『千の顔をもつ英雄』【関連書籍】〈私たちはそれを『スターウォーズ』という名で〉#2:フォースの別名

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本記事はジョージ・ルーカスが絶大な影響を与えたとされる神話学の大家ジョゼフ・キャンベルの著書『千の顔をもつ英雄』をベースに、その要諦と『スター・ウォーズ』への影響を考察することを目的としています。過去の記事はこちら#1

プロローグ モノミスー神話の原型より

悲劇と喜劇

悲劇的な出来事で満ち満ちている世の中を生きざるを得ない私たちは、いったい何を好き好んで物語の中にまで悲劇を求めるのでしょうか? 下手をすれば、喜劇など子供向けの戯言で悲劇こそがより上等な物語ででもあるかのように考えてしまいがちな私たち現代人の価値観は、まるで自傷者をすら彷彿させる痛ましさを感じさせます。

おとぎ話や神話、魂を表す神々の喜劇のハッピーエンドは、人類の普遍的な悲劇と矛盾するものとしてではなく、それを超越するものとして読むべきである。客観的な世界は過去の姿のままだが、主体の中で重要視するものが変わると、形を変えたように見えてくる。以前は生と死が争っていたのに、今では永続するものが顕在化する。

個々人としてはより身につまされるエピソードの集積である悲劇の数々に触れることで私たちが感じるカタルシスは、死に触れることで生に、破壊に触れることで再生に、消滅に触れることで不滅に思いを馳せることではないでしょうか。そして喜劇という一見気楽な物語はそれら個々の悲劇を、そして悲劇を好む私たちをも包含して微動だにしない、優しくも恐ろしい顔をもった物語と言えるのかもしれません。

さて、『スター・ウォーズ』は悲劇でしょうか? それとも喜劇でしょうか?

帝国の圧制と戦うルーク・スカイウォーカーの冒険活劇を描くトリロジー三部作が放つ勧善懲悪の光は喜劇の風味を感じさせ、帝国の誕生とアナキン・スカイウォーカーの堕落を描くプリクエル三部作がまとう善悪不在の混沌は悲劇の風味を感じさせます。その後続々と展開されるスピンオフ作品群に滲む地に足の着いた辛辣なリアリティは『スター・ウォーズ』が深い陰影を持つ壮大な悲劇としてアップデートされて行く感があります。

しかし物語の中核をなす共和国と帝国の興亡も、ジェダイとシスの興亡も、『スター・ウォーズ』世界における神の視点、つまり舞台となる銀河全体とそれらを統べるフォースそのものという視点で俯瞰するならば、まさに鍋で煮立つ水の泡や銀河の星々の出現や消滅と同じく、些事にも値しない出来事なのかもしれません。そういった意味では『スター・ウォーズ』とは銀河を舞台とした壮大な喜劇と言うことができるでしょう。

英雄と神

このあと見ていくように、広大でほとんど大海のような東洋のイメージで表現しても、ギリシア人の情熱にあふれる語り口で表現しても、聖書の神々しい言い伝えで表現しても、英雄の冒険は、通常これまで示してきた核となる単位のパターンに従っている。今いる世界から分離し、何らかの力の源に突入し、人生をよりよくするために帰還するパターンである。

本項では本書の要諦となる「英雄の旅」の全体像が語られ、ブッダやモーセ、プロメテウスやアイネイアスといった様々な英雄たちの人生行路を例に引き、それらに共通するパターン――古の通過儀礼と共通する「分離、イニシエーション、帰還」という要素――を抽出。そして「英雄」とはどのような存在を指すのかにも言及します。

英雄は、自分が誰であるかを自覚するようになり、それとともに本来持つ力を行使するようになった「王の子」、つまり「神の子」であり、その称号がどれほどの意味を持つかわかるようになった存在である。

そしてそれは新たに獲得したものや与えられたものではなく、自分自身の内面にすでに存在するものの再発見であると続きます。登場人物たちがその生まれや属性という「本質」ではなく選択という「実存」によって自らの価値を決めて行く、つまり「誰もが英雄になり得る」とする『スター・ウォーズ』の基本テーマが窺えるようです。

この観点から考えると英雄は、私たちみなの内に隠された神性をともなう創造と贖罪のイメージを象徴し、いつか自覚され表に出ることを待っているのである。

そしてこれらの言葉はそのままルークとアナキンの人生に当てはめることが可能でしょう。

ジェダイとして成長したルーク(出典:Wookiepedia

ルークは名もない農夫から己の運命に背を押され、故郷を出立してジェダイとなり反乱同盟軍の戦士となるという途方もない非日常の世界へ旅立ちます。そこでヨーダの修行を通してフォースの真髄に触れ、恐るべき戦いの数々を潜り抜け、やがて真のジェダイとして成長を遂げ、反乱軍を勝利に導き、帝国打倒の英雄の一人となって帰還しました。

