【映画】エピソード1『ファントム・メナス』〈ジェダイのジレンマ〉※ネタバレあり

新三部作
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※本記事は作品内容を吟味・考察を行うことを目的としているため、多くのネタバレ的内容を含んでいます。

賛否両論の新章

1983年の「ジェダイの帰還」公開によっていったん幕を閉じたスター・ウォーズ(以下SW)シリーズは実に16年の歳月を経て再び始動。

新三部作またはプリクエル三部作と総称されるシリーズが物語を補完する多くの新設定を提示し、その世界はより広く、その物語はより深くなっていったのでした。しかしSWにはいつものことと言うべきか、その評価は実に賛否両論。特に本作「ファントム・メナス」はSW新章第一作ということでファンたちに多くの熱狂、困惑、落胆を味わわせたのでした。

では恒例の事前情報を押さえておきましょう。

  • 銀河共和国に混乱が生じていること。
  • 辺境貿易への課税をめぐって貪欲な通商連合が無力な惑星ナブーを武力封鎖したこと。
  • 銀河元老院は有効な手を打てず、ジェダイ騎士団に調停を依頼したこと。

懐かしいワードと聞きなれないワードが混在するこれらの情報とともに、私たち観客は再び「あの銀河」へ旅立つこととなります。

少し先回りしてしまえば新三部作の要点は、「なぜ銀河共和国が滅び銀河帝国が台頭したか」。そして「なぜジェダイ騎士団が滅びダース・ベイダーが誕生したか」に集約されるでしょう。そんなシリーズ第一作となる本作の要点は旧三部作で輝かしい国家として語られた共和国の実相と、偉大なる賢者たちとしてイメージされたジェダイ騎士団の抱えるジレンマということになるでしょう。まずは全体のあらすじをキャラクターたちの紹介とともに追って行きたいと思います。

銀河共和国〈落日の老大国〉

一〇〇〇代以上も続いたジェダイの騎士たちは共和国の平和と正義をずっと守ってきたんだ。だがすべては帝国軍に覆されたよ。

映画『新たなる希望』より

「新たなる希望」でその存在が語られて以来、銀河共和国とそれを守護するジェダイの騎士たちはかつて在りし正義の象徴でした。だからこそ銀河帝国はそれらを叩き潰した元凶として、勧善懲悪物語の「悪」であり得たのです。

しかし新三部作で語られる内実はそう単純なものではありません。銀河中に版図を広げ、無数の惑星や星系を代表する議員たちによって構成される元老院が統治する共和国はこの時点ですでに1000年もの歴史を築いており、年齢相応の腐敗や硬直と無縁ではないのでした。しかも元老院を率いるべき最高議長ヴァローラムは汚職嫌疑の真っただ中にあり信用も指導力も皆無。舵を失った巨船となった共和国をさらに揺さぶることになるのが、本作のストーリーの根幹を成す「ナブー危機」なのでした。それはある企業の強欲によって引き起こされます。

通商連合トレード・フェデレーション〈国家のなかの国家〉

通商連合とは銀河中の通商や物流を一手に握る超巨大複合企業であり、共和国が銀河の政治的支配者ならば通商連合は銀河の経済的支配者と言えます。総督(ヴァイスロイ)と呼ばれるヌート・ガンレイをトップとする連合の力は一企業の範囲をはるかに超えており、経済力はもちろんの政治的影響力に加えて軍事力まで兼ね備えているという、まさに「国家の中の国家」と呼ぶべき存在です。そしてその力の源泉となるものこそ本作の事前情報でも言及された「辺境貿易をめぐる課税」に関する特権なのです。

SWの銀河は首都惑星コルサントが位置する中心部から外縁に向かって数々の領域に分かれていますが、外に向かえば向かうほど共和国の威光が及ばず、それだけ海賊やギャングなどの非合法組織や武装勢力の襲撃にさらされる危険の高い「ハイリスク地域」となります。そのような地域でも交易活動を繰り広げる通商連合はそれに見合う「ハイリターン」としてその地での売り上げに対する非課税特権を獲得しているのです。

