壮大な世界観と普遍性の高いテーマを誇るSWは、同時に手に汗握るアクション超大作でもあります。ジェダイやシスは言うに及ばず、トルーパーやドロイドなど数多のキャラクターたちが披露する迫力あるバトル・アクション要素はSWを小説化やコミック化、そしてゲーム化するのに格好の苗床たらしめており、それらの作品群から派生した多くの設定や物語の味わい深さは、苗床そのものの地味を豊かにする肥料ともなって行ったのでした。
そんなSWの「アクション部門」の一角を占めるのは間違いなく銀河を股に掛ける無頼の賞金稼ぎたちであり、彼らの代表格と呼ぶべきは何と言ってもボバ・フェットでしょう。新三部作で明らかにされた彼のルーツはジャンゴ・フェットという凄腕賞金稼ぎのクローンというものであり、レジェンズ史においては更にそのルーツを伝説の戦士集団マンダロリアンの末裔にまで遡ります。本作はSW屈指の人気キャラの「源流」ジャンゴ・フェットを主人公としたアクションゲームで終わらないことはもちろん、新三部作に突如現れた彼とSW物語との関係性を補完すると同時に、提携コミック作品『Jango Fett : Open seasons』と連携することでSW物語における彼の立ち位置を余すことなく解き明かして行く重要作品でもあるのです。
物語背景:「バンド・ゴラ」の脅威
ときはナブーの戦いの直後、危険な武装カルト集団「バンド・ゴラ」はその残忍さと暴力性によって銀河の人々を恐怖に陥れていました。邪悪な暗黒卿ダース・シディアスすらも、そのあまりにも無軌道な攻撃性を自らの計画に対する不確定因子として危険視するに至り、新たなる弟子となったダース・ティラナスことドゥークー伯爵にその壊滅を命じるのでした。
ドゥークー伯爵はこの件に自ら乗り出す代わりに、かねてからの懸案であったクローン軍団創設のための遺伝子ホスト選定も兼ねた「トライアル」を実施することを思い立ちます。彼が白羽の矢を立てたのは伝説の戦士集団の生き残りにして最強の賞金稼ぎの名をほしいままにするあるマンダロリアンだったのでした・・・。
アクションゲームとしてもっとも印象的なのは画面せましと活躍するジャンゴ・フェットの雄姿であることは当然なのですが、本作をSW物語の補完として眺めた時にもっとも重要な存在感を放っているのは本作の「ラスボス」となる組織バンド・ゴラでしょう。『クローンの攻撃』で言及された「ボグデンの月」こと衛星コルマの荒地に端を発する小規模なカルト集団に過ぎなかった彼らは長い年月をかけてその勢力を伸長させ、ついにはジェダイと渡り合い彼らを捕縛してしまうほどの危険な集団へと変貌して行きます。
しかしこの一事が彼らの行く末を大きく変えて行きます。凄惨な拷問によって精神に変調をきたしたパダワン、コマリ・ヴォサは暗黒面に転落。復讐と殺戮に憑りつかれた彼女はバンド・ゴラの指導者たちを虐殺した挙げ句自らその後釜に収まり、狂気のジェダイによる指導のもとでバンド・ゴラは更なる凶暴性を獲得していったのでした。
彼女は誰あろうドゥークーのパダワンであり、本作の前日譚『Jango Fett : Open seasons』でもその姿を垣間見せています。後の作品『ダース・プレイガス』ではその自信過剰と攻撃性の高さを師によって危惧されていたことが明らかになり、拷問による精神の変調以前にすでに暗黒面に至り得る危険性を内包していたことが窺えます。
またヴォサは二振りの赤い光刃を持つライトセーバーを駆使する非常に攻撃的なフォームの使い手として描かれます。多くのファンはその姿から後のドゥークーの懐刀アサージ・ヴェントレスを連想しますが、実際彼女のライトセーバーは本作で展開する事件の後、ドゥークーの手によってアサージへと引き継がれて行くのです。
というわけで暗黒卿の恐るべき陰謀をきっかけとして再び銀河史の舞台に返り咲いたジャンゴ・フェットはこのような敵を相手として多くの冒険を繰り広げて行くことになるのでした。
第1章:観念しな、ミーコ!
