※本記事は作品内容を吟味・考察を行うことを目的としているため、多くのネタバレ的内容を含んでいます。
もっとも人気ある作品
本作は大団円のうちに幕を閉じた前作「新たなる希望」のその後を物語りますが、おそらく本作がSWシリーズの中でも一、二を争う人気作であるとされています。その理由は以下の通り。
- 緊張感あるストーリー
- ラブロマンスという新要素の追加
- 魅力的な新キャラたち
- クリフハンガーなラスト
詳細を語る前にSWのお家芸であるオープニングロールに記される最低限の事前情報を見ておきましょう。
- 帝国が反乱軍を追い詰めていること
- 反乱軍はかろうじて辺境の惑星に秘密基地を設営したこと
- ダース・ベイダーは強い潜在能力を秘めたルークを捕えようと銀河中を見張っていること
これらの情報だけを携えて、観客はまたも未知の世界に旅立ちます。
敗北に始まり敗北に終わるヒーローたち
物語の序盤を象徴するのは何といっても「ホスの戦い」の名で知られる激戦です。氷に閉ざされた未開の惑星ホスに秘密基地を築いたものの帝国に存在を知られ、撃退は不可能までもせめて人々や物資を逃亡させる時間を稼ぐために背水の陣を敷いたルーク率いる戦闘機部隊ローグ中隊は、帝国が繰り出す巨大な戦闘マシンAT-ATを始めとする大規模な侵略軍に絶望的な戦いを繰り広げます。
圧倒的な戦力差にさすがのルークも敗北、前作で勝利に沸いた反乱軍は物語が始まった早々苦難に満ちた逃避行を余儀なくされます。実際本作のワールドヒストリーに新たな展開はなく、反乱軍はなんの戦果も得られぬまま終始一貫して「帝国の逆襲」が描かれることになるのです。
主人公たちを待ち受けている冒険も苦難に次ぐ苦難。それらを通じて大きく成長や変化を遂げるとはいえ、決して痛快な反撃や爽快なラストは存在しません。逆に彼らを打ちのめすことになるある展開が、観客たちを大きく驚かすことになるのです。
真逆のふたり
そして本作を象徴するのが男女の恋愛をめぐるロマンスです。偶然の積み重ねによって反乱軍の指導者レイアはハンの〈ミレニアム・ファルコン〉に収容されての逃亡を余儀なくされます。しかし帝国の追撃は熾烈を極め、本隊との合流かなわず長きに渡る逃避行を強いられることとなった二人は反発を繰り返しながらやがて愛情を芽生えさせることになります。
物心ついた時から指導者としての教育を施されたレイアは真面目で責任感が強く、人生を一匹狼のアウトローとして過ごしたハンは不真面目で無責任。何もかもが真逆のふたりはことあるごとに対立しては、しかし目の前の危機を乗り切るために協力し、いつの間にか仲間意識や友情を超えた感情をその心に宿すという王道ロマンスそのものの行程は多くのファンの心をつかみ、それはラストに待ち受ける悲劇によってさらに掻き立てられることとなります。
新キャラその1:ランド・カルリジアン〈不遇の裏切者〉
悲劇の発端となるのは、帝国に追われるハンが逃亡先として思いついた旧友の存在でした。それがランド・カルリジアン。かつてハンと同じくならず者の一人でしたが、今では男爵として雲の惑星べスピンにある空中都市クラウドシティの統治者にまで成り上がったというやり手の男です。決して信頼できる相手ではないが帝国を憎んでいることでは同じのランドならば匿ってくれるだろう・・・。しかしハンの見通しは甘いものと言わざるを得ませんでした。
なぜなら既にハンたちの動向をつかんでいた帝国は一足先にクラウドシティに手を伸ばし、帝国の許可を得ずにビジネスを繰り広げていたランドの弱みを突いて裏切りを命じていたからです。ランドは旧友に対する義理と統治下にある人々の安全を天秤にかけて苦悩した挙句、友を裏切る道を選ばざるを得ないのでした。
自ら罠に飛び込む形でベイダー率いる帝国軍に逮捕されたハンたちは不可思議な拷問にかけられます。なぜなら何を尋問されるわけでもない、単に苦痛を与えられるだけの拷問であったからですが、そこにはベイダーによるある狙いがあったのでした。
新キャラその2:ヨーダ〈ジェダイの長老〉
