『スター・ウォーズ新約聖書』〈我が蔵書屈指の奇書その2:愛すべからざるオタク野郎ども〉【関連書籍】

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本書は1980年、様々なメディア作品の研究を目的とするサンディエゴ・メディア教育協会という実在するのかネタなのか判然としない団体が著したSW考察書籍です。

その加入条件たるやまさに狭き門。当初は会員3名以上からの推薦を加入必須条件とする選ばれし者たちのクラブでしたが、1997年のSW〈特別編〉公開を機になんと3倍にも激増したという入会希望者に対応すべく、3年に一度の入会試験を実施するというプチ開放路線に移行、本書出版の2002年当時で会員数122名を記録しているとのことです。ちなみに本来極秘である入会試験内容のサンプルも本書冒頭に掲載されております。あまり長いのでその内容は割愛いたしますが、その難度はなかなかのもの。

そのような組織が著した考察書の内容ならば相当のもの・・・と期待するところですが、内実はまことにアレなものでありました。それでも私が本書を最初から最後まで読んでしまったのは、たとえばビジネスホテルなどのケーブルテレビで思わず劣悪なB・C級映画を流し見し続けてしまったような、そんな怠惰と好奇心の合わせ技によるものだったのでありました・・・。

愛されない馬鹿本:炎上商法? その軽薄と悪ノリ

当ブログでは本書のような素人オタク集団愛好家たちが著したSW考察本をもう一冊ご紹介しています。『スター・ウォーズ解体新書』と銘打たれたその書籍は、暑苦しいオタクノリ真面目なんだか不真面目なんだか判然としない、有体に言えばリアクションに困る類の「考察」も散見される奇書珍本でしたが、そこに漲る熱気は共感可能なものでした。

しかし本書ときたらどうでしょう? そこに充満しているのは過剰な妄想力貧弱な品位。そしてユーモアに昇華し切れていないイヤミの数々なのです。各キャラクターや展開に対する低俗な描写は言うに及ばず、ジョージ・ルーカスまでをも「老人性痴呆症」呼ばわりするその筆致は決して許容できるものではありません。不謹慎なユーモア大歓迎な私もさすがにそのセンスなき悪ノリにはとてもついて行けるものではありません。

紙数を割くのも癪ではありますが、根拠なき中傷と思われぬためにもいくつか例を挙げておきましょう。これは【第一章 知ってるつもり? 新三部作キャラクター総解説】のメイス・ウィンドゥの項での一文。

ドゥークーとメイスには間違いなく確執がある。ドゥークーの落ち着き払った態度と、興奮を隠し切れないメイスの態度とを見比べれば、それがメイスの劣等感に基づくものであることは容易に想像が付く。ここで押さえておきたい事実は、ドゥークーがメイスよりかなり年配であることだ。にも関わらず、伯爵は頭髪がふさふさしており、一方のメイスは完全なスキンヘッドなのである。そう、メイスはドゥークーの毛髪に嫉妬していたのだ。

(中略)彼は髪の毛という俗物的なものを自ら捨て去り、ジェダイとしての悟りの境地に到達していた。少なくとも、皆からはそう思われていたのだろう。だが、実はそのヘアスタイルは天然物だったのである。ドゥークーが騎士団を離れる前から、彼には強い嫉妬が芽生えていたのだ。

続いては【第四章 エピソード3完全予想!】より、「ハン・ソロとチューバッカは出てくるの?」という疑問への一問一答。

 間違いなく出てくるであろう。

 スター・ウォーズ・サーガにおける重要な規律に、新三部作と旧三部作を跨る因果応報律というものがある。(中略)ハン・ソロは旧三部作でダース・ベイダーからの受難を経験している。クラウド・シティで尋問の意図もなく、ただひたすら電気ショックによる拷問を掛けられたのだ。これは、かつてのハンがベイダーに対して何かひどいことをするという暗示と受け止めてよい。(中略)

 ハンとチューバッカの馴れ初めは、帝国の奴隷だったチューバッカをハンが救出したことであるというのは有名な話である。そう、チューバッカはベイダーの奴隷だったのだ。(略)ウーキーを選んだのは、オビ=ワンとの戦いで頭髪をすべて失ったベイダーが、獣毛で天然のカツラを作ろうとしたからであろうと推測できる。(中略)

