※本記事は作品内容を吟味・考察を行うことを目的としているため、多くのネタバレ的内容を含んでいます。
面白くない? 当たり前です。
SWシリーズ最終作となる本作は旧三部作中もっとも評価が低い作品として知られています。様々な理由が挙げられますが、その理由としてEP4公開以来観客の度肝を抜いた斬新な世界観への衝撃はもはやなく、EP5のようなハラハラドキドキの展開も希薄。そして魅力的な新キャラも登場せず、かといって前作で登場した新キャラたちもパッとしない・・・。
なんだか悪口の羅列のようになってしまいましたが、本作の本質はそこにはありません。本作はそれらの欠点を補って余りあるほど、SWを締めくくるに必要不可欠なテーマに充ちた作品なのです。つまり本作は「映画」としてではなく「SW最終章」として観るべき作品なのです。前作が初見者やライトファンも楽しめるカフェオレであるとしたら本作はエスプレッソに砂糖も入れずに飲むようなもの。よほど好きでなくては苦くて飲めたものではないのです。
閑話休題、まずは恒例の事前情報に触れておきましょう。
- ルークはハンを救うため故郷タトゥイーンに帰還したこと
- 帝国は恐るべき〈デス・スター〉の再建を企てていること
- それが実現すれば反乱軍は再び窮地に陥ること
こういった状況で、物語は終わりに向かって歩みを進めて行くことになります。とはいえ本作の根幹を成すのは何といってもルークとベイダーの因縁に代表されるスカイウォーカー一族をめぐるファミリーヒストリーの結末なのです。
ワールドヒストリー総ざらい1:ハン・ソロ救出作戦!
というわけで本作の魅力の大半を占めるファミリーヒストリーを講釈する前に、言い方は悪いですがワールドヒストリーの方を片付けてしまいたく思います。そのポイントはもちろん長きに渡る帝国と反乱軍の最終決戦ですが、その前に前作で行方不明となったハン・ソロ救出の顛末が物語の序盤を飾ります。
ハンはかつてタトゥイーン一帯を取り仕切るギャングのボス、ジャバ・ザ・ハットの下で密輸を行っていましたが、やむを得ない事情によって託された荷を廃棄したことで信頼を失い、以降賞金首として追い回される日々を強いられていたのでした。
そしてボバによって捕縛されたハンはなんと冷凍されたままの姿でジャバの宮殿の飾りとして陳列されてしまうのでした。巨大なナメクジのような異形な風貌のジャバはハット族と呼ばれる悪名高い種族で、その抜け目なさと狡猾さでジェダイとして成長したルークを陥れ、密かにジャバ宮殿に潜入していたレイアをも捕らえてしまいます。
しかしルークの策略とR2の機転によって立場を逆転されたジャバは戦いの末に敗退。多くの部下を巻き添えに命を失うこととなります。そして一連のどさくさで前作において鮮烈な印象を残したボバもまた死を迎えます。
本プロットは重要キャラクターの安否に関わる展開、そして鈍重な外見とは裏腹に肝の据わった悪の親玉ぶりを見せつけたジャバは本作以降人気を博し、様々なスピンオフ作品に登場・言及される常連キャラクターとなりますが、それにしてもイマイチ本編とは絡まないストーリー、かつジェダイとして颯爽と登場した割には間抜けな場面の多かったルーク、これまた間抜け極まりない展開で死を迎えたボバ、誰も求めていないであろうレイアのビキニ姿等等々・・・。物語はのっけから早速肩透かし感を醸し出すのでした。
ワールドヒストリー総ざらい2:最終決戦!