物語冒頭でルークは亡きオビ=ワンの姿を目にします。「惑星ダゴバに赴きジェダイの長老ヨーダの指導を受けろ」それだけを言い残して消え去ったオビ=ワンの言葉を実行すべくルークはホスの戦いのあといったん戦線を離れ、未知の惑星ダゴバへと向かうことになります。ジェダイマスターとも呼ばれる長老はいったいどのような偉大な人物なのか・・・ルークと観客の期待を裏切るように、沼と霞が支配するダゴバにいたのは小さく醜い一匹のクリーチャーでした。
「偉大なジェダイマスター」を探し求めるルークを、クリーチャーは様々な手段で翻弄します。ついにたまりかねたルークが苛立ちを爆発させたとき、クリーチャーはその正体を明かします。このちっぽけな生き物こそがかつてすべてのジェダイの頂点に立っていた長老ヨーダだったのでした。
つづく修行でルークは、そして私たち観客は、ヨーダの言葉を通してフォースについてをさらに知ることとなります。そのベースとなるのは単なる「不思議な力」ではなく「すべてを繋ぐ力」としてのフォースの意義。すべての生命はフォースを発し、フォースによって繋がり、フォースのなかで光り輝く存在である。その中では見た目の美醜や貴賤といった外的なものは意味を持たない。前作でオビ=ワンによって提示されたフォースという概念、ジェダイの哲学が深掘りされて行きます。そしてフォースやジェダイという架空の概念を越えて、ヨーダの言葉は普遍的な価値を持つのです。
「何も違わない、違うのはお前の心だ」
「やってみるではない、やるのだ」
などは象徴的なセリフと言えるでしょう。ヨーダの指導を通して着実にジェダイとしての力を身に着けて行くルークですが、フォースを通じてある「ヴィジョン」を見ることになります。それはレイアやハンたちが苦しみ死んで行くという不吉なもの。
ヨーダによればそれはジェダイが時折フォースを通じて感じる未来の光景であり、しかしそれが確実に起こる未来か、はたまた変化する可能性のある未来かは誰にも分からないものであるとのことです。居てもたってもいられず救出に向かおうとするルークをヨーダは強く引き止めます。
ジェダイとしての能力を身に付けつつあるルークならば友の苦痛を察知し、救うために自らこちらにやってくる。これこそがベイダーがハンたちを不可解な拷問にかけた理由だったのでした。未だジェダイとして未熟なまま旅立てば敗北はおろかジェダイが最も避けるべき暗黒面に堕ちる危険すらある。三度現れたオビ=ワンとヨーダはルークを引き留めようとしますが、友を救いたい一心のルークは師の言葉を振り切って行ってしまいます。
「彼が最後の希望だった・・・」落胆するオビ=ワンにヨーダは言います。
「まだもう一人いる」
私たち観客はまたしても一つ謎を抱えることになるのでした。余談ですがルークを引き留める際にヨーダが言った「今行けば友を救えるかもしれん、しかしそのために彼らが戦ってきたものを失うだろう」という言葉はこれから22年もの後に公開された「エピソード2 クローンの攻撃」で思わぬ感慨を残す言葉となるのです。
新キャラその3:皇帝〈ベイダーをひざまずかせる男〉
前作で悪の象徴のような存在感を放っていたベイダーですが、本作では彼を凌ぐ悪の総帥が登場します。それが銀河帝国に君臨する皇帝であり、ベイダーが唯一ひざまずく存在です。思えば前作に登場したターキンもベイダーの上司的な立ち位置でしたが、皇帝はベイダーにとってシスの暗黒卿としての師にあたり、帝国のヒエラルキーを抜きにしても絶対に背くことは許されない従属関係にあります。
そもそも〈デス・スター〉を破壊した憎き敵の捜索を命じたのは皇帝であり、のちにかつての強敵アナキン・スカイウォーカーの息子であると判明したルーク抹殺を命じたのも同じく皇帝なのです。しかしベイダーはここで思わぬ提案をします。それほど強力な潜在能力があるのなら、いっそ自分たちの味方に引き入れてはどうか。もしそれを拒むようならば、そのときこそ自分がルークを始末する。皇帝はベイダーの提案を受け入れますが、この二人の関係は物語の全容が明らかになるにつれて複雑な味わいを観客に提供することになるのです。