それによって莫大な収益を得た連合は多くの有力元老院議員たちを買収、さらに危険地帯での自己防衛の必要を理由にバトルドロイドと呼ばれる戦闘ドロイドを主力とした私兵集団まで組織しており、もはや共和国政府にすら脅威を感じさせるほどに成長した彼らの脅威を少しでも減少させるべく、元老院は連合の富の源泉である非課税特権の撤廃を提案するのでした。

ジェダイ騎士団〈銀河の守護者〉

元老院の動きに連合が反発することは当然でしたが、抗議として選んだ方法は異常なものでした。なんと彼らは辺境に位置する平和な惑星ナブーを武力によって封鎖。銀河史上「ナブー危機」として知られる事件を引き起こしたのです。事態を重く見た元老院はしかし、多くの有力議員を抱き込み隠然たる影響力を持つ連合を相手に有効な打開策を見出せず、銀河の守護者・調停者としての役割を以て任じるジェダイ騎士団に助けを求めることしかできなかったのでした。

本作で、特にノベライズ版においてジェダイ騎士団の歴史や共和国時代に果たした役割が明らかになります。本来フォースを探求する哲学者集団として発足したジェダイはいつしかその強大な力を銀河の平和と秩序維持に活かす道を選び、以後軍事力を持たない共和国の後ろ盾として銀河中の尊敬を集めていたのでした。

この時代のジェダイたちはコルサントに壮大なジェダイ聖堂を構えて本拠地とし、旧三部作にも登場した長老ヨーダを筆頭に12名の有力ジェダイマスターで構成される「ジェダイ評議会」が首脳を務め、その決定に従って約1万人のジェダイたちが修行や任務に邁進しています。そして元老院の依頼を受けた評議会は一組のジェダイの師弟を派遣することを決定したのでした。

クワイ=ガン・ジンとオビ=ワン・ケノービ〈共和国のジェダイ〉

連合との交渉に赴いたのは老練なジェダイマスターであるクワイ=ガン・ジンとその弟子オビ=ワン・ケノービです。旧三部作でお馴染みのオビ=ワンもこの時代には未だ修行中の身であり、師であるクワイ=ガンとともに各地をめぐって任務をこなしつつ修行に励むという毎日を送っています。そして二人を通して共和国時代のジェダイのシステムが明らかになって行きます。

まずジェダイは常に一人の師匠マスターに一人の弟子パダワンが学ぶマンツーマンスタイルを鉄則とし、この二人は常に衣食住を共にします。オビ=ワンは強力なジェダイであるクワイ=ガンを尊敬しつつも、その型破りなために上層部と衝突しがちな性格と思想に困惑する様子が描かれています。

本シリーズにおいて重要な役目を果たすこととなるクワイ=ガンは誰もが認める高い実力の持ち主でありながらジェダイの主流とは異なる異端的思想の持ち主であり、また評議会の意向に背いてでもすべきことをするという反抗的な性格が災いして指導層に加わることができないでいるという異質なジェダイです。

しかし彼の思想は一言でいうならば「未来よりも今を重視すること」。つまり遠い未来に思いを馳せるのではなく今この瞬間をもっとも大切にしなければならないというものであり、さらに「考えるな、感じるんだ」という作中の発言にみられる「熟考よりも直感を重視する」思想といい、「帝国の逆襲」でヨーダが語る教えと実によく似ています。それなのになぜ彼が異端とされているのか? その謎は続く二作で明らかにされて行きます。

ともあれ交渉のために武力封鎖真っ最中の連合の宇宙船に乗り込んだのも束の間、連合は更なる異常な行動に出ます。なんと彼らはジェダイ暗殺を試み、ナブーに対して武力侵攻を開始したのです。二人のジェダイは次々と襲い来るバトルドロイド軍団を相手に苦戦しつつ、もはや交渉どころではなくなった連合の船を離れて窮地に陥ったナブー女王の保護に向かうことにしたのでした。

アミダラ女王〈悲劇の女王〉

絶体絶命となったナブーを統治するのはなんと14歳の少女に過ぎませんでした。しかしその年齢に反して女王アミダラは聡明さとクリーンさで名君としての人望篤く、その善政ぶりは多くの国民からの支持を得ていました。ナブー女王の全身を覆う華麗なメイクと衣装のバリエーションは本作の見どころの一つと言って良く、戦時中を舞台としているためにガジェットやアクションの迫力中心で化粧っけの少ない旧三部作とは対照的に平和な時代を舞台とする新三部作を象徴する見どころとも言えるでしょう。

