビ=ワンには、評議会の方針に真っ向から反対して自らの意思を貫く師匠クワイ=ガンのような「荒業」は不可能で、結果として悲劇を防ぐことができなかったのです。

ともに有能なジェダイながら、師と弟子は根本的な違いを抱えていた(出典:Wookiepedia)

「評議員なのにマスターじゃないなんて!」〈ジェダイの矛盾〉

任務を終えてコルサントに帰還したアナキンはジェダイ評議会から正式にメンバーの一人として迎え入れられます。これはジェダイの首脳部に属すということであり、未だ20代のアナキンには破格の待遇といえますが、首脳の一人でありながら決議への投票権はなく「ジェダイマスター」の称号も与えないという片手落ちの処遇に不満を露わにします。

自分たちの一員としておきながら自分たちと同じ権利(投票権)を与えないというのは明らかに不公正です。ここにはEP1以来連綿と続く、戒律に縛られたジェダイたちのどっちつかずの態度が顕著に現われていると言えるでしょう。そもそも「生後6か月以内に訓練を開始すること」という戒律に従うならば当時9歳前後であったアナキンの受け入れを断固拒否するのが当然でした。

しかし評議会は彼が「選ばれし者」であるという可能性の魅力に抗しきれず例外として受け入れています。今回の評議会メンバーへの任命もまた、弟子を育成しきったこともないことから明らかに基準を満たしていないアナキンを議長へのスパイに使えるかもしれないからという目的で例外として任命しています。そしてどちらの場面でも「ジェダイに受け入れた以上信頼する」「評議会に受け入れた以上同等に扱う」ということもせず、「受け入れておきながら信用しない」というジェダイたちの悪しき態度で一貫しているのです。

(出典:Wookiepedia)
(出典:Wookiepedia)

処遇に不満たらたらのアナキンがさっそく命じられたのは前述のパルパティーンへのスパイ命令でした。もはやジェダイに幻滅と諦めの思いしかないアナキンですが、その決定打となったのが新たなる喪失への恐れだったのでした。

「君は賢人ダース・プレイガスの悲劇を知っているか?」

不公正な評議会の決定の中で、弟子を育成しきったことのないアナキンに「マスター」の称号は与えないという決定だけは当然なものでした。しかし「マスター」の位にこだわるアナキンには単なる虚栄心ではない切実な思いがあったのです。それは妻パドメと、産まれてくる子供を喪失することへの恐怖だったのです。

コルサント帰還の直後パドメの妊娠を知ったアナキンは喜びに浸りますが、かつて母の死を予見した「ヴィジョン」を再び垣間見ます。それはパドメが出産中に死亡するというもので、アナキンにはなにを犠牲にしてでも防がなくてはならない悲劇であったのでした。

そしてジェダイ聖堂内に設置された広大なライブラリにはマスター級のジェダイしか閲覧を許されない資料があり、彼はその中にこそ「死を防ぐ方法」があるのではないかというわずかな希望を抱いていたのです。しかしマスターの位を得ることのできなかったアナキンは落胆しつつも、一縷の望みを抱いて婉曲にヨーダに相談を持ち掛けます。「人を死から救う方法はないものか」と

執着は貪欲の陰ぞ。恐れを手放せ。失うと恐れているものを、手放さねばならん。恐れを手放せば、喪失に心を乱されることはない

ノベライズ版『シスの復讐』より引用

すべてはフォースの意思、逆らってはならん。ヨーダの答えは所詮「失うものなき隠者」の答えでしかありませんでした。ここにおいて、アナキンのジェダイとの絆はもはやオビ=ワンとの個人的な友愛のみになってしまったのではないでしょうか?

「死」を克服したプレイガスと若き日のパルパティーン(出典:Wookiepedia)

代わって彼の心をつかんだのはシスの伝説です。アナキンの葛藤を知るパルパティーンは、かつての師でありミディ=クロリアンを操ることで死をも超越する技術を開発したとされるシス卿ダース・プレイガスの逸話を伝えることでその関心を引き、ジェダイの欺瞞を含めてアナキンの心を激しく揺さぶったのでした。

矛盾の総決算〈ジェダイたちの二・二六〉

もはやアナキンの心がジェダイを大きく離れたことを察知し、議長信任の行政官による統治システム「宙域統治法令」の制定によって皇帝への階段をまた一歩のぼったパルパティーンは、ここでついにもはや利用価値のないグリーヴァス将軍を犠牲に供する形で「チェックメイト」をかけるべく大きくコマを動かします。

