物語はスカイウォーカー一族の活躍を中心に描かれる映画本編を遡ること約36,000年の昔に遡ります。銀河に生きる人々のフォースとの出会い、そしてジェダイ騎士団の始まりを描く本作はレジェンズ史における最古の記録ではありますが、私たちの歴史がそうであるようにスター・ウォーズ世界の歴史もまたその「始原」を推し量ることはできません。つまり本作もまた、「知られているかぎり」もっとも古い物語でしかないのです。
すべては銀河各地に散らばる謎の建造物”Tho Yor”の目覚めに端を発します・・・。
あらすじ
雪に閉ざされた惑星アンドー・プライムの人々は、誰もその起源を知らぬ謎の巨大遺跡Tho Yorの秘密を解き明かすべく苦心を重ねていました。幾世紀にも渡る無慈悲な沈黙と相対していた人々はしかし、唐突に大きな歴史のうねりへと巻き込まれて行くことになります。長い眠りから覚め、銀河を旅する宇宙船へと一変したTho Yorは何も知らぬ彼らを乗せ、無限の宇宙へと飛び立っていったのでした。
それはアンドー・プライムでだけ起こったのではありません。キャッシーク、ダソミア、ライロスなどのちの歴史に名を刻む星々にも存在したTho Yorは八体に及び、それぞれの星の住民を連れて銀河中央部に位置する謎の惑星タイソンへとたどり着いたのでした。
多くの惑星から呼び寄せられた種々雑多な人々。彼らに共通していたのはただ一つ、銀河にあまねく存在する神秘の力、フォースを感じる能力を持つフォース・センシティブであるということだけでした。そして彼らが集結したタイソンは、他のどの場所も比較にならぬほどフォースに充ちた惑星だったのでした・・・。
ジェダイの故地タイソン
いつしか自分たちをJed’aiiと称した旅人たちはこの地で幾世紀にも渡ってフォースを究めるべく研鑽の日々を送りつづけました。
彼らはタイソンを周回する二つの月AshlaとBoganの存在を基にフォースのライトサイドとダークサイドの概念を作り上げ、それらのバランスを保つことを至上目的としてフォースへの理解を深めて行ったのでした。
やがてその人口は増え、他惑星への植民が進み、タイソンが属する星系は一つの文明圏を形成して行きました。多くの文化を生み、悲惨な戦争をも経験し、歴史を積み重ねて行くタイソンの人々の前に新たなる脅威が立ちふさがろうとしていました。それは彼らよりいち早くフォースを解し、しかしそのダークサイドを駆使することで大きく膨れ上がった邪悪な「帝国」に属す人々によってもたらされました。
追記:タイソンとジェダイ
「光」と「闇」を象徴する二つの月を従え、ときに恐ろしい破壊をもたらす嵐が荒れ狂い、その地表には降りる者を惑わせ破滅させ得る混沌を潜ませる深淵を持つというタイソンは、まさにフォースそのものを具象化した惑星ということができます。そんなタイソンはジェダイの故地としてその名と存在がディズニーによる本作の非公式化のあとも一部引き継がれ、ドラマ『マンダロリアン』シリーズにも最古のジェダイ遺跡が眠る地として登場を果たしています。
ジェダイ騎士団の前身となるJed’aiiですが、その名の由来は前述のアンドー・プライムでフォースの研究やTho Yorへのアプローチを行っていたダイ・ベンドゥ教団の言葉にその源を持ちます。それぞれ”Je”は神秘、”Dai”は中心を意味しており、つまり「神秘の中心」という意味を持つ言葉なのです。
ちなみにダイ・ベンドゥ教団という名はルーカスによるスター・ウォーズの初期脚本に見られた「ジェダイ・ベンドゥ」という記述に由来し、メタ的な意味でも「ジェダイの前身」として取り入れられたことになります。
「無限帝国」の脅威
Jed’aiiたちが登場する以前からフォースのダークサイドをエネルギー源とする高度なテクノロジーを発達させた種族ラカタの人々はその貪欲と狂暴性を発揮して銀河中を席巻。悪名高き銀河帝国を凌ぐほどの規模と残虐を誇るInfinite Empireを築き上げて行ったのでした。
彼らはフォース・センシティブたちをForce Houndと呼ばれる奴隷戦士として使役し、次々とその版図を拡大して行きます。支配された星々からは多くの人々が連れ去られ、その怒りや恐怖、悲しみから発せられるダークサイドのエネルギーによって彼らの軍事力は比類なきものへと膨れ上がって行きました。