反乱軍を震撼させた〈デス・スター〉復活の報。しかしスパイたちはまたしてもその設計図を入手し、またしてもその攻略方法を見つけ出したのです。しかも今回は工事の督促という名目で銀河皇帝その人が駐留している。ここで〈デス・スター〉を破壊できれば帝国の戦力を削ぐどころかその支配者までも葬ることができるのです。
千載一遇のチャンスにすべてを賭ける思いの反乱軍指導者たちは〈デス・スター〉に対して地上・宇宙の二方面から最終決戦を仕掛けるのでした。ルークやレイア、ハンたちは地上部隊を率いて森の月と呼ばれる衛星エンドアに降り立ち、その軌道上で建造中の〈デス・スター〉の守りを無力化すべく工作を開始しますが、そこには思わぬ展開が待ち受けているのでした。
そしてハンから〈ファルコン〉を引き継いだランドたち宇宙艦隊にもまた、思わぬ災厄が待ち受けていました。果たして反乱軍は度重なる苦難を潜り抜けて勝利をつかむことができるのか? というのが大まかな流れとなります。
物語を締めくくるに相応しい壮大な展開、迫力ある映像で描かれる宇宙決戦が観客を魅了するはずのプロットですが、物語を大きく左右する存在となる新たなキャラクター、イウォーク族の存在が物議を醸します。レイアが出会ったことで反乱軍と協力体制を築き、絶体絶命の危機に陥った地上部隊の救世主となるイウォーク族ですが、その見た目は完全なる「森のくまさん」。テディベアを彷彿させるかわいらしいキャラたちが原始的な石斧や石槍、ハンググライダーや投石で帝国軍をやっつける姿は非常にコメディチックなものであり、緊迫のクライマックスを期待したファンの心を大きく萎えさせました。
そしてSWを代表する宇宙船であり、ハン・ソロの愛機として知られる〈ミレニアム・ファルコン〉を操縦するのは元の持ち主という設定はあるもののファンには比較的馴染みの薄いランド。全体に行き渡る肩透かし感はただ事ではありません。
とはいえ多くの人々の活躍で見事〈第二デス・スター〉は完成を見る前に再び消滅。これにより圧制者銀河帝国はその支配体制を大きく破綻させることとなり、物語は反乱軍の大勝利として幕を閉じます。
本題1:ルークの決断〈偉大なる先達との別れ〉
さて、様々な意見はありましょうが以上のストーリーは私に大した印象を与えはしませんでした。やはり本作はスカイウォーカー・サーガ最終章として、ファミリーヒストリーに注意を全振りして観るべきものと思います。
ハンを救出したルークは再びダゴバに赴き修行の続きを希望しますが、病を得たヨーダはすでに死の床にありました。すでに修行は終えている、あとはベイダーとの対決に勝利するのみと語るヨーダにルークは胸中の疑問を打ち明けます。ダース・ベイダーは本当に父であるのか、と。
ヨーダの答えはイエス。ということはオビ=ワンもヨーダもそろってルークに真実を教えず、息子に父を殺させようとしていたということになるのです。ヨーダ亡きあと姿を現したオビ=ワンは、そのことを難詰するルークに言います。すべては見方の問題だ、と。
つまり「フォースの暗黒面」に憑りつかれたアナキンはベイダーという悪の化身になり果てた。そういう意味でアナキンはベイダーに「裏切られ」「殺された」のだ、と。屁理屈も良いところに聞こえますが、ここにジェダイの人間観が現われています。人間性を、ひいては彼らが至高のものとするフォースすらも善と悪、光と闇のふたつに峻別し、「正しい道」を踏み外した者、「光」を失った者は二度と再び立ち直ることはできないと決めつける非人間的なまでの厳格さ。オビ=ワンらジェダイたちは飽くまでベイダーを邪悪な存在と断定し、その抹殺を訴えるのです。
しかしルークは違います。どれほど邪悪に歪んでしまったとしても父のなかにはアナキン・スカイウォーカーとしての、人間としての心が残っているはずだと主張し、父との対話を、ひいては父を「救う」可能性を信じるのです。
ここに同じくジェダイとしての道を志しながら決定的に食い違う両者の姿勢が明らかになります。いえ、ジェダイという架空の存在を超えて、人間というものへの対照的な見方の対立が提示されるのです。果たして道を踏み外した者は、それによって許しがたい行為に走った者は、それでも救われうるのか? ルークとジェダイたちとの間に横たわる認識の違いは、そっくりそのまま私たちの胸に問いかけられる永遠の謎と同じものなのです。