パルパティーン直属の機関がつかんだとして飛び込んできたのはグリーヴァス将軍が惑星ウータパウにいるという情報。亡きドゥークー伯爵に代わって分離主義勢力の実権を握る将軍を倒しさえすれば戦争は終結すると信じる評議会がその討伐に任命したのは、情報を持ち帰ったアナキンではなくオビ=ワンでした。評議会は続いて窮地にある惑星キャッシークへの救援としてなんと最高指導者ヨーダ自らが赴くことを決定。こうして投票権を持たぬアナキンを無視する形で議事を進行する評議会ですが、そこには彼らのあまりに不器用すぎるアナキンへの最後の信頼が秘められていました。

あまりに不可解な最高指導者ヨーダの前線への出征ですが、これは元老院にうごめくシスの影に業を煮やした評議会の焦りが生んだ一手だったのでした。つまりもっとも強力なジェダイであるヨーダや重鎮のオビ=ワンをあえてコルサントから引き離すことで謎のシスの攻勢を誘おうというのです。それでもコルサントにはヨーダに次ぐ実力を誇るメイスや、なによりも「選ばれし者」アナキンがいる。もしものときも彼らが謎のシディアス卿を打倒してくれるだろうという考えがあったのです。

つまり評議会は未だ「選ばれし者」としてのアナキンを辛うじて信頼していたことが窺えますが、評議会はそのことを内輪で話し合っているのみで直接本人に伝えているわけでもなく、そのような「言葉足らずの信頼」を感じ取れるほどアナキンの方に評議会への信頼などなかったのでした。彼はひたすら自分をないがしろにする評議会への苛立ちを募らせ、ただ一人彼の心のよりどころとなりえたオビ=ワンとの別れを済ますと、ついにシスの間近で一人ぼっちになってしまったのでした。

しかし評議会に逆らうことのできないオビ=ワンも、アナキンの苦悩を十二分に感じとってはいました。しかも彼はアナキンが絶対の秘密として胸にしまい込んでいたことさえも、薄々感づいてさえいたのです。アナキンの苦しみをジェダイである自分にはどうしようもできないこと。アナキンを救うことができるのはもはや彼が愛するパドメしかいないこと・・・。ウータパウへ向かう途上、パドメと面会したオビ=ワンはその苦しい胸の内を明かすのでした。

『パドメ』彼は低い、やさしい声で呼んだ。まるで残念そうに。『このことはカウンシルには何も言わないつもりだ。ひとことも。余計な負担をかけてすまない。あまり・・・動揺しないでほしい。わたしたちはずいぶん長いこと友人だった・・・これから先も、そうであることを祈っているよ』

『ありがとうオビ=ワン』パドメは消え入りそうな声で応じた。

彼の顔を正視できなかった。目の隅に、彼が頭を下げ、きびすを返すのが見えた。足音が遠ざかっていく。

『オビ=ワン?』

足音が止まる。

『あなたも彼を愛しているんでしょう?』

オビ=ワンが答えずにいると、パドメは振り向いた。ジェダイ・マスターは淡黄色の絨毯の真ん中で、まゆを寄せ、じっと立っていた。

『そうなのね』

オビ=ワンは頭を下げた。彼はとても孤独に見えた。

『どうか、彼を助けてあげてくれないか』彼はそう言って、立ち去った。

ノベライズ版『シスの復讐』より引用

以上の場面は本作屈指の名シーンと言えるでしょう。弟子であり無二の親友であったアナキンの苦悩を知っていながらジェダイという自己規定から抜け出すことのできなかったオビ=ワンは、いわば愛する者の苦しみを見ていることしかできない苦痛に引き裂かれるのです。

注目すべきはパドメの「あなたも彼を愛しているんでしょう?」という一言です。「ジェダイは愛してはならない」とはEP2で登場したジェダイの戒律ですが、パドメを愛したアナキンだけではなく、仲間を愛したゆえにクローン戦争の幕を切って落としたヨーダもまた愛によって道を踏み外しました。

「思いやりはジェダイの生活の中心」

「ジェダイは愛することを奨励されてすらいる」

とはEP2中のアナキンの台詞です。一見若いアナキンの減らず口のように聞こえる言葉ですが、これは確かな真実と言えるでしょう。そもそもフォースを探求する哲学者集団であったはずのジェダイがその持てる力を人々の守護に使おうとしたのは何故なのでしょう? 何かを守りたいというのはその何かへの愛情ではなくて何なのでしょう? ジェダイはその存在理由を愛に拠っていながら、そのことを忘れてしまった人々だったのではないでしょうか? 

(出典:Wookiepedia)

思えばEP2からオビ=ワンを「父とも兄とも思っている」と思慕を隠さないアナキンに対して、オビ=ワンの態度は飽くまでも「弟子」や「友」といったものでした。上記の場面で自らの「愛」に気付かされたオビ=ワンは自分を支えていたはずの自己規定を大きく揺さぶられ、ついに言葉を失くしてしまったのではないでしょうか?

