※本記事は後半部分にネタバレ要素を含みます。お読みの際にはご注意ください。
「見えない者(Unseen)たち」の物語
今回ご紹介するのは、コミック『Star Wars: Jar Jar (2026) 』です。
本作はタイトルの通りジャー・ジャー・ビンクスを主人公とするものであり、映画本編でジャー・ジャーを演じ、さらに『マンダロリアン』などでカレラン・ベクを演じたアーメド・ベスト自身がライター/アーティストとして参加しているという意欲作となっています。
そんな本作はまた、2026年2月11日に刊行されたばかりの、30ページほどの短いワンショット作品です。しかし読み切りという形式ながらその内容はきわめて示唆的で、強いポテンシャルを秘めていると感じました。長らく一部ファンダムの嘲笑や嫌悪の対象となってきたジャー・ジャー・ビンクスというキャラクターの“知られざる活躍”を描く物語として、本作は非常に誠実、かつ挑戦的な一編だと思えるのです。
「UNSEEN」というサブタイトル
本作の鍵となるのは本作の副題であり、“見えないもの”を意味する「UNSEEN」という言葉です。この物語には文字通り「UNSEEN」たる存在が多数登場するのです。まず主人公ジャー・ジャー自身もまた、ある意味で“見えない存在”として扱われてきた人物です。
彼は『エピソード1/ファントム・メナス』でナブー人とグンガン族の橋渡しを担い、『エピソード2/クローンの攻撃』ではクローン戦争開戦や後の銀河帝国設立へと繋がる非常時大権授与の動議を提出するという、銀河史に深く関わる行動をとりました。その歴史的影響は決して小さくありません。
しかし現実のファンダムにおいては、彼は長らく「場違いな道化者」として軽視されてきました。存在は見えているのに、真剣に見られてはいない。価値を認められていない。
かく言う私自身もいわゆるプリクエル世代に属しますが、かつての私にとっても彼は「別に注目しなくてもいい存在」でした。見えてはいるが、視界の外に置いていたキャラクターだったのです。もちろん当初から根強いファンも存在したジャー・ジャーですが、それでもファンダムの大多数にとって、彼はまさに“UNSEEN”と言える存在だったでしょう。
本作はそんなジャー・ジャーが、メタ的には自身の”分身”と言えるカレラン・ベクに導かれて、とある豊かな惑星の暗部で自らの「罪」を目の当たりにすることから始まります。


二つ目のUNSEEN:法による搾取
本作の舞台となるのは豊富な地下資源を持つ惑星URUBAI。そこで働く採掘労働者たちが二つ目の「UNSEEN」です。彼らは非常に苛酷な労働を強いられていますが、タトゥイーンの奴隷のように共和国の法の外にあるが故の悲劇に見舞われているのではありません。彼らは共和国の法によってこそ、過酷な労働を強いられているのです。

ジャー・ジャーが提出した非常時大権の動議はクローン戦争開戦と、それに伴う軍備拡張を招きました。当然その裏では軍需資源が無尽蔵に必要とされ、URUBAIの労働者たちを守る法は「非常事態」の名のもとに緩められ、「国家のため」の労働搾取に喘いでいたのです。彼らは法の外にいるのではなく、法の内側で追い詰められているのです。追い詰められているのは労働者ばかりではありません。URUBAIという惑星そのものもまた、苛酷な採掘によって大きく疲弊し、このままでは星の核がメルトダウンを迎えようとしているというのです。
この事実はジャー・ジャーを激しく打ちのめします。自分の「善意に基づく軽挙」は、具体的に誰を傷つけたのか。本作冒頭において、彼はそれを痛いほど実感するのです。そしてそんなジャー・ジャーに対し”分身”たるカレランは、贖罪の機会を与えようとするのでした。
…というのがこの物語の骨格となります。
果たしてカレランの提案とは?
ジャー・ジャーはそれとどのように向き合い、自らの”過ち”と向き合うのでしょうか?

※ここからはネタバレ事項も含めつつ、本作のテーマと魅力に言及して行きますのでご注意ください。
第三の「UNSEEN」:フラクタル・ラジオ
カレランが提案したのは、URUBAIの窮状を最高議長や元老院に訴える代弁者となること。それによって苛酷な労働と度外れな採掘をやめさせ、人々と星を救ってほしいというのです。しかし物語はある新技術の存在によって転機を迎えます。
それはこの地で新たに発見されたCYPHRISTALと呼ばれる鉱石を利用した「フラクタル・ラジオ」という新たなる通信技術。ドラマ『アンドー』でルーセン・レイエルを始めとする反乱者たちが使用していたのが初出となる使用簡便・追跡困難、つまり敵にとって「UNSEEN」となる通信を可能とするものであり、のちに反乱勢力を支えた重要な技術の一つです。