しかしこの名君が治める平和な国家は非武装平和主義を標榜しており、小規模な警備隊レベルの軍しか持っていないため大軍勢を率いる連合の前に一たまりもありませんでした。ナブー全土はなすすべなく制圧。自身も身柄を拘束されたものの護送中をジェダイたちに救出された女王は、ただちにコルサントに向かって地元出身の元老院議員パルパティーンに窮状を報告し連合の横暴を糾弾すべくナブー脱出を決意しますが、その道のりは実に多難なものとなるのでした。

ダース・シディアス〈すべての黒幕〉

しかし連合のやり方はどこからどこまでも不可解です。経済紛争に過ぎないトラブルに対して軍事力を行使し、無力な惑星に対して武力侵攻まで行うというのは常軌を逸しています。SWが不可解・不可思議なのはその世界観やガジェットのみであり、そこに生きる人々はどのようなエイリアンであっても理解可能な存在であったはずです。理解不能な行動をとる連合の振る舞いには、やはりある男の思惑が絡んでいたのでした。

その男の名はダース・シディアス。かつてジェダイに滅ぼされたシスの末裔であり、連合を陰で操る黒幕であり、その正体はアミダラ女王が頼ろうとしていたナブー出身元老院議員パルパティーンその人です。本作で展開する物語は、否SWという物語で巻き起こる展開のほとんどはこの男の策謀に拠るものなのです。

彼が最終目標とするのは銀河の支配。事実彼はこののち共和国を乗っ取って帝国を組織し、皇帝として銀河を支配下に置くこととなります。しかし何のために? それは彼を遡ること約1000年に及ぶシスの悲願であったからでした。

シスのシステム

本作では公式にジェダイの宿敵であるシスの歴史が語られることとなります。時を遡ること2000年前。フォースから引き出される強力な力を己のために使うことを志し、異端者として追われたジェダイたちはシスを名乗り銀河の支配を目指してジェダイたちと長く激しい戦いを繰り広げました。しかしひたすらに力を求めるシスたちは覇権をめぐって互いに殺し合い、最後には自滅に等しい形で滅び去ったのでした。

しかし本来シスたちが軽蔑した「狡猾」と「忍耐」を胸にたった一人生き残ったダース・ベインは徹底した利己主義者という自分たちの性向を自覚し、派閥間の権力闘争を防ぐため一時代に師弟一組のみ存在を許すという一子相伝システムを制定したのでした。しかしこのシスの師弟関係は緊張に満ちたものでもありました。なぜなら常に力と支配を志向するシスの師弟間では力を付けた弟子による下剋上が頻発したからです。常に二人しか存在が許されず、用済みとなった師の排除と力及ばぬ弟子の抹殺が蔓延する修羅道のようなこの新設定によって、旧三部作で展開したルークを巡るベイダーと皇帝のやりとりはより一層の深みを持ったものであったことが明らかになります。

以降シスたちは、銀河の片隅でいつか来たるジェダイへの復讐の時を待ち望みながら細々と生きながらえてきたのでした。遂にその第一歩を踏み出すこととなるシディアスがとった手段は、銀河の武力支配を目論んだ祖先たちとは一線を画すものでした。ルーカスは彼の手段を「カエサルやナポレオン、ヒトラーのやり口」と評しています。つまり周囲からの協賛によって合法的に独裁権力を手にして行くというものなのですが、その第一歩こそが本作で引き起こされたナブー危機なのです。

クリーンな議員パルパティーンとして地歩を固めながら、シディアスは連合の総督を飴と鞭で支配下に置いて今回のナブー封鎖を指示。これによって引き起こされた擾乱を活用し、ただでさえ影響力を失墜させている現職議長に引導を渡し、代わって自らが新議長に選出されることでまずは共和国のトップの座に就く。これが、というよりこれだけが、本エピソードにおけるシディアスの目的なのです。

しかしシディアスにとって単なる野望への第一歩に過ぎなかった今回の騒動は、彼の未来のみならずあらゆる人々の、ひいては銀河全体の未来すら大きく揺るがすある出会いを作り出すことになるのでした。