最初の冒険の舞台となるのは銀河外縁部に浮かぶ巨大な宇宙基地〈アウトランド・ステーション〉。冷徹なジャンゴ・フェットがトイダリアンの協力者ロザッタのサポートのもと、当地に紛れ込んだ賞金首ミーコを追います。彼は凶暴な猛獣を死ぬまで戦わせる競技「ピットファイト」における不正行為をはじめとして多くの犯罪に手を染めているお尋ね者であり、腕っぷしは弱くとも悪知恵に長けた油断のならない悪党であったのでした・・・。
というわけで本作の「チュートリアル」となるのは『クローンの攻撃』を彷彿させる闘技場での巨獣ボルヘクとの戦い。ミーコによって遠隔操作されたボルヘクは規格外の凶暴性を持ち、不意を突かれたジャンゴはジェットパックを破損。「お約束」に忠実な演出を前にした多くのファンたちはこみ上げる苦笑いとともに、自らジャンゴ・フェットとなってこの恐るべき巨獣と戦ったことでしょう。
ストーリー自体は物語と絡む所は少なく、飽くまでもゲームのチュートリアルとジャンゴ・フェットのキャラクター紹介といった趣きの強いステージとなります。
第2章:上流階級の実態
協力者ロザッタを通じていよいよ物語は動き始めます。彼女が持ち込んだメッセージホログラムから現れた人物はティラナスと名乗り、バンド・ゴラの首領コマリ・ヴォサをターゲットに指名。その賞金はなんと500万クレジットという途方もないものでした。その存在の多くを謎に包まれながらもSW銀河の麻薬デス・スティック売買に関わっていることだけは確かなバンド・ゴラの情報を求めるジャンゴは、デス・スティックの売人である賞金首を追ってコルサントへと向かい、そこで麻薬売買に関する上流階級の闇に直面することになるのでした・・・。
本ストーリーで印象的なのはジャンゴが唯一信頼を寄せる協力者ロザッタとの関係性でしょう。『Open seasons』で語られる彼の来歴も承知しているらしい彼女はジャンゴの良きパートナーであり、彼の身を案じるあまり時には口うるさい忠告も辞さないという「気の良いおばちゃん」ぶりを発揮しており、愚物難物で充ちた暗黒街の良心とも言うべき存在感を放っています。ジャンゴを優秀な賞金稼ぎである以上に人間として高く評価している節があり、ことあるごとに彼にふさわしい真っ当な生活を目指すようアドバイスをしてはジャンゴに煩がられています。しかし彼女のこの”煩わしい”気遣いが、もしかすると後の彼の人生に影響を与えていたとも感じられるのです。
そして本ストーリーにおいて、もう一人の主人公もその活動を開始します。『Open seasons』で裏切りの罪によって追放され、奇しくもジャンゴと同じ賞金稼ぎの道を歩んでいたモントロスもまた、ドゥークーによってクローン遺伝子ホストとして白羽の矢を立てられていたのでした。マンダロリアンの継承者と裏切者、正反対の道を選びながら奇しくも同じ道を歩むこととなっていた二人は、暗黒卿の計らいによって再び相まみえる時を迎えようとしていました・・・。
第3章:アステロイド・プリズン
前回の冒険で麻薬の売人を追ううちに麻薬密売に関わることで私腹を肥やす腐敗議員の存在にまでたどり着いたジャンゴは、バンド・ゴラに深く関わる存在として密輸組織のボスである惑星マラステアの犯罪王セボルトの存在に行き着きます。狡猾で用心深いことで知られる犯罪王に怪しまれずコンタクトを取るため、ジャンゴはかつて司法取引のために組織を裏切ったことで彼から賞金を懸けられているもと売人ベンディックス・ファストを「手土産」とすることにしたのでした・・・。