偉大なる先達たちの言葉を胸に、それでもルークは我が道を歩む決意をします。つまり「暗黒卿ダース・ベイダーを倒す」のではなく「父アナキン・スカイウォーカーを救う」ことを。
このプロットでは更にもう一つの秘密が明らかになります。それはルークとレイアの関係。初めて見た時からレイアに不思議な執着を感じていたルークですがそれもそのはず、二人は双子の兄妹であったのです。かつて帝国とベイダーの追撃から逃れるため、産まれて間もないふたりを別々に隠し、以後それを本人たちにも明かすことがなかったのです。これらの経緯を通じてジェダイの人間性への偏狭さ、無理解ぶりが垣間見えては来ないでしょうか? いったい彼らは人間という存在をどのように考え感じているのでしょう? 私はそのあたりの事情こそが続く新三部作のカギを握る要素であり、最大の見どころとしてフィーチャーすべき箇所と考えています。
本題2:「オビ=ワンもかつて同じことを言った・・・」〈ベイダーの葛藤〉
ルークはベイダーとの再会を果たすために帝国軍に投降し、自らベイダーのもとに連行されます。もはやジェダイとして成長したルークを皇帝とともに闇に引き込もうとする「父」に対してルークは語ります。あなたの心には善と悪が葛藤しているのではないか? だから息子である自分を殺せなかったのではないか? 過去の行き掛かりや憎しみを捨てて自分の思いに忠実になるべきだ。しかしベイダーの答えは次の一言に集約されます。
いまさらなにをしても手遅れだ。
ここで一貫して悪の象徴を演じてきたベイダーの心境の変化が窺えます。前作においてルークに自分が父であると明かしたベイダーはこう続けます。暗黒面の力は素晴らしい。ともに皇帝を倒し、父と子で銀河を支配しようではないか、と。暗黒面の力に魅了され、進んで悪の道を歩んでいるかに見えたベイダーの本心とも思える断片がこのシーンでは語られるのです。
お前たちは暗黒面の力の強大さを知らん。
皇帝に逆らうことはできぬ。
ベイダーを暗黒面に縛り付けているものの正体、それは彼自身の欲望や邪悪さではなく師である皇帝への「恐怖」と「諦め」であることがこのシーンからは感じ取れます。本編中皇帝とルークから二度にわたって「心の迷い」を指摘されたベイダーはその二度とも「葛藤などない」と言い切りますが、その実心の中に激しい葛藤を潜ませていることは明らかです。
本題3:「力」も「命」も捨てて・・・〈ジェダイの誕生〉
ベイダーによって〈デス・スター〉の一室に君臨する皇帝の前に引き据えられたルークは、あらん限りの誘惑を受けます。強い決心とともにそれらを跳ね返すルークはしかし、意外な事実に打ちのめされます。それは物語を動かしてきた情報のすべてが罠であったということ。
〈デス・スター〉の設計図が都合よく手に入ったことも、最高権力者の皇帝が直々にそこにいることも、防衛システムのカギを握るエンドアにレイアたちが首尾よく降り立てたのも、すべては反乱軍の主力を一か所におびき出した上で殲滅するための罠であったのです。
実際エンドアの地上部隊も、〈デス・スター〉攻撃に向けて待機していた艦隊も、ともに潜んでいた帝国の大部隊による強襲を受けて危機的状況に陥ってしまいます。これこそが「強大な力」や「支配欲」には靡かぬルーク最大の弱点が「仲間への思い」であることを見抜いた皇帝の術策でした。
危機に陥った仲間たちを救うにはここで丸腰の皇帝を斬り殺す他はない。もちろん焦りや怒りに身を任せて無抵抗の相手を殺すことは明確にジェダイとしての道に反するものです。しかし大きく心を乱したルークは堪らず皇帝を斬り殺さんとし、すんでのところでベイダーがそれを阻止。老獪な皇帝はついにルークを暗黒面の手前まで追い込み、父と子を殺し合わせることに成功したのでした。
ベイダーに圧倒されながらもどうにか平静を取り戻しつつあるルークは「父」との対話を試みるものの心を固く閉ざしたベイダーは聞く耳を持たず、逆に心の乱れを突かれて妹の存在を知られてしまったルークは、ついに越えてはならぬ一線を越えてしまうことになります。
「お前が暗黒面に入るの拒むなら、代わりに彼女を招くとしよう」