アナキン・スカイウォーカー〈運命の出会い〉

コルサント目指してナブーを脱出した一行はしかし連合の妨害に遭って宇宙船のエンジンを損傷し、最寄りの惑星タトゥイーンへの不時着を余儀なくされます、しかし共和国の覇権の及ばない辺境地であるため共和国の通貨が使用できす、修理に必要なパーツが買えないという難局に立たされてしまいます。そんな一向に手を差し伸べたのが一行が立ち寄ったジャンクショップで使役される奴隷少年アナキン・スカイウォーカーでした。

彼は共和国では違法でありながら辺境では罷り通っている「奴隷」として母シミとともにジャンクショップを経営するワトーの下で働かされていたのでした。しかし荒んだ環境と裏腹にその心は純粋そのもの。素性も知らない困り果てた一行に助けの手を差し伸べ、ともにパーツ獲得のための方策を探ることになります。

しかしアナキンに手を差し伸べさせたのは単なる善意だけとも言い兼ねます。何よりも彼の気を惹いたのは女王アミダラの侍女パドメの美貌でした。一方でパドメもアナキンに対して好感情を抱きますが、9歳の少年と14歳の少女の関係はこの時点では弟と姉を思わせるものに過ぎませんでした。しかし後にこの二人の関係が、彼らのみならず銀河史をも大きく動かして行くことになるのでした。

そしてもう一つ、ジェダイであるクワイ=ガンとの出会いがアナキンの運命を永遠に変えることになります。はじめ少年の純粋な人柄に好感を持ったに過ぎないクワイ=ガンですが、彼の言動の端々から窺える非凡さに着目し始めます。とくに時速600キロを超える猛スピードで疾駆するポッドレーサーを操縦できるということを聞くに及んでいよいよある確信を深めてゆきます。「この子にはジェダイの資質がある」と。そんなクワイ=ガンの予想は、ある驚くべき事実によって裏付けられることになります。

ミディ=クロリアン〈野暮か革新か?〉

「ミディ=クロリアン」の存在は新三部作でもっとも賛否両論を読んだ新設定であると言っても過言ではないでしょう。これまで「銀河を統べる神秘の力」としてファンを魅了したフォースが、単なる微生物によって媒介されるということになってしまったのですから。

ミディ=クロリアンは現実世界でのミトコンドリアにあたり、生物の細胞中で共生している別個の生命体であり、この微生物こそがその宿主にフォースを感じさせる役割を持っている、とされています。つまり細胞内のミディ=クロリアンの値が多ければ多いほどその宿主はフォースと深く繋がっているということになります。これを即物的でファンタジー要素ぶち壊しの野暮な設定でありフォースの矮小化ととったファンもいれば、これこそSWの主要テーマである「共生」との見事なリンクであるとするファンも存在し、私も後者の意見に賛成しています。

密かに調べたアナキンのミディ=クロリアン値は途方もなく、彼らの長であるヨーダすら凌ぐものであるということでクワイ=ガンやオビ=ワンを驚愕させます。そしてこの事実はもう一つの予想を呼び起こすこととなるのでした。

ポッドレース〈自由への道〉

ともあれ船の修理を終えなくてはどうすることもできません。アナキンの提案をきっかけに一行が選んだ手段は、一言でいえばアナキンの奴隷主ワトーとのギャンブル対決。ワトーの無類のポッドレース好きに付け込み、レースに出場するアナキンが優勝すればパーツを獲得、負ければ一行の船を譲り渡すという取り決めを結んだのです。ここに物語前半部のクライマックスとなるポッドレースの大迫力が観客を魅了することになります。

これまた銀河の歴史を左右したと言っても過言ではないポッドレースは、古代ローマを舞台としたスペクタクル映画『ベン・ハー』で展開する戦車競走にインスパイアされたものであると言われており、両者を見比べればその相似は一目瞭然です。片や二個一対の強力なエンジンに牽引されて、片や四頭の駿馬に牽引されて猛スピードで疾走する緊迫のレースは観る者の息を呑ませます。宿敵メッサラを破ったベン・ハーと同じくライバルである強豪選手セブルバを破って見事優勝したアナキンは一行にタトゥイーンからの脱出を約束したのみならず、自分自身の自由をも勝ち取ったことになります。クワイ=ガンはギャンブルの条件に、密かにアナキンの奴隷からの解放も条件に織り込んでいたからです。

