どれほど邪道と言われていても「歴史のif」というものには無限のロマンが詰まっています。古代の歴史家リヴィウスもまた、古代ローマの歴史をつづった『ローマ史』において「愉しき寄り道」と題して「もしもアレクサンドロス大王が東方ペルシアではなく西方ローマに兵を進めていたら?」という仮定を論じていたと言います。長大なSW史においても同じように「もしも・・・」というifを論じることが「愉しき寄り道」になることは間違いないでしょう。
「アナキン闇堕ち」は必然だったのか?
ノベライズ版EP3にてオビ=ワンは興味深い発言を残しています。
「フォースの意志という表現は重力をよく知らないものが、それは海へと流れる川の意志だと言うようなものなのだ」
ノベライズ版『シスの復讐』より
SWに触れる上で忘れてはならないのは、ジェダイとはフォースの探求者であり、決してフォースのすべてを知る覚者ではないということです。ということは「フォースにバランスをもたらす」「選ばれし者」なる予言もまた、ジェダイたちによる一方的な理解と解釈によって語り伝えられてきたものに過ぎないということなのです。
彼らはアナキンこそがシスを滅ぼしてフォースにバランスをもたらす者であると思い込んでいたようですが、果たして件の予言の真意はどのようなものだったのでしょうか? 今となってはレジェンズ設定ながら優れた解釈で名高い小説作品『ダース・プレイガス』などでもその意味に対する言及がなされていますが、私の見立てとしては「邪悪なシスも、硬直したジェダイも滅ぼす」ことによってフォースを覚知する者たちを巡る環境をリセットすることにあったのではないかと思っています。あの当時にあってはジェダイもまた一種の政治団体化を遂げ、あるべき本分を見失っていたことが明らかだからです。
しかし「ジェダイもシスも滅ぼす」といっても、なにも両者を皆殺しにする必要はなく、必ずしもアナキンが暗黒面に足を踏み入れてシスになる必要もなかったのではないでしょうか? 詳細はEP2,3を扱った記事に譲りますが、私は「アナキン闇堕ち」の真因は「ジェダイとの人間関係」と見立てています。つまりジェダイがアナキンを信じず、アナキンもジェダイを信じず、信じることができた人物がシスであったことこそがその真因であったのではないかと。
つまりアナキンが心から信頼できる人物がいさえすればジェダイに留まり得たのではないでしょうか。そして彼が心から信頼でき、尚且つその信頼に応えることができたジェダイはおそらく、クワイ=ガン・ジンだけであったことでしょう。オビ=ワンもまたアナキンが信頼したジェダイでしたが、あまりにも正統派のジェダイであったためにその信頼に応えることができませんでした。
しかし「正統派」の教えに堂々と異を唱え、指導者階級の人々とぶつかることも恐れなかったクワイ=ガンならばアナキンの人間的すぎる性向や悩みに理解を示し、彼に対する不信感を拭えないヨーダら指導者たちとの仲立ちの役目も果たし、さすがのパルパティーンも入り込む余地がないほどの信頼関係構築に成功していたかもしれないのです。だとしたらアナキンの人生は同じく波乱に満ちたものであったとしても、あれほどの苦しみを味わいながら生きずに済んだのかもしれません。
クワイ=ガン生存シナリオとして考えられる道筋は、
- アナキンのジェダイ残留
- アナキンのジェダイ脱退
の二つではないでしょうか? ずいぶん好き勝手なことを書き散らして恐縮ですが、もしご興味を持たれた方は是非、いちマニアの妄想を吟味して頂ければ光栄です。
愉しき寄り道1:アナキン、ジェダイ残留
アナキンは「父」クワイ=ガンの庇護と導き、「兄」オビ=ワンとの切磋琢磨を経てジェダイとしての力を大きく身につけ、その精神状態やジェダイへの帰属意識も安定したものであったことでしょう。数々の悩みや苦しみもシスであるパルパティーンではなくジェダイであるクワイ=ガンに相談することができ、人間的な柔軟性を持ち合わせるクワイ=ガンはそれらに対して適切な助言や共感を示すことができたことでしょう。
そしてパルパティーンによる誘惑を退けてシスを滅ぼしたアナキンはやがてヨーダをも凌ぐジェダイマスターとして成長し、彼のあとを継いでジェダイ全体を率いる指導者の地位に就いたかもしれません。しかしジェダイの硬直ぶりを知るアナキンは、もはや現状の形でのジェダイ存続は無意味としてオーダーを解体。以後ジェダイは共和国政府から離れて本来の「フォースの探求者」としての姿に立ち戻り、ここにアナキンは邪悪なシスを滅ぼし、硬直したジェダイを組織として解体したことで「フォースにバランスをもたらす」ことになったのかもしれません。
愉しき寄り道2:アナキン、ジェダイ脱退
アナキンのパドメへの愛着は日々止みがたく、ついにはその関係が評議会に知られることになったかもしれません。そもそも度重なる反抗的言動が災いして評議会から厳しい処分を言い渡されたかもしれません。しかし己の信じる道をどこまでも貫くクワイ=ガンならば、もしアナキンがジェダイから追放されることがあったとしたら自らもジェダイを離れ、彼の指導を続けていたかもしれません。首都を離れ、もはや銀河の歴史に登場しない辺境の地でひっそりと、愛する妻と敬愛する師とのアナキン第二の人生が始まるのです。
しかしそもそもパルパティーンの野望実現にアナキン(ベイダー)が必要だったわけではありません。彼がいようといまいと、パルパティーンの誘導によってジェダイの権威失墜と信用崩壊による社会的抹殺は起こり、「オーダー66」による肉体的抹殺もベイダーによる徹底はなくとも相当な程度には起こったことでしょう。既存のジェダイ滅亡を目の当たりにし、倒すべきシスの正体を見据えたアナキンはパルパティーンを倒すことこそが己の使命と思い定め、再び銀河の表舞台に立つことになったかもしれません。自分と同じく強力にフォースと繋がる二人の子供たちとともに・・・。
そんな彼のもとに滅亡を生きのびた数少ないジェダイたちも参集し、戦いの末にパルパティーンは倒され、アナキンらが中心となって旧来の陋習を破る新たなジェダイ騎士団が結成されるのです。
というわけで、そこの苦笑いしたあなたも鼻で嗤ったあなたも、このような「SW史のif」を思い描いて心ときめかせたことはないでしょうか? 今度はぜひともあなたの描く「SW史のif」を聞かせて頂きたいものです。
コメント