それは一先ず措くとして、未熟とはいえジェダイとしての力を身に付けたルークをどうやって生け捕りにするのか。その方法としてベイダーが思いついた方法がハンとレイアを更なる苦境に追い込むこととなります。それはカーボンフリーズ(炭素冷凍)という技術を使って人体を生きながら冷凍保存することですが、被害者が必ずしも生存できるという保証はないため、冷酷なベイダーはもはや用済みとなったハンの体での人体実験を試みるのでした。
新キャラその4:ボバ・フェット〈SWの出世頭〉
しかし一人の男がそれに反対します。カネと引き換えにどんな汚れ仕事も引き受ける悪名高い賞金稼ぎであるボバ・フェットで、彼こそが優れた洞察力で帝国に先んじてハンたちの動向を突き止めた凄腕のハンターなのです。帝国からの報奨金を得たボバは、過去の不義理によって暗黒街のお尋ね者となっているハンを生け捕りにして賞金の二重取りを目論んでおり、ここで彼に死なれては困るわけです。
しかし万が一の際の損害賠償を条件に実験を敢行したベイダーによってハンは生きながら冷凍されるという憂き目に遭うことになります。悪辣な帝国のやり口に怒りを爆発させたランドの改心によって窮地を脱したレイアたちですがハンの救出には間に合わず、ボバによって何処とも知れぬ銀河の彼方へと連れ去られてしまいます。
ボバは登場時間やセリフこそ少ない「チョイ役」であるものの、洗練されたキャラクターデザイン、優秀なハンターとしての凄み、危機を前についに愛を打ち明け合ったハンとレイアの仲を裂く悪役として強い印象を残し、シリーズ完結後も根強いファンを獲得します。彼の存在は「レジェンズ」と称されるスピンオフ作品で多く言及され、続く新三部作にも重要な存在として登場、そしてついに単独のドラマシリーズまで製作されるという破格の大出世を遂げたキャラクターとなりました。
衝撃の告白 私がお前の・・・
閑話休題。驚くべき展開が観客の度肝を抜いた本作はとうとうクライマックスで最大の山場を迎えることとなります。まんまとおびき出されたルークはついにベイダーとの対決に臨みますが実力の差は如何ともし難く、激闘の果てに右手を斬り落されるという衝撃的な敗北を喫します。戦闘能力を奪われ、奈落の淵へと追い込まれ、もはや絶体絶命となってもなお抵抗をやめようとしないルークを支えているのは目の前の男こそ父の仇であり養父母の仇であり師の仇でもあるという思い。しかし強い決心とともにベイダーを難詰するルークは衝撃の告白に打ちのめされます。
お前の父は私だ
この一言にルークの決意は崩れ去り、観客は本作最大の衝撃を味わうことになります。フォースを通じて相手の心を探ることのできるルークはベイダーの言葉が嘘ではないことを察し、すべてを諦めて奈落の底へと身を投げてしまいます。間一髪のところをレイアたちの操縦する〈ファルコン〉に救われたもののルークが心身ともに負った傷はただ事ではありません。そして観客の困惑も。
THE・クリフハンガー
「クリフハンガー」とは主人公の絶体絶命や新展開を迎えた段階で物語を終了してしまう手法を指しますが、本作はまさにその見本のようなラストを迎えます。ベイダーは本当にルークの父なのか? ではオビ=ワンはなぜ嘘をついたのか? そしてハンはどうなるのか? 前作以上に多くの謎を残して幕を閉じた本作は否が応でも次作への期待を高め、ファンたちは次回作公開まで辛い待期期間を強いられることとなりました。
前述の人気要素に加えて前作とは打って変わってシリアスな雰囲気が支配する本作は、SWファンではない」人々からも高く評価される傾向にあります。前回に次いで本作を例えるならば、コーヒーが多少苦手な人でも飲めるカフェオレのようにマイルドな、ファン以外にも受け入れる余地のある、比較的万人受けする可能性のある作品と言えるでしょう。
果たして窮地に陥り打ちのめされた主人公たちはどうなるのか? 謎の答えは? 新たに登場したキャラクターたちの今後の活躍は? 様々な期待を残し、本作は幕を下ろします。
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