ジェダイのジレンマ

ここに一つの疑問が出てきます。そもそも「奴隷制」などという非人道的な制度をなぜジェダイであるクワイ=ガンたちは放置しているのでしょうか? 「ギャンブルの条件」などではなく「奴隷を解放せよ」と命じればよいのではないでしょうか? それがためにアナキンは自由と引き換えに最愛の母との別れを経験することとなり、その痛みと不安が後に大きな悲劇の一因となってしまうのです。ここに、ジェダイは「銀河の守護者」ではなく「共和国の守護者」であるという実像が露わになります。

確かに彼らは銀河に生きる人々の平和と安全を守ることを志向していますが、SW銀河に住む人々の数はなんと約100兆人とされています。片やジェダイの数は約1万人。これは修行中やほんの子供に過ぎない者も含んでの数であり、一人前のジェダイの数はさらに少数です。いかに強力な力の持ち主であろうと1万人で100兆人の平和と安全を守ることは不可能。それを担うべきは多数者によって構成される銀河共和国であり、ジェダイはそれを補佐することを本分としてしているのです。よって共和国元老院>ジェダイ評議会>個々のジェダイという指揮系統を絶対としているのです。

クワイ=ガンが異端視される最大の原因はここにあります。評議会の意向に反してもするべきと思ったことをするという姿勢を肯定すれば特定のジェダイの独善的行動に繋がりかねず、強大な力を持ったジェダイが独善に陥れば銀河に災厄をもたらしかねないからです。作品は異なりますが「大いなる力には大いなる責任が伴う」ということです。

このテーマは以降のエピソードで更に言及され、そしてそもそもフォースなる不可思議な存在を探求する哲学者集団であったジェダイたちがなぜその力を人々の守護に用いようとしたのかという点と相俟って、新三部作の大きなテーマとなって行くのです。

「選ばれし者」アナキン

首尾よくコルサントに到着した一行はそれぞれの落胆を経験することになります。女王アミダラはパルパティーンを通じて元老院に急を要する事の次第を訴えますが、リーダー不在かつ通商連合とのしがらみが蔓延する元老院の議論は遅々として進みません。一方のクワイ=ガンはジェダイ評議会の決定に落胆することになります。強力な潜在能力を持つにも関わらず、アナキンのジェダイ受け入れを拒否したのです。

ここにまた、ジェダイにまつわる新設定が明らかになります。それは「ジェダイは生後6か月以内に訓練を始めねばならない」というもの。なぜなら「ジェダイは執着してはならない」からであり、そのために両親や故郷に対する執着が芽生える前にフォースの制御を学ぶ必要があるからとされました。よって既に9歳であるアナキンはジェダイの修行をするには遅すぎ、また母シミを想いその安否を気遣う心すらジェダイを暗黒面へ誘う「執着」として危険視されます。この新設定は過去作を知るファンたちに大きな困惑をもたらしました。なぜならルークもまたヨーダから修行を始めるには遅いと言われながらも20歳前後から訓練を行って立派にジェダイとして成長しているからです。

そして後の「エピソード2 クロ―ンの攻撃」では執着を禁じる結果としてジェダイは恋愛や結婚も御法度であるという設定が追加されることになります。これまたスピンオフ設定であるとはいいえルークやその他のジェダイたちは恋愛も経験しており、結婚して子供を持つジェダイや、共和国時代のジェダイの子孫も存在していたことから随分乱暴な後付け設定であるという感をファンたちに抱かせました。

しかしそれが当時の戒律であるというのならジェダイであるクワイ=ガンも承知だったずです。それでもなおアナキンの修行開始を訴えたのには、桁外れの潜在能力を持つ彼こそが「選ばれし者」ではないのか、という期待があったからなのでした。ここで更なる新設定として「ジェダイの予言」が登場します。それは「やがて選ばれし者が現われフォースにバランスをもたらす」というもの。それがどういう意味であるかは当のジェダイたちにも判然とはしておらず、ということは私たち観客にも詳細が知らされることはありません。

ジェダイ騎士団は非人間的組織?