多くのファンサービスに充ちている本作の中でも、本エピソードのそれは群を抜いています。フェット父子の代名詞とも言える愛機〈スレーヴI〉や『クローンの攻撃』でタッグを組んでいた同業者ザム・ウェセルとの出会いは多くのファンにとって感慨深い展開であり、また小惑星帯に囲まれた監獄惑星へと侵入する手口も、ファンならばニヤリとすること間違いなしの方法が取られています。
そういえば舞台となる惑星ウーヴォⅣも1999年に発売されたレースゲーム『スター・ウォーズ エピソードⅠ レーサー』のコースの一つとして登場しており、難物ぞろいのコースひしめく作品世界にふさわしいプレイヤー泣かせの難コースともなっt…閑話休題。
ところでフェット一族を代表する愛機をめぐる逸話が展開する本エピソードですが、彼が〈スレーヴⅠ〉を入手するまでに所有していたガンシップ〈ジャスターズ・レガシー〉のデザインは、後にドラマシリーズ『マンダロリアン』の主人公ディン・ジャリンの愛機〈レイザー・クレスト〉に影響を与えていることは明らかです。レジェンズ作品から多くのリソースを得て作り上げられたカノン作品ならではの符合と言えるでしょう。閑話休d…
第4章:張り詰めた関係
「手土産」を気に入ったセボルトと首尾よくコンタクトを取ることに成功したジャンゴは共同歩調を取ることとなったザムに彼との折衝を任せ、自らはセボルトの根拠地付近のジャングル地帯に降り立ち密かに手がかりを探索することとなります。しかし最終的に彼らの目的を見抜いたセボルト一味との対決を余儀なくされ、そこでジャンゴは違法に調合されたデス・スティックで凶暴化したバンド・ゴラ構成員、そして宿敵モントロスとの戦いを潜り抜けます。奮闘虚しく有力な手掛かりを得ることができなかったジャンゴたちですが、それでも彼らの背後に銀河外縁部の諸悪の根源とも言うべきハット族の存在を嗅ぎつけたのでした・・・。
本エピソードではいよいよバンド・ゴラの構成員たちが登場。強力な薬物作用でゾンビのように心身を朽ち果てさせた彼らはただひたすら殺戮に生きるだけのおぞましい姿をさらし、バンド・ゴラの異常性をプレイヤーに焼き付けます。
第5章:ハットの依頼
ハット族とバンド・ゴラの繋がり突き止めたものの、それ以外の手がかりは皆無でした。ハット族の二大巨頭ジャバとガーデュラのどちらが関わっているかも判然としない現状を打破するため、両者はそれぞれ二手に分かれての「偵察」を決意するのでした。ジャバへの謁見を叶えるため賞金首ロンゴを捕えたジャンゴ。しかしジャバはバンド・ゴラを嫌っており、ガーデュラこそが協力者であるという情報を得ます。直後ガーデュラのもとに赴いていたザムと交信するジャンゴは、不意打ちを食らって倒れる彼女の悲鳴を聞くのでした・・・。
ファンにはお馴染みのタトゥイーンが舞台となるエピソード。タスケン・レイダーとその猟犬マッシフ、サルラックなどお馴染みのキャラクターやクリーチャーを相手に戦い、最後にはクレイト・ドラゴンとのデスマッチまで強いられるという「サービス」ぶりです。そして悪辣なガーデュラを相手に凄惨な報復を実行するジャンゴですが、ハット族はまさに「煮ても焼いても食えない」ことを実証するだけに終わったのでした。この件もまた、かつて『ジェダイ・プリンス』シリーズでサルラックに呑み込まれたジャバの伯父ダーガ・ザ・ハットのエピソードを彷彿させるサービス的展開と受け取ることもできるでしょう。
第6章:ヴォサを追って
ついにバンド・ゴラの本拠地に関する暗号データを入手したジャンゴ。しかしその解析を依頼したロザッタは〈アウトランド・ステーション〉を強襲したモントロスによって捕らえられ、過酷な尋問の挙げ句駆け付けたジャンゴの腕の中で息絶えます。最後まで彼の身を案じ続けた彼女の死に心痛めたジャンゴは自分からまたしても大切な存在を奪った男への復讐心を新たにバンド・ゴラの本拠地へと向かったのでした・・・。
