※本文中に挿入される画像はいずれも『Star Wars: Jedi Knights』(2025)からの引用であり、作品のイメージや魅力をお伝えすることを目的に使用しております。
はじめに:本邦におけるコミック翻訳事業縮小について思うところ。
すでにご存じの方々もおられる通り、本邦におけるスター・ウォーズ コミックの邦訳を一手に手掛けてきた小学館集英社プロダクション(小プロ/ShoPro Books)が2026年3月31日をもって、マーベル社との出版契約を終了する旨発表がありました。同社の邦訳事業からの撤退は、この文章をお読みの日本語ユーザーのスター・ウォーズ ファンにとって大きな事件と言えるものでしょう。
もちろん電子書籍や翻訳アプリの台頭著しい現代において、未邦訳コミックスへのアクセスはそれほど難しいものではありません。Amazon kindleやマーベル社による定額サービス「Marvel Unlimited」といったサービスを用いれば入手も閲覧も容易であり、Google翻訳サービスなどを駆使すれば、言語の壁も比較的容易に乗り越えながら、今後も多く押し寄せる新たなるスター・ウォーズ作品群をフォローし続けることは充分に可能です。
しかし実際のところ、事前情報の少ない外国語コミックを自力で購入し、内容を吟味しながら読むという行為は、コスパ/タイパが重視される現代にあって、それなりにハードルが高いものと言えるでしょう。そこで今後、本サイトでは未邦訳作品の紹介記事をこれまで以上に増やしていこうと考えています。
私はこれまでスター・ウォーズ考察を行ってきましたが、それはスター・ウォーズという物語のなかだけで完結するものではありません。映画・小説・コミック・アニメ・ドラマ・ゲームといった多くのジャンルに渡って展開する多くの物語群を吟味することで、物語的な解説を施したり、深掘りを楽しむのはもちろんだが、いちばんの目的は、私たち自身の心にも関わる普遍的なテーマを見出し、読み解くことにあり、そのためには他ジャンルにまたがる文学や哲学、宗教といった人文系書籍や作品とのすり合わせなども行ってきたのでした。
つまり私は、面白いエンタメ作品としてスター・ウォーズを愛していると同時に、もしかするとそれ以上に、文学・哲学・宗教といった、あらゆる人間にとって普遍的なテーマを包摂する諸々の学問へと誘い出す「触媒」としても愛しているのです。
よってこれまでは、その作品の中に自分なりのテーマや問題意識を見出し、それに対するある程度の答えが熟した作品を中心に扱ってきましたが、今後は「紹介」だけに重点を置いた記事も積極的に取り上げて行こうと思います。必ずしも結論まで到達していなくとも、そこに潜む「考察の種」を提示することを目標としたいのです。
それは単なるあらすじ紹介や、不必要なネタバレに終始すると言うことではありません。将来的に翻訳の可能性がある作品の価値を損なわない範囲で、その魅力を端的に伝えることを心がけたいのです。
本シリーズ概要:『Star Wars: Jedi Knights』(2025)とは?
今回紹介するのは2025年3月から12月にかけて刊行されたコミック・シリーズ『Star Wars: Jedi Knights』です。
舞台となるのは『エピソード1/ファントム・メナス』の数年前、概ね40BBY〜34BBY頃とされていますが、作中で明確に年代が示されるわけではなく、あえてタイムラインを厳密に固定しない構成となっています。
第1ストーリーアーク『THE INVASION OF SYRINX PRIME 』では、辺境惑星SYRINX PRIMEにおける紛争調停が描かれます。そこにはヨーダやメイス・ウィンドゥ、キ=アディ=ムンディ、シャアク・ティ、若きオビ=ワン、Vetna Mooncrest、Berem Khana、Seera Longaといった初出ジェダイたちも加わります。
銀河規模で見れば限定的な紛争にもかかわらず、評議会級のジェダイが複数動員されているという不自然な点は、やや寓話的な演出とも読めます。よって時系列の厳密な整合性よりも、「共和制末期ジェダイの肖像」を描くことが主眼に置かれている印象の根拠とも思えます。
侵略軍による激しい攻撃、交渉に聞く耳を持たない傲慢な敵将、そして明らかになる事件の全貌。多くのジェダイたちの活躍によって、この侵略はどのような結末を迎えるのか。というのが本ストーリーアークの骨子ですが、それらを通して浮かび上がるのは、
プリクエルの掘り下げが進むごとにアナキンのシス転向を招いた「教条主義」や「硬直」がフィーチャーされてきたジェダイたちの実務的な姿です。つまり、本来「聖職者」に等しい存在として発祥したジェダイが、この欺瞞と暴力蔓延る時代に対処せざるを得ない「治安維持要員」おいて、どのような役割を果たし、どのような葛藤を抱えていたのかということです。