そしてクライマックスの「弟だと思っていた」「愛していた・・・」に繋がるのではないでしょうか? パドメの一言はもしかしたら愛する夫を苦しめるジェダイたちの矛盾を激しく追及する糾弾の言葉であったのかもしれません。

「穏健派」の長老ヨーダとオビ=ワンを自ら遠ざけたジェダイはもはやシスの思うツボとなりました。正体を明かし、命がけの説得に乗り出したパルパティーンを前に辛うじて自制心を保ったアナキンは這う這うの体で真実を評議会に通報。すべてを知ったメイスとその同志たちはついに破滅へ至る一歩を踏み出すのでした。

逮捕を宣言するジェダイたちを前についに正体を現したパルパティーンはダース・シディアスとして激しい戦いを繰り広げますが、メイスの力強い攻撃の前になんと屈服。駆け付けたアナキンを前に悲痛な命乞いをするのでした。果たしてパルパティーンの敗北が演技であったのか否かに関しては微妙なところですが、問題はそこにはないでしょう。

わたしの哲学的な見解は個人の問題だ。憲法はそう謳っている。

ノベライズ版『シスの復讐』より引用

この一言が余すことなく語っているように、問答無用でシスを抹殺せねばならぬというのは飽くまでもジェダイの「宗教的理由」であり、シスであるというだけの理由で抹殺しなければならない法的理由はどこにもないのです。ジェダイは共和国に仕える身であり、合法的に共和国を司る人間に法的根拠もなく危害を加えればそれは紛れもない「犯罪行為」となる。

ジェダイに力で立ち向かった祖先たちの失敗に学んだパルパティーンは、ジェダイが拠って立つ土台そのものになり代わることで戦う必要すらなく彼らを破滅せしめたのです。仮にメイスによって殺害されていたとしても、共和国にテロ集団となったジェダイ騎士団の居場所はなく、組織としてのジェダイ滅亡は避けられなかったことでしょう。

事実この「ジェダイによるクーデター未遂」によってパルパティーンはこれまでの穏健な仮面をかなぐり捨て、秩序維持を大義名分として共和国の再編と帝政樹立を宣言。ジェダイを反政府組織としてシステマティックに弾圧して行くのです。その善悪理非は措くとしても、ジェダイが反政府組織またはテロ集団というのは事実となってしまったのです。

以上のような破滅をジェダイにもたらしたもの。それはメイス・ウィンドゥの「文明に対する愛」でした。彼は無秩序がもたらす悲惨をよく知っており、平和をもたらす秩序を維持するうえで不可欠な文明を、それを担保し得る共和国を愛していたのでした。それによって共和国を私物化し破壊をもたらすシスを激しく憎み、ジェダイが元老院を掌握するという「荒業」をもってしても秩序を保ち平和をもたらそうとしたのです。

無自覚な愛ゆえにジェダイたちは「平和の主義者」として越えてはならぬ一線を越える(出典:Wookiepedia)

前作におけるヨーダの「愛」。そして本作におけるメイスの「愛」。愛することを禁じたジェダイ騎士団は、二人の首脳の無自覚な愛ゆえに滅び去ったと言っても過言ではないかもしれません。

帝国とベイダー〈信頼の果実〉

敗北を喫したシス卿にとどめを刺そうと意気込むメイスはしかし、パルパティーンの最後の抵抗によって押されて行きます。彼の指先からほとばしり出るフォースの稲妻を辛うじて遮るメイスは、「選ばれし者」アナキンとパルパティーンの間に「完全な信頼関係」が築かれていることに気付いて愕然とします。アナキンはなによりも妻と子の死を避けることを望んでおり、パルパティーンはその秘密を知り得るただ一人の人間なのです。

「妻と子を助けたい一心のアナキンが自分を見捨てるわけはない」

これまでの長きに渡る信頼の構築に加えて、現実的利害にまで裏打ちされた信頼関係は、ジェダイ側の不確かな信頼関係に比べて一切の揺らぎを見せません。シスの信頼に応えたアナキンはライトセーバーを抜き放ち、メイスは「シスの師弟」の連携によって葬り去られたのでした。

(出典:Wookiepedia)

窮地を脱したパルパティーンはアナキンをダース・ベイダーとしてシスに迎え入れ、ついに秘密指令「オーダー66」を発令します。脳内に埋め込まれた行動規制チップによって無条件にジェダイを襲撃する指令を発動されたクローントルーパーたちは、銀河中に散らばり疲弊しきったジェダイたちを不意打ちによって次々と葬り、こうして彼らは社会的のみならず肉体的にも抹殺されたのでした。