ジャンゴの冒険、そして復讐が結末を迎える最終章であり、過去の清算と新たなる道行きが提示されるエピソードとなります。このステージでジャンゴはかつて自分から父にも等しい恩人ジャスターを奪い、今また母のように彼を気遣い続けたロザッタを奪ったモントロスをマンダロア流の決闘の末に降し、かつて自分の仲間たちを奪ったジェダイの一人にも復讐を遂げることになるのです。
落伍した元パダワンとはいえ二刀流のライトセーバーを操り暗黒面の攻撃性を剥き出しに襲い掛かるヴォサを仕留めたジャンゴの存在はやはり驚異的と言うしかなく、すべてを陰から見守っていたドゥークー伯爵は彼らの野望において重要極まりないパズルの1ピースとしてジャンゴを迎え入れることを決意するのでした。
ジャンゴ・フェットの「我らの道」
ジャンゴがドゥークー伯爵の申し出を請けた理由はなんだったのでしょう。それが莫大な額の報酬ではなかったことは、すでに彼が過去の仕事で相当の資産を築いているというロザッタとの会話で明らかであり、また彼が飽くなき富の追求を志す人間ではないことも、これまでの物語から明らかです。
彼の人生を知れば知るほど『マンダロリアン』の主人公ディン・ジャリンとの相似に思いを馳せざるを得ません。ともに寄る辺なき孤児だった自分に確固としたアイデンティティを与えてくれた共同体への帰属心を強く持ち、その瓦解に心痛めながらたった一人でもマンダロリアンとしての矜持を生き方の指針とし、片やグローグー片やボバとの関係に象徴されるように完全に非情になり切ることなくどこかに「情」と「高潔」を滲ませる深い人間性を失わない男。
ディンがかつての仲間との合流にともないマンダロリアンの「新国家建国」に尽力した一方、合流すべき仲間すらないジャンゴはクローン技術という歪な手段を用いて「民族の再生」を志したのではないでしょうか。
I’m just simple man trying to make my way in the univers.(俺は宇宙に足跡を残したいだけの、単純な男だ)
彼が真に宇宙に残したかったのは彼自身ではなく、かつて彼が命を捧げたマンダロリアンの足跡だったのかもしれません。
Always a pleasure to meet a Jedi.(ジェダイのためならいつだって)
そして彼の血を分けたクローン軍団が大きな役割を果たしたクローン戦争の勃発とその泥沼化に伴うジェダイの没落と瓦解は、家族の仇に復讐し恩人の仇に復讐したジャンゴが未だその手を掛けられずにいた、民族の仇へのこれ以上ない復讐となったのではないでしょうか。さらに言うならば、シスとマンダロリアンの末裔によって引き起こされた共和国の終焉とジェダイの滅亡は、かつて彼らの祖先が引き起こしたシス大戦の野望の成就でもあり、クローン遺伝子ホスト受諾によってジャンゴは意図せず祖先の仇をも討ったとまで言えるのではないでしょうか。
情愛と高潔、そして激烈な復讐心。ジャンゴ・フェットはSWの登場人物のなかで一、二を争うほどの激しい情念の持ち主であり、あり余るほどのライトサイドどダークサイドを持ち合わせた人物と言えるでしょう。彼の飽くなき復讐心は彼自身の死によって、皮肉にも誰より愛した「息子」ボバをも復讐の修羅道へと引きずり込んで行ったのでした・・・。
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