しかしクローン戦争劈頭にある物語当時では、この重要な軍事技術は両陣営にとって脅威でした。URUBAIに滞在していた「フラクタル・ラジオ」の創始者であるエンジニアは何者かが派遣した賞金稼ぎによって命を狙われ、ジャー・ジャーとカレランはこのエンジニアを守るため大立ち回りを演じ、それが本作のアクション・シーンを担います。
この場面で命を狙われるエンジニアの名は、なんとミラ・ブリッジャー。アニメ・シリーズ『反乱者たち』の主人公エズラの母親であり、帝国への反対運動によって帝国に弾圧された彼女こそが、じつは地下的抵抗の技術的基盤を支えた存在でもあったという接続は、物語の歴史を静かに縫い合わせるものと言えるでしょう。

そしてそんな彼女を守ることに功あったジャー・ジャーは、銀河を圧制に導いた帝国樹立を支えた土台を築く手助けをしてしまったと同時に、それへの抵抗を実現した反乱軍を支えた土台を築く手助けをもしたことになるのです。

最後のUNSEEN:反乱の狼煙
本作の最後の「UNSEEN」となるのは人々の「見えざる繋がり」です。
命からがらコルサントに帰りついたジャー・ジャーは事の顛末をパルパティーンに報告。快く耳を傾け調査と対処を約束する最高議長でしたが、深い反省を経たジャー・ジャーはもはや無垢なお人好しではありませんでした。滑らかな言葉の裏に計り知れない野心を嗅ぎ取ったジャー・ジャーはその危うさを察知し、カレランに人々の団結と強力の必要性を訴え、意気投合した二人は堅い握手を交わし、今後の協力を誓い合うのでした。
自ら生み出してしまった強大な権力者を前に、密かな連帯を説くジャー・ジャーの言葉は、言うまでもなく後の反乱同盟軍、そしてフォース感応者を帝国の弾圧から逃がす地下ネットワーク「ヒドゥン・パス」の存在への繋がりを思わせるに十分です。一般にパドメやベイルら反パルパティーン元老院議員たちに端を発するとされる反乱運動の萌芽、そして未だ発祥不明とされる「パス」ですが、ここにきてこれまで蚊帳の外の観のあったジャー・ジャーの役割が大きくフィーチャーされることになりそうなのです。


このような全貌を持つこの物語を、ワンショットの読み切りとしてしまうにはあまりに惜しい、と私は思います。銀河帝国樹立へとつづく長い導火線に火をつけたに等しいジャー・ジャーの軽挙が招いた罪は極めて重いものです。しかし本作において、彼は結果的に帝国支配を覆すことになる「見えない連帯」を構想した人物の一人として名を挙げたのです。もしも今後、彼が搾取される「UNSEEN」たちと向き合い、「UNSEEN」なネットワークを通じて誰かを救うという道を歩んで行くとしたら、その物語はまさに壮大な「贖罪の物語」となり得るのではないでしょうか。
そうなればジャー・ジャー・ビンクスという存在は、独裁者の歯車となった「愚かな道化」から、それを悔い、十字架を背負いつつ全力でそれに抗った希望の象徴の仲間入りを果たすかもしれないのです。

「UNSEEN」をUNLOCKするスター・ウォーズ
思えばスター・ウォーズ フランチャイズは数多の「UNSEEN」たちの可視化によってその世界を広げてきました。映画本編でほんの一瞬スクリーンをよぎったに過ぎない人々が、多くのスピンオフ作品群によってその顔に目鼻を与えられ、色彩を施され、陰影をつけられ、あるいは魅力あるキャラクターに、あるいは思わぬ歴史的役割を担っていったのでした。
それを単に「商業主義による見境なさ」と断じることは簡単であり、またそういった側面があることも否定できないでしょう。しかし、仮にもスター・ウォーズというコンテンツを愛する者の端くれとしての自負を持つ私としては、「儲けのために見境なくキャラを再利用する」という商業主義もまた、「この物語において取るに足らないキャラクターは誰一人いない」という解釈を取る方が、斜に構えるよりもよほど良い楽しみ方ではないかと考えます。
本作におけるジャー・ジャーもまた、安易なキャラ復権の恩恵にあずかったというよりも、これまで顧みられなかった「UNSEEN」が、”未だ語られていなかった”に過ぎない「見えざる者」の一員として、遅ればせながらその輝きを放ち始めたと言えるのではないでしょうか。だからこそ私は、この物語が一度きりで終わるのではなく、今後も続いて行くことでよりその掘り込みを深めて行ってくれることを期待したいのです。


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