ジェダイにまつわる以上の新設定の数々はジェダイ騎士団と言う組織の非人間性を露わにします。これらを厳密に守るならば彼らは両親や故郷の思い出を持たず、なにものにも執着することなく、愛情も単なる暗黒面への誘惑として退け、ひたすらフォースなる不可思議な力の探求と銀河の秩序維持のためだけに存在している修道僧的存在であるということになります。

そして修行を始めるには遅すぎるとされたルークの成長、そして父への愛情によってダース・ベイダーからアナキン・スカイウォーカーを救い出したルークの活躍を既に知っている私たち観客は思います。これらははっきり言って無意味な戒律ではないのか? と。実際この点は後のエピソードでさらに深堀されて行くことになり、これこそがアナキンが暗黒面に堕ちた真因であり、ジェダイ滅亡の真因でもあると思うのです。要するに物語の上では「無意味な戒律であることに意味がある」のです。そしてそれを通じて一つのテーマが浮き彫りになります。ジェダイは本当に愛を知らない非人間的存在であるのか否か、と。

シス、再び表舞台へ

評議会には得体のしれない新参者よりも強い関心を呼び起こすものがありました。それはクワイ=ガンの報告にあった謎の人物。実はタトゥイーンを脱出する直前に一行を襲撃した男がおりました。彼は黒衣に身を包み全身に刺青を施した魁偉な風貌をしており、なによりクワイ=ガンが驚いたのはその男がライトセーバーによる高度な戦闘能力を持っていたこと。ライトセーバーを使いこなしジェダイに敵対する者、それはシスしかありえません。しかしシスは1000年前に滅びたはず・・・。評議会はアナキン受け入れの問題を棚上げにし、再びナブーへ帰還するという女王の護衛と謎の襲撃者の正体究明を命じるのでした。

決死の脱出を成功させたにもかかわらずアミダラが帰還を選択したのは元老院への大きな失望に拠るものでした。故国の窮状と連合の横暴を懸命に訴えたにもかかわらず有効な議論を展開できない元老院と無力な指導者に幻滅した彼女は、パルパティーンの勧めるままに議長への不信任案提出に踏み切ります。すでに限界まで高まっていた議長への不満はアミダラの発言を機に燃え上がり、圧倒的支持を得て不信任案は可決、即座に新議長をめぐる選挙戦の幕が切って落とされたのです。

これによってパルパティーンの目標はほぼ達成されたことになります。故郷の悲劇を憂う善意の人アミダラが元老院の腐敗と無能が白日の下にさらし、しかし皮肉にも恐るべき独裁者登場の第一歩を手助けすることとなったのでした。しかしアミダラの憂いが鎮まることはありません。

有力かつクリーンな人物という声望に加えて故郷を侵略されている悲劇の政治家としての同情票も相まって自国出身のパルパティーンが新議長となるのは明らか。しかしそれでも長きに渡る硬直と腐敗に毒された元老院が問題解決能力を持つには更なる時間を要するでしょう。彼女は周囲の驚愕と制止を振り切り故郷への帰還と独力での連合撃退を決心します。しかしどうやって? ナブーには連合と対抗し得る軍事力はなく、再び護衛に就くクワイ=ガンたちも政治不介入を貫く必要から身辺警護を越える行動は不可能です。

グンガン族〈異種との共生〉

しかしアミダラには秘策がありました。きっかけとなったのはナブー脱出の際に一行と行動を共にすることとなったジャー・ジャー・ビンクスの存在。彼はナブーの原住民でありながら度重なるトラブルがもとで故郷を追放されているというはぐれ者でした。彼が属すグンガン族は、移住者の子孫でありながら今では惑星の覇権を握るナブー人とは距離を置いており、この両者は表立って敵対こそしていないものの決して交じり合うことはないという冷え切った関係にありました。

アミダラが目を付けたのは彼らが誇る戦士としての文化。平和と非武装を旨とするナブー人とは対照的にグンガン族は原始的ながら軍団を組織しており、この機に両者の融和を実現してグンガンとの共闘によって連合を撃退しようというのでした。アミダラはジャー・ジャーを案内人としてグンガン族の長の前に立ち、力を合わせて侵略軍を打ち払い、これからは友として共存して行こうと最大の敬意を込めて提案するのでした。