「最高議長」改め「銀河皇帝」となったパルパティーンは多くの人々の歓呼に包まれ野望の絶頂を迎えます。思えば自ら仕向けたこととはいえ、帝国の樹立は戦乱に喘ぐ人々からの平和獲得への切実な期待に支えられ、新たなる弟子ダース・ベイダーの獲得は愛する者を死から救いたいアナキンの切実な期待に支えられたものであり、両者とも「信頼」を勝ち取ったことで手にした勝利だったと言えるでしょう。

(出典:Wookiepedia)

しかし「シスの信頼」とはどこまでも利己的なものでしかあり得ないようです。銀河の秩序維持を謳って樹立された銀河帝国も単なる圧制機関と化し、僅か20年ほどの短命となりました。権力獲得まではあれほども緻密・狡猾だった有能な政治家パルパティーンは、権力獲得と同時に無能な圧制者へとなり下がります。

シスとなり、数々の虐殺に手を染めたベイダーは惑星ムスタファ―において自分に背いた妻を激情に駆られて死に至らしめ、師との戦いに敗れ、半死半生の重傷を負ったことで生命維持装置なしでは生きて行けないサイボーグへと変貌します。自らの行いですべてを失ったベイダーはシスとして生きることのほんとうの恐ろしさを知るのです。

これからは、彼が考えるのは自分のことだけだ。

ノベライズ版『シスの復讐』より引用

善悪理非は措いて、シスは自分のことしか考えられない利己主義がその性なのです。彼らは徹底した利己主義によってすべてを野望達成のエサとしますが、野望達成後にはその利己主義によってすべてを失うこととなるのです。パルパティーンは終わりなき権力欲に目をくらませて多くの人々を虐げたことでやがて自ら破滅の種をまき、「愛する者を失いたくない」という気持ちによって暴走したアナキンも結局は利己主義に塗れた怒りに駆られて妻を自ら死に至らせます。

失ったものを取り戻す方法はどこにもありません。強制的に命を長らえさせる生命維持装置に包まれながらその苦しみを忘れる方法はただ一つ、「思考放棄」しかありません。以降彼の心の中でアナキンは死に、死と破壊をもたらすシス卿ダース・ベイダーとして生きるという選択肢しか残されてはいなかったのです。愛によってすべてを失った男が愛によってふたたび救われるまで銀河は、そして彼自身も、暗闇に閉ざされることになるのでした。

シスに徹することで「死」を迎えたアナキン(出典:Wookiepedia)
(出典:Wookiepedia)

新たなる希望〈異端の勝利〉

物語クライマックスにおいてオビ=ワン、ヨーダ、パドメはそれぞれの運命と対峙します。オビ=ワンは愛する友アナキンと最後の戦いに赴き、ヨーダはシス卿ダース・シディアスとの頂上決戦を戦い、パドメは愛する男への最後の説得に敗れて新たなる希望となる双子ルークとレイアを生み出してこの世を去ります。

はじめシディアスを倒さんとしたヨーダはしかし、自らの過ちに直面するのです。それは未来の勝利をつかむために絶えず変化してきたシスに比べて、1000年もの長きに渡って「正義の側」に居続けた自分たちの慢心。もはや自分にシスを滅ぼすことは不可能と悟ったヨーダは勝負を棄てて逃亡し、ある男の声に耳を傾けることになります。

ダゴバに隠棲したヨーダ(出典:Wookiepedia)

その男の名はクワイ=ガン・ジン。かつて自分たちが異端者として遠ざけたジェダイですが、どういうわけか死後もその存在を保ちえた彼とヨーダはしばしば言葉を交わしていたのでした。

常に「未来」に目を向けて行動することを原則としてきたヨーダたちは、「今このとき」に意識を集中するべきとするクワイ=ガンの思想を受け容れようとしませんでした。しかし太古の昔から続いた自分たちのやり方の失敗を認めたヨーダはクワイ=ガンの説く思想の正しさを認め、彼が体得したフォースと一体となり死を超越する方法をともに学ぶ決心をするのでした。

それはかつてアナキンが追い求めたものですが、クワイ=ガンいわくそれは追い求めるのではなく手放すことから実現するものとされ、どのみちアナキンが望んだ形での死の超越ではなかったようです。こうしてヨーダは「生けるフォース」の信奉者となり、EP5に見るフォース観を形成していったのでした。

それぞれの形ですべてを失った者たちは、それぞれの形で新たなる人生を歩みだします。アナキンはベイダーとして無限の怒りに囚われる人生を歩み、オビ=ワンとヨーダは「新たなる希望」を敢えて他者に委ねて手放すことで自分たちが陥った過ちを繰り返さない道を歩むのです。すべては20年後、運命が再び動き出すその日まで・・・。

ルークを唯一の血縁者ラーズ家に委ねるオビ=ワン(出典:Wookiepedia)

参考資料

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