本書を著したのはアメリカにおけるSW研究団体である「マサチューセッツ・”スター・ウォーズ”・ラボラトリー」(MSL)に籍を置く人々です。それが実在する団体なのか、それとも存在そのものがネタなのか、それは知らないし知ったことでもないけれど、本書には確かにSWを愛するオタク野郎ども仲間たちの発する熱気がムンムンと充ちているのです。
SWに関する関連書籍はスピンオフ作品と並んで硬軟・玉石合わせて星の数。そんななかでもはっきり言って本作は軟派も軟派、限りなく「玉」よりも「石」に近い奇書珍本の類ではありますが、それでもなお、いや、それだけになお、抗いがたい中毒性魅力を以てSW愛好者の時間を奪い去って行く忘れさせるのです。
ときは1998年、新三部作第1弾となるEP1の公開を間近に控えてSWファンたちが興奮を持て余していたそんな時代。本書は上空に浮かび上がる〈デス・スター〉のようにその不気味な姿を現したのでありました・・・。
第1章 キャラクター徹底解析
本章ではルークやベイダーら主人公級キャラからストームトルーパーやジャワ、ピエット提督やレッド・リーダーといったサブキャラたちに至るまでの解説がフィクション・メタ両面で展開。物語上の役割や魅力はもちろん、映画制作時の挿話や演じた俳優に関する情報を少ない紙数ながら充実の内容。
他作品との比較から語られる各キャラクターのルーツへの考察というごく真面目な内容から、謎のランド推し記述の暑苦しさまで、本作全体に横たわる真面目なんだか不真面目なんだか判然としかねるオーラが既に感じられます。
特にサブキャラたちに関する解説ではよりトリビアルな風味とエキセントリックさが増して行きますが、それでも未邦訳スピンオフ作品や、真偽は不明ながら未公開シーンを絡めた知られざるエピソードのどこまで事実でどこからネタなのか分からない紹介もありいろんな意味でなかなかの読み応えとなっています。
- 「グリード実はローディアの英雄説」
- 「レッド・リーダー実は元ジェダイ説」
- 「ピエット提督ベイダーの心のオアシスだった説」
等、本書のトンデモ風味はいよいよその加速度を増して行きます。
第2章 『スター・ウォーズ』の謎
SWファンならば気にならざるを得ない数々の「謎」に関する考察が展開。こちらも硬軟・玉石混交ながら思わず時間を無駄にする忘れること請け合いの充実度。
- 『ジェダイ騎士の精神・ライトセーバーとは何か?』
- 『デス・スター・トレンチの緊張感は何を意味するのか?』
- 『いかにルーカスはクロサワを引用したのか?』
といった至極まっとうなものから、
- GNKドロイドに対する妄想節満載の『GNKパワードロイドに与えられた重大な役割とは?』
- オビ=ワン・ケノービアルツハイマー説というファン
激怒驚愕必至の仮説『オビ=ワン・ケノービはなぜR2-D2を「知らない」と答えたのか?』
といったトンデモ節炸裂回まで、その振れ幅はフォースによる精神攪乱のごとく私たちの脳髄を眩惑させるのです。
第3章 新三部作(プリ―クェル)の秘密
やはり1998年当時の読者にとってもっとも気になるのは新作EP1の内容に関するものだったでしょう。本章では彼らが当時知り得た限りの映画内容、キャラクター、ILMによる画期的なCGI技術を主とした映画制作にまつわる数々の逸話などが展開。彼らと同じく公開を待ち望むファンたちを興奮の渦に巻き込みます。なお当時は未だ固有名詞の邦訳が定まっておらず、パドメ・ナブリエ・アミダラやクワイ=ゴン・ジンといった記述が時代を感じさせます。
ユアン・マクレガーがライトセーバーを用いた撮影中に「ブゥゥ―ン」と効果音を口走るためルーカスから「ブンブン言わなくていいよ」と窘められたというエピソードは本書きっての癒し。
第4章 新三部作ストーリー完全予想
そして本書のメイントピックとなるのは、やはり多くのファンが眉唾ものと警戒した期待を寄せたであろう新三部作のストーリー予想でしょう。なんと当時知り得る限りの情報を結集したMSLはEP1からEP3に至るあらすじの全てを予想、そのあとがきで「ストーリーの詳細を把握するとこにほぼ成功してしまった」というどこに根拠があるのか分からない大いなる自信をもって大胆掲載しているのです。
本当はその全文を掲載してSWファンの方々の感想をお伺いしたいところですがさすがにそこまでヒマではなしやってはレビューの範囲を逸脱するため、とりあえずジャー・ジャー・ビンクスがジェダイとして大活躍するというもっとも衝撃的な設定のみご紹介するに留めましょう。あとは推して知るべし。
そしてもう一点、本章最終項となる最終考察「恐ろしい可能性への警鐘」では、新三部作で展開する旧三部作のロマンスを後の悲劇の引き金とし得る衝撃の設定を考察。正直言って私はこれが事実ならそれはそれで面白かったかも・・・と不覚にも思わないでもない内容なのですが、もしそれが的中していたらいたで今度はオビ=ワンにロリコン疑惑が発生してしまうというカオスな内容であります。気になる方はぜひご一読。
さて、散々本書を馬鹿にしてきた私ですが、それでもこういった硬軟・真面目不真面目様々なアレコレに関して考察または妄想を展開して行くのはSWを愛する者の業愉しみの一つと言えるでしょう。その妄執情熱を余すことなく一冊の書籍に著しきったMSLの人々に対して、私は案外ほんとうに羨ましさを感じる次第なのです。
コメント