見どころ1:ジェダイ・コードの限界
本シリーズを貫く重要な言葉が、第9ストーリーアークで語られる若き日のドゥークーの台詞です。
YOU TOOK THE ACTION YOU THOUGHT WAS BEST UNDER THE JEDI CODE.
THE PROBLEM LIES WHEN YOU CONFRONT THE LIMITATIONS OF THAT CODE.
OUR ORDER BELIEVES IN THE FUNDAMENTAL GOODNESS OF ALL BEINGS. RELIES ON IT.
BUT AS YOU’VE SEEN, THE GALAXY IS VAST AND CONTAINS AS MUCH EVIL AS IT DOES GOODNESS.「お前はジェダイ・コードのもとで最善と信じた行動を取った。
Jedi Knights #9 (邦訳は公式に基づかない私訳)
問題は、コードの限界に直面した時に生じる。
我らの秩序は全ての存在に宿る根源的な善を信じる。そしてそれに依存する。
だがお前も見た通り銀河は広大で、善と同じく悪もまた満ちているのだ」
これは本シリーズて引き起こされる物語の原点となる、若き日のクワイ=ガンの迷いと過ちに対してかけられたドゥークーの言葉ですが、ジェダイ・コードを奉じるジェダイたちの規範とその限界とを物語るものでもあるでしょう。善を信じる秩序が、悪の現実に直面したとき何が起こるのか…。この問いはシリーズ全体の基調音になっていると言えるでしょう。
ジェダイはフォースの求道者であると同時に、共和国の公的な調停者でもあります。理想と現実の間で、彼らは常に「バランス」を選び続けなければなりません。本作は、共和制末期のジェダイが単なる教条主義者であったという単純な図式ではなく、理想と現実の狭間で揺れ動く存在であったことを描き出そうとしているように思います。

そしてそれは、ジェダイほどではなくとも自らの規範と現実の齟齬に悩み、ときに意に沿わぬ言動に手を染めることで複雑な思いに駆られることも珍しくない私たち一般人にも相通じる感慨ということができるでしょう。
そんな、心の内外を問わず「公」と「私」の狭間で自らの行動を選択して行くジェダイたちの冒険が描かれる本シリーズの序曲となる本ストーリーアークでは、本シリーズを通して重要な役割を果たすキャラクターも初登場を果たします。
それが、後にCORLIS RATHという名だけが明らかになる謎の刺客です。侵略に対する調停任務に邁進するジェダイ一行を、その中でもなぜかクワイ=ガンだけを強襲した刺客は高い戦闘能力で彼を翻弄。やがて追い詰められたものの煙幕を張って逃走するという忍者顔負けの印象を残す彼の正体は何なのか。そしてクワイ=ガンだけを襲う理由は何なのか。それが、多くのストーリーアークで構成される本シリーズにおいて、唯一の一貫した謎とテーマとなるのです。


見どころ2:多彩な物語と新旧登場人物たち
Atha Primeの脅威
CORLIS RATHのみならず、本シリーズでは本作を初出とする魅力的なキャラクターたちが登場します。筆頭となるのは第2ストーリーアーク「THE DEEPEST CUT」に登場するAtha Primeでしょう。
実はこのキャラクターの祖型は古く『エピソード6/ジェダイの帰還』公開翌年にまで遡ります。当時スター・ウォーズ フィギュアの販売を手掛けていたケナー社は、三部作完結後も独自のシリーズ構想を企画します。最終的にルーカスフィルムのGOサインが出なかったため頓挫したものの、ある程度まで進められた物語概要に登場したのがAtha Primeなのです。
このキャラクターのコンセプトアートは一部で高い人気を博し、レジェンズ期の作品『ダーク・エンパイア』に登場したインペリアル・センチネルや、クローン戦争時代に暗躍したZeta Magunusといった形で登場。ついに本作において、カノン設定におけるデビューを果たしたのでした。



そんなAtha Primeが生み出したのは恐るべきクリーチャーXerexi。『エイリアン』に登場するゼノモーフを彷彿させるこのクリーチャーは、まさにエイリアンそのものの獰猛な気性によってジェダイたちを圧倒。Atha Primeもまたヨーダに手傷を負わせるまでの実力を誇ります。
果たしてこの強敵の正体は何か?
そして銀河史に与える影響は?
今後の活躍が楽しみなキャラクターと言えるでしょう。