そしてForce Houndの中でもとりわけ強い力を持つ男Xeshによって、彼らが支配するどの惑星よりもフォースに充ちた惑星タイソンの存在が明らかになろうとしていました。そして時を同じくしてフォースを通じたヴィジョンを垣間見た若き三人のJe’daiiたちもまた、恐るべき予兆とともに彼の到来を予知。太古の恐るべき圧制者と後の銀河の守護者ジェダイの始祖たちは、ここに歴史的な出会いを果たそうとしていました・・・。
追記:帝国とライトセーバー
ラカタ種族による無限帝国は後に千世代に渡る繁栄を誇った銀河共和国が成立する以前に覇を唱えた大国であり、多くの星々に数えきれない爪痕を残しています。その存在はディズニー移行後のカノン設定にも一部取り入れられ、ドラマ『アンドー』では古代の侵略者としてその名が登場し、今後の拡張が期待されるところです。
また注目すべきは彼らがつくり出したForce saberの存在でしょう。見た目から明らかなように後に”ジェダイの命”と呼ばれ、平和の守護者の代名詞ともなるライトセーバーの原型ですが、本作においては邪悪な侵略者ラカタが振りかざす忌まわしい武器として登場し、その作動には激しい怒りなどといった負の感情が必要とされる極めてダークサイドに近いものとして描かれています。
そんなForce saberはこの後もジェダイたちの手によって様々な改良が重ねられ最終的にシスの暗黒卿たちによる技術革新を経て私たちが知るライトセーバーへと進化していったとされています。つまりライトセーバーはライトサイドを奉じるジェダイの象徴とされていながらダークサイドの気配を色濃く感じさせるものであり、それはカノン設定において〈デス・スター〉と同じ動力源(カイバー・クリスタル)を持つとされたライトセーバーの二面性を、レジェンズにおいて雄弁に物語る興味深い設定と言えるでしょう。
以下の拙文にもライトセーバーの二面性に関する考察を掲載しております。ご興味おありの方はご一読頂けますと幸いです。
終わりなき夜に生まれつく
多くの魅力的なキャラクターが登場する本シリーズですが、もっとも注目すべきキャラクターはラカタによって狂暴な戦士として育成されながら数奇な運命と向かい合うことになるXeshでしょう。その強いフォースへの感受性を見込まれ物心つく以前から奴隷戦士としての生き方を叩き込まれたXeshは血も涙もない冷酷なHoundとして無限帝国の殺戮に加担していました。
しかしタイソンへと向かう途上の戦艦が墜落し、ただ一人の生き残りとなったXeshは不時着したタイソンの深い裂け目の中で、大きな傷を負い矛盾に惑う己の心と向かい合うことになるのでした。それは多くの者たちを破滅へ追いやってきた深淵が見せる幻影なのでしょうか、それとも?
忌まわしい記憶に惑うXeshはしかし、目の前に現れた三人のJe’daiiたちを前に再び冷酷なHoundへと戻ります。しかし絶望的な状況に陥ってなお、仲間のために大いなる力を発揮するJe’daiiたちの姿はXeshの心を大きく乱します。利己主義だけが蔓延するラカタ社会にあって、己のために生きることだけを学んできた彼にとって、他者のためにこそ光り輝くJe’daiiの生き方は想像を絶するものだったのです。
タイソンでの「未知との遭遇」は彼の心にどのような影響を及ぼして行くのでしょうか。かつて「闇を選んだ者」の救済を描いたスター・ウォーズですが、「闇に生まれた者」にはどのような道が用意されているのでしょうか。
破壊と殺戮、ダークサイドの権化と言うべき無限帝国の尖兵の闖入はタイソンにおけるフォースのバランスを大きく崩しました。荒れ狂うフォースの嵐からタイソンの破滅を防ぐべく、指導的立場にあるJe’daiiのマスターたちは総力を結集してフォースのバランスを取り戻そうと努めます。Xeshと若きJed’aiiたち、そしてタイソンに生きる人々の運命は大きな変化を迎えようとしていました。
参考資料
本作は未邦訳作品であるためKindle等、電子書籍でお求め頂くのが簡便かつ安価です。
本シリーズの根幹であるスター・ウォーズに触れるには全作品を網羅したDisney+での視聴がもっとも効率的です。
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