 孤児であるためコソ泥として生計を立てていたソロ少年は、ある日偶然にもベイダーの屋敷に忍び込む。ちょうど植毛テストのためチューバッカの毛を抜いていたベイダーを見て、彼は止め処もない不快感を抱いたのだ。そこで彼はベイダーがスーツの充電を行なっているときに背後からそっと近づき、コンセントを抜いたのである。ベイダーは電力不足で思うように動けず、ソロとチューバッカを追うことができなかったのだ。

 つまり『帝国の逆襲』における電気ショックには、当時自分が得られなかった電力をソロにおすそ分けして返したという解釈が成立する。20年前の報復にこれほど陰険な方法を思いつくとは、さすがはシスの暗黒卿であると言わざるを得ない。

同じく第四章から「ヨーダとオビ=ワンはなぜ隠遁生活するようになるの?」への回答。

 アナキンのジェダイに対する激しい憎悪は、彼を完全にダークサイドへと転向させた。アナキンは邪悪な野獣と化し、次々とかつての同胞たちを手に掛けていく。知っての通り、アナキンは頭皮への大火傷によって頭髪をすべて失ってしまった、彼が真っ先に怒りの矛先を向けたのは800歳を超えながら毛髪がふさふさしているヨーダと、豊富なキューティクルを誇るオビ=ワンだったのである。(中略)

 だが、アナキンは楽しみを後に取っておく主義だった。そのため、まず狙われたのはメイス・ウィンドウ、サイシー・ティン、プロ・クーンといった剝げあたまのジェダイたちだった。ヨーダとオビ=ワンにとっては皮肉にもこれが時間稼ぎとなる。彼らは糞尿を垂れ流し、顔面を涙と鼻水に染めながら必死の形相で逃げ惑った。そしてなんとかアナキンの魔の手を逃れ、コルサントを脱出することに成功する。

続いては・・・いや、もういいか。ネタでないなら言語道断、ネタであっても笑えないという救いようのない駄文の数々は、まさに吐き気を催す邪悪と呼んで差し支えないものと言えるでしょう。というわけでその他の内容は推して知るべしと言うべき下品極まりない悪書たる本書ですが、それでも2つ、たった2つだけは納得の行く「考察」が述べられていたのでご紹介してみたいと思います。

慧眼?その1:なぜEP4のタスケンはオビ=ワンを見て逃げたのか

EP4でタスケンたちに襲撃されて危機に陥ったルークを救いに現れたのオビ=ワン・ケノービ初登場シーンですが、そもそもたった一人の老人相手になぜ獰猛な戦士であるタスケン3人組は逃げ出してしまったのでしょうか? 「彼らが恐れるクレイトドラゴンの鳴き声を真似たから」それが模範解答ですが、本書ではオビ=ワンの風貌とEP2での出来事を組み合わせた面白い考察が為されています。

それは彼らが「被害者」として描かれた唯一のシーン、アナキンによるタスケン虐殺によって彼らのコミュニティでは「光る剣を持ち、ローブを着た男」には近づくなというタブーが形成されていたからであるというもの。なるほど。

慧眼?その2:なぜクローントルーパーには目立つ階級マークが描かれているのか

未だ『クローン・ウォーズ』をはじめとする各作品に登場する個性あふれるクローンたちは存在せず、「クローンは個性を持たない」とされていたEP2当時、同じ素体を持ち、同じ環境で育ち、同じ教育を受けた々能力の持ち主であるクローントルーパーに階級があるのは不可解なことでした。しかも指揮官と思しきクローン兵には敵の集中攻撃を誘いかねないこれ見よがしなカラーリングまで施されている始末。それはいったいなぜなのか?