巨獣Kaijyura
本作初出となるのは第3、第7ストーリー・アークに登場するKaijyuraもまたその一つ。日本語「怪獣」(=”カイジュラ”)に由来すると思しきこのクリーチャーもまた、単に物語に彩りを添える存在であるにとどまらず、『クローン・ウォーズ』におけるジロ・ビースト、または往年の邦訳コミックアンソロジー『スター・ウォーズ テールズ』に収録された「生と死、そしてフォース」を彷彿させる物語の主軸となります。


あらゆる生命を尊ぶべきジェダイはしかし、自らの往く手を阻む驚異的な、しかし何の罪もないはずの存在に対してどのような道を歩むべきなのか…。彼らの複雑な胸中を垣間見ることのできるストーリーとなります。


犯罪淑女PHAEDRA
第4ストーリー・アーク「THE PHAEDRA GAMBIT」に登場するPHAEDRAもまた、この物語のスパイスとして刺激的な風味を残します。ただしこちらは本作が初出ではなく、本シリーズのライターを務めたMarc Guggenheimによる2022年のコミックシリーズ『HAN SOLO & CHEWBAKKA』が初出となります。
Quaraxianと呼ばれる長寿と頭脳明晰で知られる絶滅危惧種族に属す彼女は、その知能を活かして裏社会に暗躍。本作ではなんと犯罪王ジャバから多額のクレジットを盗み出し、ジャンゴ・フェットやザム・ウェセル、オーラ・シングといった名代の賞金稼ぎに追われ、加えてジャバの資金管理を行っていた銀行グループの依頼を受けたジェダイからも追われることとなってしまいます。絶体絶命に見える彼女はしかし、様々な権謀術数を用いてこの苦難に対処して行くのでした。


フォース・センシティブSOONA TAJと”Jedi rescuer”
第8ストーリー・アーク「THROUGH YOUNGLING EYES」では新たなジェダイ候補生の少女SOONA TAJが登場。ジェダイとしての素質を見込まれた彼女は家族と永遠の別れを告げてジェダイになるというあまりにも思い決断の末を下します。


しかし人生の門出と同時にとある災難に巻き込まれ、窮地に陥ってしまうのでした。本ストーリー・アークでは、「ジェダイは生後半年以内に訓練を開始する」「ジェダイの訓練を受けていない者はフォースを使えない」といった、『エピソード1/ファントム・メナス』におけるアナキン、『アコライト』におけるオーシャ、『アソーカ』におけるサビーヌの上に影を投げかけた共和制末期のジェダイの教条主義と硬直を真っ向から描くエピソードと言えるでしょう。



ややもすれば「アンチ・ジェダイ」的な風味を感じさせるエピソードであると同時に、とあるキャラクターの登場によって、ジェダイのヒロイズムに陶酔することもできるという逸品でもあります。
ヤドルとドゥークー
本シリーズを構成する物語のうち、メインストーリーとなるクワイ=ガンとCORLIS RATHを除けばもっとも印象深いのは2022年に配信されたアニメ―ション・アンソロジー『テイルズ・オブ・ジェダイ』でその因縁が語られたヤドルとドゥークーの前日譚でしょう。
通商連合が絡む貿易紛争の調停に赴いたヤドルは、その過程で今では騎士団を去ったドゥークーと思わぬ再会を果たします。犯罪組織との関与によって窮地に陥った友ドゥークー、しかし今では決定的に道を違え、必ずしもその志しを認めることの出来ぬ旧友を救うべきか否か…。ヤドルはフォースの意思と自分自身との意思に従って決断し、そして葛藤するのでした。


まとめと本書購読方法
このように、本シリーズはクワイ=ガン若き日の過ちとその因縁を主軸としつつも、複数の魅力的なストーリー・アークが展開されます。
近年、「教条主義」や「硬直」に蝕まれた集団として一刀両断にされがちな共和政末期ジェダイ騎士団ですが、本作はそのような単純化に陥ることなく、「修道士」でありながら「平和維持要員」という微妙な立場を強いられる彼らが、理想と現実の狭間で揺れる姿が描かれているのです。
美麗かつ華やかなイラストに彩られた娯楽性の高いアクション作品として楽しむこともできれば、倫理的問いを考える素材として読むこともできます。その両義性こそ、本シリーズの魅力と言えるでしょう。

そんな本シリーズは全巻Amazon Kindleで購入可能であり、定額サービス「Marvel Unlimited」でも配信されています。(本記事作成時点2025年2月現在では全10刊中第8刊まで配信中)

邦訳が途絶えつつある現在、未邦訳作品に目を向けることはスター・ウォーズ世界の広がりを知る上でますます重要になるでしょう。今後も考察が十分に熟していない段階であっても、その「種」を共有する形で紹介を続けていきたいと思いますので、未邦訳作品への関心を持つきっかけになれば幸いです。


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