業を煮やしたベイダーが発した一言がルークの自制心を吹き飛ばしてしまいます。かつて多くの仲間を奪い、今また大切な妹まで奪おうとしているベイダーへの怒りを爆発させたルークは、激情に駆られてついに暗黒面に踏み出します。同じ暗黒面の力に憑りつかれたルークを前に、ベイダーは無力でした。たやすく打倒され、かつてのルークと同じく右手を斬り落とされ惨めに這いつくばるかつての悪の象徴をよそに、皇帝の高笑いが響きます。
「父を殺し、代わって余の弟子となれ」暗黒面に身を任せたルークを前に、皇帝はついにその本心を明かします。破壊と支配を至上とするシスには強さこそがすべて。かつての弟子であろうと腹心であろうと、敗北者や用済みの者は排除するのみ。冷酷な本質をむき出しにする皇帝をよそにルークは、ともに機械と化した腕を持つ自分と父との符合に戦慄します。
目の前で惨めに這いつくばるのはかつて暗黒面に憑りつかれた父の成れの果てであり、やがて暗黒面に足を踏み入れた自分を待つ運命でもある・・・。暗黒面に生きる虚しさを悟ったルークは、彼が持つ唯一の武器であり「ジェダイの命」ともされるライトセーバーを捨て、持てる「力」のすべてを放棄して皇帝に宣言します。
僕はジェダイだ。かつて父がそうであったように。
皇帝の目論見はもろくも崩れ去り、暗黒面の誘惑を拒絶しきったルークは真にジェダイとしての成長を遂げたのでした。
本題4:お前は正しかった・・・〈ジェダイの帰還〉
予想外の言葉に驚愕した皇帝は次いで怒りを爆発させます。なにがあろうと暗黒面に屈しないというならは待つべき運命はただ一つ・・・。皇帝はフォースを稲妻という形で攻撃に用い、無防備なルークの身体を無慈悲に焼き尽くそうとします。未だ皇帝には遠く及ばぬ力しか持たないルークはひとたまりもなく餌食となり、なんの抵抗もできないまま激しい苦痛にのたうち回ることとなります。
憎きジェダイがもがき苦しむ姿に嗜虐心を高ぶらせる皇帝はしかし、すぐ身近で起こりつつある重大な変化に気づきませんでした。自らが頼みとする「力」を挫かれ完全に打ちのめされたベイダーは、息子ルークがあげる悲痛なうめきと助けを求める絶叫によって内なるアナキン・スカイウォーカーの心を目覚めさせ、油断しきっている皇帝を背後から襲ったのでした。
自身の命と引き換えにして皇帝を葬ったアナキンはルークの腕の中で息絶えることになります。ここにタイトルとなる「ジェダイの帰還」が実現するのです。長く闇に囚われていたジェダイは光のもとに帰還し、すべての罪を償ってフォースのもとに帰還し、父の最期を見届けたジェダイは仲間たちのもとへ帰還するのでした。
そして「アナキン・スカイウォーカーの帰還」をめぐるこの展開は、偉大なる先人たちの言葉に背を向けたルークの決断の正しさを証明するものでした。
お前は正しかった。(You were right about me.)
アナキンが発した最期の言葉は、道を踏み外した者に対するルークの判断を、なにより自分を信じ救い出してくれた息子に対する感謝を表明する言葉として強く美しい印象を残します。
余談となりますが、このあとに続く台詞は吹き替え版では「娘にも伝えてくれ、愛していたと」という月並みなものですが、原文ではTell your sisuter, you were right.というものであり、紛れもない父であるにも関わらずレイアを「娘」と呼べない罪悪感に満ちた感情、そしてダース・ベイダーとしての所業すべてに対する贖罪の意を含んだ哀しい台詞回しとなっています。
本題5:「スター・ウォーズ」を統べるもの
永遠の異文化体験、他者との共生、様々なテーマを持つと思われるSWですが、本作においてまた一つ新たなるテーマが提示されるように思います。それは、SWとは「愛をめぐる物語」でもあるということ。
思慮深いとされるジェダイたちからも更生は不可能と断罪された許し難い悪人に奇跡の更生を遂げさせたもの、それは息子に対する愛情でした。「愛こそは人を救う至高の感情である」と言いたいところですが、ことはそう単純ではないようです。このテーマはつづく新三部作でさらに深彫りされて行くことになります。
一度暗い道に入り込んだが最後、永遠にお前の運命を決してしまう。
本作で垣間見えたジェダイの非人間的性向。それが稀代の悪役ダース・ベイダーの誕生に実に密接に関係してくると考えます。
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