本書はその理由を「将軍」たるジェダイに随行する機会の多いであろう指揮官クラスのトルーパーに攻撃を集中しやすくすることで、自動的にジェダイに被害が及ぶ率を高めようとしたパルパティーンの謀略であると見立てます。さらにジオノーシスの戦いで展開した第一次世界大戦も真っ青な旧式戦術を例にとり、いかにジェダイが「将軍」として無能であったかを考察。この項に関してだけは案外納得の行く「考察」だったのでした。

意外な真実?:ジェダイのルーツ

「ジェダイ」の名前の由来は「時代劇」である。

それはSWを愛する者の基本知識の一つですが、本書ではそれを覆す衝撃的な仮説が立てられています。提唱者は長きに渡って日本の、しかも60~70年代のアニメ文化を研究しているという渋い好みの人物であり、「ド根性」という言葉に代表される精神性を強調した当時のアニメの一作品にこそジェダイのルーツが隠されていると喝破するのです。

その作品とは驚くべきことに『いなかっぺ大将』。主人公大左衛門は英語ユーザーである著者には「ダイジェ=モン」(DIJE=MON)と聞こえ、DIJEを逆転させればJEDIとなる!というのがその根拠です。根拠としては両主人公ともに辺境の地(タトゥイーン)出身で奇妙な姿の師匠(ヨーダ)に鍛えられる類似点が見られるとし、驚くべきことにEP2におけるヨーダの戦闘シーンで日本人と思しき観客が間違いなく「ニャン・コセン・セー!」(にゃんこ先生)と歓声を挙げていたのを目撃したというもう何が何だか分からないことまで言っているのです。

著者は更なる根拠を提示するため『いなかっぺ大将』の主題歌『大ちゃん数え唄』の英訳に取り組む予定であるとして文を結んでおります。で、こちとらも一つおふざけが過ぎた本レビューの結びとして『数え唄』とジェダイの類似性について言及してみたいと思います。

一つ ひとより 力もち

ジェダイは誰よりも強い力(フォース)を持った存在です。

二つ ふるさと 後にして

ジェダイたちに「ふるさと」はありません。なぜならば、

花の東京で腕だめし

銀河の首都コルサントのジェダイ聖堂を家とし、いわば銀河全体を「ふるさと」としてその守護にあたるからです。

三つ 未来の大物だい

聖堂では今も昔も多くのパダワンたちが未来のジェダイマスターとなるべく厳しい修行に明け暮れているのです。

大ちゃん あっちょれ 人気者
てんてん 天下の いなかっぺ

そんな彼らは銀河中で尊敬される誇り高き存在です。しかしその風体たるや都会的洗練や華美とは無縁。常に地味で質素な衣服に身を包んだ彼らの出で立ちはまるで田舎者のそれですが、その質実剛健さこそジェダイの騎士の証であるのです。

四つ 弱気は 見せない
五つ いつでも 猛稽古
きたえぬけぬけ 得意技

彼らはいかなる時も弱さを克服し、長く、辛く、苦しい修行を通してフォースとの合一を目指し、自らの感覚を鍛え抜くのです。

六つ むしゃくしゃするときは
大ちゃん どばっと 丸はだか

しかしジェダイとて人の子。怒り憎しみ哀しみに囚われることもあるでしょう。そんな時こそ裸身のごときありのまま素直な心を以て瞑想に励み、打ち騒ぐ心を鎮めるのです。

七つ 七くせ 悪い癖
八つ やっぱり なおらない

しかしこの唄はジェダイの危うさにも言及します。ウリック・ケル=ドローマやエグザ・キューンら古のジェダイたちを筆頭に、自らの弱さに負けたジェダイも存在します。その代表格は何といってもアナキン・スカイウォーカーでしょう。師オビ=ワンの導きも、妻パドメの愛も、彼自身の自制も、まるで一切の干渉を許さぬ運命の残酷な手によって弄ばれるがごとくに悲劇へと突き進んで行ったのです。

九つ こまった すびばせん
十で とうとう ずっこけた

数々の行き詰まりを経てついに暗黒面に堕ちたアナキンは恐るべき暗黒卿として銀河中を恐怖に陥れるのでした。しかし・・・

大ちゃん ぼっちょれ いい男
てんてん 天下の いなかっぺ

息子ルークの愛と導きによって善き人=ライトサイドへの帰還を果たしたアナキンは暗黒面の化身パルパティーンを葬ることで自らの業を償いました。こうして天下最強のジェダイはフォースの奔流へと還り、愛する息子の前に再び姿を現すのです。そう、まるで田舎の農夫を思わせる、あの素朴なジェダイの出で立ちで・・・。 

おわかりいただけただろうか?

信じるか、信じないかは、あなた次第。

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