そしてこの場面で新たな真実が明らかになります。アミダラの侍女として行動を共にし、アナキンが想いを寄せたパドメが実は女王その人であったという事実。女王が常に華美なメイクと衣装に身を包み、複数の侍女を侍らせているのは単なる権力の象徴ではなく、いざという時の影武者でもあり、アクティブな女王自身が行動する際の目くらましでもあったというわけです。

ナブー人を高慢な輩と決めつけていたグンガンの長はアミダラの真摯な姿勢に打たれて協力を快諾。これによりグンガンとナブーの連合軍が結成され、のちに「ナブーの戦い」と呼ばれる大反撃が繰り広げられるのでした。

このくだりは前作「ジェダイの帰還」のイウォーク族対帝国軍の戦いと同じ構図となります。最先端のテクノロジーを誇る連合のドロイド軍団に対して原始的な装備を持つグンガン人が果敢に戦い、やがて勝利を収めるという筋書きは前作同様「素朴な者の勝利」というテーマをなぞり、また、それまで互いに距離を置いていたコミュニティ同士が危機を前に団結する様は「異種との共生」というテーマをなぞるものです。

しかし本作がなぞるのはテーマ性だけではなくコメディタッチで描かれる戦闘シーンの方も同様。観客は再び場に不相応なコメディ要素に鼻白むこととなったのでした・・・。

ジェダイvsシス〈千年越しの対決〉

アミダラに同行したクワイ=ガンとオビ=ワンはナブーの戦いのさ中、ついに謎の襲撃者と本格的な戦いを繰り広げることとなります。その正体はダース・シディアスの弟子ダース・モール。千年ぶりに相対したジェダイとシスはナブーの宮殿を舞台に激しい決闘を繰り広げることとなり、同時に本作最大の見せ場を迎えることとなります。新三部作では実に鮮やかで本格的な殺陣が取り入れられ、旧三部作とは比べ物にならないほどの迫力に満ちた剣戟が観客を圧倒します。

ダース・モールの戦闘力は他の追随を許さず、有力なジェダイマスターであるクワイ=ガンが致命傷を負わされるほど。オビ=ワンも絶体絶命の危機に追い込まれてしまうもののモールの油断を突く形でどうにか辛勝を収め、死にゆくクワイ=ガンからアナキンの未来を託されるのでした。こうして後に強い絆で結ばれ、さらに後には激しい愛憎に翻弄されることになるオビ=ワンとアナキンの師弟関係は始まったのでした。

そしてここでファンたちは、オビ=ワンの腕の中で息絶えたクワイ=ガンの肉体が消失しないという謎に直面することになります。旧三部作ではオビ=ワンもヨーダも死とともに肉体が消え失せ、以後は霊体という形でルークの前に姿を現しました。果たしてジェダイは死ねば消えるものではなかったのか、だとすれば旧三部作で両者が消えたのは何故なのか? 物語にはまた一つ謎が追加されることになります。

大団円と謎ふたたび

アミダラ、アナキン、グンガンたち各キャラクターの活躍によって連合の軍勢は崩壊。総督ガンレイたちも捕縛され、戦いはナブー側の大勝利に終わります。ナブーの解放と、長く敵対的関係にあったグンガン族との融和を祝福する華々しいパレードとともに物語は終わりを告げ、ジェダイ評議会は議論の末に結局アナキンの受け入れを許可。正式に独立したオビ=ワンの弟子としてジェダイとしての道を歩みだすこととなったのでした。まさに大団円な幕切れですが、「新たなる希望」と同じくその陰には多くの謎が提示されたままになっています。

共和国トップの座に就いたパルパティーンは皇帝の座を手に入れるためにどのような術策を用いるのか? そして予想外に弟子を失った彼の眼に未曽有の潜在能力を秘めた少年アナキンはどう映っているのか? そもそもなぜジェダイ評議会は一度拒否したアナキンを受け入れたのか? アナキンが思いを寄せる母シミの安否と憧れの女性パドメとの関係はどう進展するのか? そしてなぜクワイ=ガンは死んでも肉体が消失しなかったのか? これらの謎は続くエピソードでさらに掘り下げられて行くのです。

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