アナキンもまた名もなき奴隷から己の運命に背を押され、故郷を出立しジェダイとなり共和国の守護者となり、後にはクローン戦争の英雄となるという途方もない非日常の世界へ旅立ちます。しかし彼はそこで愛する者への執着に惑い、邪悪な暴君の誘惑に晒されて自身も暴君へと身を落とし、長きに渡る死と破壊の日々を経て息子への愛によって救われ、再びジェダイとしてこの世に帰還しました。

死後「バランス」の体現者となったアナキン(出典:Wookiepedia

英雄とその究極の姿である神、求める者と求められる者という二つの存在は、自分を映し出すただひとつの神秘物語の、外見と内面だと理解できる。顕在する世界の神秘と同じである。至高の英雄の偉大な冒険は、この多様性の結合を知るようになることであり、やがて他にそれを知らしめることである。

途方もない試練の果てに無私の境地で他に仕える「ジェダイの道」と愛する者への「慈愛」を結び付けたルーク、互いに矛盾するフォースの「ライトサイド」と「ダークサイド」を一身に体現する存在となったアナキンの二人は、やはり『スター・ウォーズ』物語において最大級の「英雄」であると言う他ないでしょう。

世界のへそ

「世界のへそ」は絶え間なく続く創造のシンボルであり、万物の内から湧き上がる絶え間ない活性化の軌跡を通って世界を維持する不思議な存在である。

北欧神話における世界樹ユグドラシル(出典:Wikipedia

著者は世界中の神話や宗教教理に見られる「万物の中心」「エネルギーの源」=「世界のへそ」という概念の存在を指摘します。

それは仏陀が悟りを開いた菩提の座であり、イエスが磔刑に処された十字架であり、世界を支える大亀であり、世界蛇であり、あるいは宇宙そのものを表す世界樹であり・・・と無数のバリエーションが存在しますが、言うまでもなく『スター・ウォーズ』における「世界のへそ」がフォースであることは明白でしょう。

The Force is what gives a Jedi his power. It’s an energy field created by all living things. It surrounds us and penetrates us; it binds the galaxy together.(フォースはジェダイの力の根源だ。生命体が作り出すエネルギーの場で、銀河全体を覆い結びつけている。)

『新たなる希望』より

生命が生み出し万物を結びつけるフォースは汲めども尽きぬエネルギーの源として『スター・ウォーズ』最大の魅力の一つです。しかしフォースはどこまでも謎に充ちており、偉大なジェダイマスターも恐るべきシスの暗黒卿も、そして多くの作品を通してフォースを垣間見る私たちも、そのすべてを知り得た者は古今一人も存在しないと言って過言ではないでしょう。

フォース発祥の地「生命の泉」(出典:Wookiepedia

many of the truths we cling to depend greatly on our own point of view. (真実は多面的なものだ。自分の見方で変化する)

『ジェダイの帰還』より

プリクエル三部作において多くのジェダイたちが「選ばれし者」アナキンがシスを滅ぼす存在であるとだけ信じ、その過程で自分たち自身をも滅ぼすことに思いもよらなかったように、「世界のへそ」に渦巻く膨大なエネルギーから生み出される存在は私たち人間の思惑など歯牙にもかけない奔流となって流れ出し、無力な私たちにできるのはそれらを「善」や「悪」という言葉で定義して虚しく「理由」や「意味」を見出そうと足掻くことだけなのかもしれません。

醜いものと美しいもの、罪と徳、楽と苦、すべて等しく「世界のへそ」が生み出すのである。ヘラクレイトスはこう述べている。「神にとってはすべてのものが美で善で正である。しかし人間はものによって邪だと思ったり正だと思ったりする」

あらゆる神話や物語が神の視点に立てば壮大な喜劇となるのに似て、『スター・ウォーズ』という物語もまた万物が生み出し万物を生み出すフォースの視点から見ればすべてが壮大な喜劇でしかないのは冒頭にも述べた通り。『スター・ウォーズ』が「現代の神話」と称されるのは、何を措いても物語すべての背後に控えるフォースの恐ろしいまでの底知れなさに拠っているのではないでしょうか。

創造主である神の厳しさ、と言ってもいいだろう。この点で神話は、悲劇的な態度を幾分かヒステリックに見せ、単に道徳的にすぎない判断を近視眼的だと思わせている。それでも私たちは、見るものには痛みがなく、耐える力が映ったものにすぎないと知っているので、厳しさは相殺される。こうして物語には憐みも恐怖もなくなり、生まれてやがて死んでいく自己中心的で闘争的なあらゆるエゴの中で自己を見つめる、超越的な名もない存在の喜びがあふれるのである。

楽観性と喜劇性に戸惑いつつも守られているからこそ、私たちは自らと同じく確かなものなど何一つないまま過酷な運命と向き合う悲劇的な英雄たちの言動や感情に自らを重ね、寄り添うことができるのでしょう。

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